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第一章

第36話 情報

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「自分の名はゾック……ゾック・フォン・ベルジールだ」

 まじか……ということは……。

「あ~なんだ……その名を持つという事は……?」

「あぁ、俺は国王様の腹違いの弟だ」

「……まじか……」

 今度は心の中ではなく、思わず口から呟きが洩れてしまった。

 さっきも「国王様から勅命を受けた」と言うのを聞いて、どうしたものかと思っていたが、もうこれ……どうにもならないんじゃないか。

 そもそもこの世界に来てからの王族との遭遇率が高すぎるぞ……。

「こんな生殺与奪を握られている状況で俺が心配するなというのもおかしな話だが……国に害するつもりがないのなら、こちらも悪いようにするつもりはない」

「そ、そうか。さっきも言ったがオレはこの国が結構気に入っている。今後も友好的に付き合えるならありがたい」

 そもそもキャンペーンが続いているのだ。
 この国を離れるのは避けたい。

 もう黙っておいてくれというのは無理だろうが、友好的な話に持っていけるように協力を頼むのはなんとかなりそうか?

 こちらもいざって時に手を貸すってことなら、これだけの力をみせたのだから王国側にとっても悪い話ではないだろう。

「あぁ、そもそもこれほどの力を持っているレスカ殿を害することなどできそうにない。こちらとしてもそれ以外の道など考えられないだろう。国王様も友好関係が結べるなら納得するはずだ」

「本当はここまでの力を見せるつもりじゃなかったんだがな。オレも待ち伏せに気付くのが遅れてしまい、あせってつい力を使ってしまったよ。大したものだ」

 かなり油断があったのは確かだが、それでもそれなりの周囲確認は行っていた。
 それを掻い潜って一瞬とはいえオレたちを包囲したのだから本心からすごいと思う。

 クオータービューは小さく半透明にして視界の隅に常にAR表示してあるが、隠密系の戦技などを使って隠れられた場合は表示されなくなる。

 こちらも見破る系統の能力を持つユニットで周囲を確認すればいいだけの話だが、ピクシーバードの場合はある程度近づかないと発見できない。
 デミファルコンやヘルキャットのような捕食者に類するユニットなら、結構先まで見抜けるんだが、そこまで必要ないと思っていた。

 完全に油断だな。

 本当に命を取り合うような敵と対峙する前に気付けて良かったと思っておこう。

「ははは。それをレスカ殿に言われてもな」

「まぁそう言うな。ここまでの力を見せたんだ。もう隠す事もないし、何か国で困った事があれば力になるのもやぶさかではない。当面はこの国で冒険者として生活するつもりだし、指名依頼を出してもらってもいい。あ……だけど、国にこき使われるのはごめんだぞ」

 本当は自分の能力の把握をすべて終わらせて、この世界のことをもう少し知り、もっとしっかりとした生活の基盤を築けてからと思っていたんだが仕方ない。

 ただ、ずっと能力を隠しておくつもりはなかったし、必要に迫られれば使おうと決めていた。
 そのお陰で今回も瞬時に行動に移る事ができた。

 頃合いだったんだと思うことにしよう。

「そうか。冒険者は隠れ蓑ってわけではなく、本当に活動していくつもりなのか」

 冒険者登録を終えた時にキャンペーンが進んだからな。
 なにか依頼に関するものでまた進行する可能性が高いと思ってる。

 しかし、依頼を受ければなにかしらの反応があるのではと思って普通に依頼をこなしていたのだが、あれから何も変化がない。

 もしかすると、こういう指名依頼などでキャンペーンが進行するのではないかという期待もあったりすのだが、まぁそこまで話す必要もないだろう。

 そもそも説明するのが難しいしな。

「そうだな。当面は冒険者を続けていくつもりだ。雑用のような依頼はごめんだが、よほど変なものでない限りは指名依頼をくれれば受けるぞ」

「そういうことなら、これから是非ともこの力を貸してほしいところなのだが……まずはこの状況をなんとかして貰えないか?」

 そう言えば、部隊員全員に剣を突きつけている状態だった。

「ははは。それぐらいならお安い御用だ。ただ、最低限の戦力は残させてもらうぞ?」

「もちろんだ。それでかまわない」

 オレはコマンドとジェスチャー操作で取り囲みはそのままに剣を下ろさせ、三〇〇体を残して竜牙ドラゴン・トゥース・ウォリアーを送還した。

「感謝する。しかし……それにしても凄まじいまでの力だな。伝説に聞く異邦人をも凌駕している……」

「ほ~異邦人にまつわる伝説があるのか。……そうだ! 今後、依頼など協力するかわりに、そのあたりの情報を提供してもらうことはできないか?」

 もしかするとオレがこの世界に来る原因になったキャンペーンに関して、過去に何か似たような話が伝わっているかもしれない。
 それに直接的にそのような話がなかったとしても、情報を得る事をきっかけとしてキャンペーンが進行するかもしれない。

 お金を必要以上に貰っても使い道もないし、この世界に来て圧倒的に不足している情報の提供をお願いした方がこちらのメリットも大きい。

「情報か……俺の一存では判断できないが、おそらく交渉次第ではきっと許可は下りるだろう」

「そうか。それなら尚更これからよろしく頼む」

 オレはそう言って右手を差し出すと、ゾックと握手を交わしたのだった。
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