上 下
49 / 58
第一章

第49話 姉妹

しおりを挟む
 一瞬の暗転後、オレは時精霊の隠れ家の上品な部屋の中から、ジメジメした地下牢の中へと転移した。

 映像では伝わってこなかったツンとしたかび臭いにおいが鼻につき、こんな場所に攫ってきた人を閉じ込め、最後には生贄にするビアゾの奴らに怒りを覚える。

 そんな部屋の中央、そこにはリナシーの妹、たしかミュールとソーシャと言ったか、二人が意識を失って倒れていた。

「可哀そうに……しかし、どうするかな。このまま運べたら良かったんだが」

 他の人に対してユニット交換を行うには、その人物の了承を得る必要があるので起こさなければいけない。

 だがその前に……こちらにもユニットを何体か配置しておこう。
 宿に戻ったあとに何かあった場合に、こちらにユニットを送り込めるようにするためのマーカー目的だ。

【ユニット召喚:ピクシーバード】

 一枠で五羽召喚出来る上に姿を消す事ができるピクシーバードは、こういう時にも非常に使い勝手がいい。

 呼び出したあと、透明化させて待機させておく。

「ん~ざっと見たところ怪我などは負っていないようだが、念のために回復もしておくか」

 倒れている二人は少し衣服は汚れているが、特に怪我らしいものは見当たらない。
 リナシーをそのまま幼くしたような綺麗な顔も少し土がついているだけだ。

 だが、連れ去られるときに打撲や擦り傷はどこかで負っているかもしれないし、念のために回復しておこう。

 今回は回復薬ではなくユニットの回復能力を使おう。
 いきなり知らない奴がこれを飲めと言って回復薬を渡しても、なかなか飲んで貰えないかもしれないからな。

【ユニット召喚:パピヨンエレメント】

 ピクシーバードを呼び出す際に現れるものと似た、ちいさな積層魔法陣が出現するとひらひらと三匹の蝶があらわれた。

 パピヨンエレメントは蝶の姿をした精霊で、この鱗粉に触れると徐々にHPが回復する効果がある。
 オレはすぐにジェスチャー操作で三匹を倒れている二人のもとへと向かわせた。

 すると……鱗粉が触れると二人の身体が薄く淡く発光し、すぐにその効果が現れたようだ。

「んん……ここは……」

「ふぁ~……あれ? ここどこ?」

 どうやって連れ去られたのかわからないが、まだ目覚めたばかりで意識がはっきりしないのだろう。
 なんだかのんびりした雰囲気で、ミュールとソーシャは同時に大きく伸びをした。

「ミュール、ソーシャ大丈夫か? 痛いところなどはないか?」

「うん、だいじょぶー……ん?」

「なんかぽわぽわして気持ちいい~……ん?」

 オレもパピヨンエレメントでの回復は試してみたが、日光浴をしてるような暖かさを感じるんだよな。

 しかし、気持ちよさそうな表情から一変。
 遅れてオレを認識すると驚きの声をあげた。

「「だだだだだだだだだだだ、だれ!?」」

 急に話しかけたから驚いて焦るのはわかるが、それにしても「だ」が多い……。

「危害を加えたりしないから落ち着いてくれ。オレは君たちのお姉さん、リナシーに頼まれて助けにきた冒険者だ」

「「え? リナシーお姉ちゃんに!?」」

 双子という訳ではないようだが、シンクロするように言葉を発しており、姉妹なのだなとあらためて思う。

「あぁ。ミュールとソーシャは今自分が置かれている状況は理解しているか?」

「え……うん。街で変な奴らに捕まって……」

「でも、そこから記憶がないの」

 攫われてからずっと意識がなかったのか。

 なにか魔法か薬品などを使われたのだろう。
 しかし捕まっている間中、ずっと怖くて怯えているよりはまだマシだったかもしれないな。

「そうか。意識がなかったのか。二人はそいつらに捕まってこの牢屋に閉じ込められていたんだが、オレが助けに来たからもう大丈夫だ」

「あ、そう言えばここ牢屋だ!?」

「本当だ!?」

 二人は今になってようやくここが牢屋だと気付いたようだ。
 本来なら救出中だし大きな声をあげられると困るのだが、もう儀式の間にいるビアゾの奴らはほぼ制圧し終わっているし、別にかまわないか。

「あぁ、それでな。今から君たちのリナシーお姉さんが待つ場所へ特殊な魔法で飛ばしたいんだが、了承してくれるか。君たちを助け出すためには了承が必要なんだ」

「え? うん」

「いいけど……?」

 どういうことかイマイチ理解できていないようで、二人はコトンと首をかしげている。

 だが、了承を得る事ができた。
 とりあえずこれでユニット交換の対象にできるはずだ。

「でも、魔法って?」

「あぁ、転移魔法のようなものなんだがわかるか?」

「テイ魔法? わかんない……」

「一瞬で離れた場所にいるリナシーお姉ちゃんの元に移動できる魔法なんだ。瞬きする間に終わるから、ちょっとの間だけじっとしていて貰えるかな? オレもすぐに後を追うから」

「うん……よくわかんないけど、じっとしていればいいんだね」

「座ってていいの? 立った方がいい?」

 二人ともさっきまで意識を失って倒れていたので、まだ座ったままだ。
 急に立ってふらついても困るし、そのままでいいだろう。

「いや、そのまま座ってて大丈夫だ。じゃぁ、一瞬でリナシーのいる部屋に移動するから驚かないようにな」

「うん~わかった」

「うん。驚かない」

 冒険者ギルドで働いているリナシーならともかく、やっぱりこの世界の普通の子に転移について話しても理解してもらうのは難しいようだ。

 でも、わからないなりに、素直に了承してくれて助かった。

「それでは行くよ。まずはミュールから」

【コマンド:ユニット交換】

「うわっ!? ミュールが消えちゃった!?」

「あぁ、ミュールはもうリナシーのところにいるよ。ほら」

 オレは安心させるために宿に残してきたピクシーバードのユニットビューを可視化してソーシャに見せてやった。

「すごい!? なにこれ!? 鏡みたい!?」

「あぁ、これも魔法なんだ。でも、ほら、リナシーとミュールが抱き合っているのが見えるだろ?」

「うん! お姉ちゃんだ!!」

 急に消えて怯えて拒否されたら飛ばせなくなるかもしれないからな。
 でも、これで安心してくれたはずだ。

「じゃぁ、次はソーシャの番だ。いくよ」

「う、うん!!」

【コマンド:ユニット交換】

 オレは出しっぱなしだったユニットビューにソーシャが現れたのを見て、これで無事に二人を救出できたとホッと胸を撫でおろした。

 毒を撒かれたりなどしないかと不安だったが、儀式の間の方もビアゾの奴らの制圧は終わったようだ。

「あとは眷属……いや、プレイヤーだけだが、ここはいったんオレも宿に戻っておくか」

 最悪、オレが直接プレイヤーと会って話そうと思っているが、リナシーには北の大森林の魔物の大群のことを冒険者ギルドに報告して貰わなければならない。

【コマンド:ユニット交換】

 オレはプレイヤーのことが気になりながらも、まずは宿へと戻ることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

頭が花畑の女と言われたので、その通り花畑に住むことにしました。

音爽(ネソウ)
ファンタジー
見た目だけはユルフワ女子のハウラナ・ゼベール王女。 その容姿のせいで誤解され、男達には尻軽の都合の良い女と見られ、婦女子たちに嫌われていた。 16歳になったハウラナは大帝国ダネスゲート皇帝の末席側室として娶られた、体の良い人質だった。 後宮内で弱小国の王女は冷遇を受けるが……。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

処理中です...