50 / 58
第一章
第50話 異様な気配
しおりを挟む
宿に戻ると、リナシーたち三人が泣きながら抱き合っていた。
こういう姿を見れるなら、オレも頑張った甲斐があったというものだ。
しかし、オレがユニット交換で戻ってきたのに気付くと、あわてて土下座のような態勢になってしまった……。
「あっ!? レスカ様!! ありがとうございます!! 本当に、本当になんてお礼を言えばいいか……」
な、なんか異世界でエルフに土下座されている状況があまりにもシュールで、不謹慎と思いつつも思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「ははは。いや、やるべきことをしただけだ。気にするな。それより再会したばかりで悪いんだが、リナシーは急いで北の大森林の魔物のことをガンズに伝えてくれないか」
「あっ、はい! もちろんです!」
それからオレは、北の大森林の魔物たちを映し出しているユニットビューと、その周辺の表示に切り替えたクオータービューを可視化して、リナシーにできるだけ詳しく状況を説明した。
「こ、こんな数の魔物が、街に押し寄せたら大変なことに……」
「あぁ、オレの方で対処してみるが、冒険者ギルドや騎士団などにも協力を仰いで対応を検討してくれ」
さすがにオレ一人では数が多すぎる。
すべての魔物がオレに向かって来てくれるのなら何とかなると思うのだが、一匹残らず倒すとなると難しいだろう。
「わかりました。今から急いでギルドに行ってきます!」
「あぁ、頼む。それからミュールとソーシャはもし疲れているなら、ここで好きなだけ休んでくれてかまわない。お腹が空いているなら何か料理でも注文してくれ」
オレがそう言うと、リナシーが「これ以上は……」と断ろうとしたようだが、ミュールとソーシャの二人の喜ぶ声にかき消されていた。
「え!? いいの!! 私こんな綺麗で素敵なお部屋はじめて!」
「やった~♪ お腹ぺこぺこだったの~! ねぇねぇ! 何頼んでもいいの!!」
「ちょ、ちょっと二人とも! これ以上レスカ様にご迷惑をおかけしては……」
「ははは。まぁ今日ぐらいいいじゃないか。それから二人にはこれを。ジュースみたいに美味しい回復薬だ」
パピヨンエレメントの鱗粉効果で回復したと思うが、念のために回復薬を渡しておこう。
それにのどの渇きも潤せるし、何より美味しいからな。
あ、それならリナシーにも渡しておくか。
「「ありがとう!」」
「え? 私にもですか!?」
リナシーは自分まで貰えないと最初は固辞しようとしたが、このあとギルドまで急いで行って貰う必要がある。
二人を探し回っていてまともにご飯も食べていないんじゃないかというと、図星だったようでなんとか受け取ってくれた。
「じゃぁ、オレはもう一度アジトに戻って召喚されたプレイ……魔神の眷属との決着をつけてくる」
実際には戦うつもりはないのだが、眷属と話し合うとか言うと変に思われると思い、こういう言い回しにしておいた。
「魔神の眷属……わ、わかりました。レスカ様のことですから大丈夫だと信じてますが、お気をつけて」
「あぁ、大丈夫だ」
戦闘になったとしても同じプレイヤーには負けるつもりはない。
不敗のレスカの異名は対プレイヤーも含まれるからな。
「お兄ちゃん、行っちゃうの?」
「え~! 一緒にご飯食べよ?」
う……なかなか魅力的なお誘いだが、今はさすがにそういう場合じゃない。
「リナシーは冒険者としてのオレの担当なんだ。だからまた会えるだろうし、その時にでも美味しいご飯でも一緒に食べような」
「そうなんだ!」
「絶対だよ! 美味しいご飯!」
ソーシャの方は少し食いしん坊なのかな?
まぁ今回の件が終わったら、キューレやリナシーも一緒に美味しいものでも食べに行くか。
「それじゃぁ行ってくる」
「「いってらっしゃい!」」
「本当にお気を付けて!!」
オレは軽く右手をあげて別れの挨拶をすると、アジトに残してきたピクシーバードのうちの一羽を牢の外に移動させ……。
【コマンド:ユニット交換】
三人に見送られながら、もう一度アジトへと戻ったのだった。
◆
暗転後、今度は牢屋の扉の前に移動したオレは、先ほどまでは感じなかった異様な気配を感じ取っていた。
「なんだ……? さっきまではこんな……はっ!? このアラートは!?」
この世界にきてあがった感覚が何かを感じ取ったので、集中して気配を探ろうかと思ったのだが、視界の隅に表示されたアラートに目を見開くことになった。
「くっ!? 間違いない! ユニットが撃破された時のアラートだ!」
オレは気を取り直し、すぐさまアラートに焦点を合わせると、やられたユニットを確認した。
「やられたのは儀式の間のアダマンタイトナイトか!」
あわててクオータービューに目を向けると、儀式の間にさっきまではなかった何かの巨大な影が映し出されていた。
これは……初めて遭遇した魔物のときの表示だ。
いや、ファストトラベルのマーカーなどはすべてリセットされてしまっていたし、まだ断定するのは早い。
あくまでもこの世界で初めて遭遇した……いや、ゴブリンなどの他の魔物ではこんな表示にはなっていない。
やはりゲーム時代を通して初めて遭遇する魔物だということだろう。
オレは警戒レベルをさらに一段階あげながら、今度はキューレのユニットビューに映像を切り替えたのだった。
こういう姿を見れるなら、オレも頑張った甲斐があったというものだ。
しかし、オレがユニット交換で戻ってきたのに気付くと、あわてて土下座のような態勢になってしまった……。
「あっ!? レスカ様!! ありがとうございます!! 本当に、本当になんてお礼を言えばいいか……」
な、なんか異世界でエルフに土下座されている状況があまりにもシュールで、不謹慎と思いつつも思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「ははは。いや、やるべきことをしただけだ。気にするな。それより再会したばかりで悪いんだが、リナシーは急いで北の大森林の魔物のことをガンズに伝えてくれないか」
「あっ、はい! もちろんです!」
それからオレは、北の大森林の魔物たちを映し出しているユニットビューと、その周辺の表示に切り替えたクオータービューを可視化して、リナシーにできるだけ詳しく状況を説明した。
「こ、こんな数の魔物が、街に押し寄せたら大変なことに……」
「あぁ、オレの方で対処してみるが、冒険者ギルドや騎士団などにも協力を仰いで対応を検討してくれ」
さすがにオレ一人では数が多すぎる。
すべての魔物がオレに向かって来てくれるのなら何とかなると思うのだが、一匹残らず倒すとなると難しいだろう。
「わかりました。今から急いでギルドに行ってきます!」
「あぁ、頼む。それからミュールとソーシャはもし疲れているなら、ここで好きなだけ休んでくれてかまわない。お腹が空いているなら何か料理でも注文してくれ」
オレがそう言うと、リナシーが「これ以上は……」と断ろうとしたようだが、ミュールとソーシャの二人の喜ぶ声にかき消されていた。
「え!? いいの!! 私こんな綺麗で素敵なお部屋はじめて!」
「やった~♪ お腹ぺこぺこだったの~! ねぇねぇ! 何頼んでもいいの!!」
「ちょ、ちょっと二人とも! これ以上レスカ様にご迷惑をおかけしては……」
「ははは。まぁ今日ぐらいいいじゃないか。それから二人にはこれを。ジュースみたいに美味しい回復薬だ」
パピヨンエレメントの鱗粉効果で回復したと思うが、念のために回復薬を渡しておこう。
それにのどの渇きも潤せるし、何より美味しいからな。
あ、それならリナシーにも渡しておくか。
「「ありがとう!」」
「え? 私にもですか!?」
リナシーは自分まで貰えないと最初は固辞しようとしたが、このあとギルドまで急いで行って貰う必要がある。
二人を探し回っていてまともにご飯も食べていないんじゃないかというと、図星だったようでなんとか受け取ってくれた。
「じゃぁ、オレはもう一度アジトに戻って召喚されたプレイ……魔神の眷属との決着をつけてくる」
実際には戦うつもりはないのだが、眷属と話し合うとか言うと変に思われると思い、こういう言い回しにしておいた。
「魔神の眷属……わ、わかりました。レスカ様のことですから大丈夫だと信じてますが、お気をつけて」
「あぁ、大丈夫だ」
戦闘になったとしても同じプレイヤーには負けるつもりはない。
不敗のレスカの異名は対プレイヤーも含まれるからな。
「お兄ちゃん、行っちゃうの?」
「え~! 一緒にご飯食べよ?」
う……なかなか魅力的なお誘いだが、今はさすがにそういう場合じゃない。
「リナシーは冒険者としてのオレの担当なんだ。だからまた会えるだろうし、その時にでも美味しいご飯でも一緒に食べような」
「そうなんだ!」
「絶対だよ! 美味しいご飯!」
ソーシャの方は少し食いしん坊なのかな?
まぁ今回の件が終わったら、キューレやリナシーも一緒に美味しいものでも食べに行くか。
「それじゃぁ行ってくる」
「「いってらっしゃい!」」
「本当にお気を付けて!!」
オレは軽く右手をあげて別れの挨拶をすると、アジトに残してきたピクシーバードのうちの一羽を牢の外に移動させ……。
【コマンド:ユニット交換】
三人に見送られながら、もう一度アジトへと戻ったのだった。
◆
暗転後、今度は牢屋の扉の前に移動したオレは、先ほどまでは感じなかった異様な気配を感じ取っていた。
「なんだ……? さっきまではこんな……はっ!? このアラートは!?」
この世界にきてあがった感覚が何かを感じ取ったので、集中して気配を探ろうかと思ったのだが、視界の隅に表示されたアラートに目を見開くことになった。
「くっ!? 間違いない! ユニットが撃破された時のアラートだ!」
オレは気を取り直し、すぐさまアラートに焦点を合わせると、やられたユニットを確認した。
「やられたのは儀式の間のアダマンタイトナイトか!」
あわててクオータービューに目を向けると、儀式の間にさっきまではなかった何かの巨大な影が映し出されていた。
これは……初めて遭遇した魔物のときの表示だ。
いや、ファストトラベルのマーカーなどはすべてリセットされてしまっていたし、まだ断定するのは早い。
あくまでもこの世界で初めて遭遇した……いや、ゴブリンなどの他の魔物ではこんな表示にはなっていない。
やはりゲーム時代を通して初めて遭遇する魔物だということだろう。
オレは警戒レベルをさらに一段階あげながら、今度はキューレのユニットビューに映像を切り替えたのだった。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?
Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」
私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。
さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。
ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【短編】冤罪が判明した令嬢は
砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。
そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる