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第一章

第30話 依頼完了

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 ヘルキャットの戦技『地獄の爪ヘルクロー』。
 その発動状態でひっかかれた対象は、任意の時間経過後、その傷口が燃え上がる。

 正面から戦闘をしている時は即時発動させ、暗殺や今回のような作戦の時は一定時間経過後に発動させるなど、いろいろなケースに対応ができるとても有能な戦技だ。

 ただ、傷口が燃え上がるタイミングは攻撃時に設定されていた時間が採用されるため、オレはユニットビューでヘルキャットの視界を確認しながら、ちょうど戦闘開始してから一分後に発動するように常時時間を設定しなおしていた。

 なかなか難しい操作だったが、うまく一斉に発動してプレデターキャットの逃亡を防ぐことができたので、まぁ今回の作戦は及第点だろう。

 オレはクオータービュー上で八つの光の粒子となって消えていくプレデターキャットを眺めながら、ひとり満足していた。

「主さま。お見事です!」

「あぁ。以前と同様にユニット操作ができたし、概ねいい感じだった」

 一つ気になったのは、ヘルキャットのひっかきが思ったよりもダメージを与えてしまっていたようで、もう少し、それこそあと数秒長く戦っていれば、プレデターキャットたちが逃げ出しそうだったことだろうか。

 どうもゲーム時代よりも、敵がかなり弱くなっているような気がする。

 このあたりの体に染みついてしまった強さの感覚を修正していく必要がありそうだ。

「これで依頼はすべて完了ですね! おめでとうございます!」

「そうだな。問題なく・・・・達成できてホッとしたよ」

 ちょっとばかし森林の大規模破壊が起こった気もするが、ここは魔物の巣窟だし問題ないだろ……。

 とにかく今は、初めての依頼をすべて完了させることが出来たのだから、そのことを喜んでおくことにする。

「離れていても自動回収の方も問題ないようだし、引き上げるか」

「はい。そろそろ戻らないと、ナイトメアの速度だと閉門に間に合わなくなってしまいます」

 夜になると王都の門はすべて閉じられ、入ることも出ることもできなくなる。
 魔物がいるこの世界では普通のことだ。

 高い夜間通行料を払えば通用門の出入りはできるのだが、小さな通用門を通れるのは人か騎馬、小型の騎獣までなので、大型の騎獣や馬車は通る事ができない。

 ナイトメアの場合は送還すればいいだけの話ではあるが、わざわざ高い通行料を払う必要もないだろう。

「ファストトラベルを使ってもいいんだが、まだ間に合う時間だし普通に戻るとしよう」

「はい。ファストトラベルも失われた技術のようですし、確認が終わるまではその方が良いかと」

 そう。ファストトラベルを使えば王都まで一瞬で戻れるはずなのだ。
 だけど、気軽に試してみるわけにもいかなかった。

 この世界の王都に入ったことでマークがされて・・・・・・・転移できる飛べるようになったはずだが、王都のどこに飛ぶかがわからないからだ。

 街の場合は、その街の広場や噴水などのランドマークに飛ぶことが多かった。
 でも、王都ベルジールはすっかり様変わりしてしまっていて、ファストトラベルポイントだった噴水は無くなってしまっていた。

 最初に試すなら、ファストトラベルポイントが固定のダンジョンにしようと思っている。
 ダンジョンの場合はすべて入口付近に固定されているからだ。

「じゃぁ、帰るとしょう」

【ユニット召喚:ナイトメア】

 一度送還してしまっていたので、ナイトメアをふたたび召喚する。

 オレとキューレはナイトメアの背に飛び乗ると、王都へと向けて駆け出したのだった。

 ◆

 無事に閉門までに王都に戻ることができ、そのまま冒険者ギルドで依頼の達成報告手続きをとっていたのだが……。

「えっ? ええええ~⁉ ほ、本当なんですか!?」

 リナシーの驚く声によって、またもや注目を浴びてしまっていた。

「あ、あぁ……特に問題なく終わったぞ?」

 頭に浮かんだ自然破壊された森の一角のイメージを全力で頭から追い出しつつそう答える。

「も、問題なくって……もう全部終わらせたんですか!?」

「あぁ、疑うならギルドカードを確認してくれ」

 そう言ってオレとキューレは、リナシーにギルドカードを渡す。

「ほ、本当に討伐完了してる……いったいどうやって……」

「どうやってって、普通にナイトメアに乗って大森林に行って、普通に三つの討伐対象を殲滅してきただけだが?」

「あの? 普通って言葉の意味知っていますか?」

 な、なんかリナシーがどんどん遠慮なくなってきている気がするな……。
 まぁちょっと普通じゃない出来事はあったと思うが、神罰アレはバレていないわけだし、そこまで言われるほどだろうか?

「まず……朝の開門と同時に一番足の速い騎獣を使って大森林の入口まで行って、なにもせずにすぐに引き返したとしても、それでも閉門までに戻ってくるのはギリギリ間に合うかどうかって感じなんですが?」

 そ、そうなのか……。
 そんなに距離、あったかな……。

「それで……普通に馬に乗ってって言いましたっけ?」

「あぁ……オレにとっては普通だったんだが……オレはほら? 異邦人だろ? 馬は馬でもすごい足の速い馬の魔物を召喚したんだよ」

「なるほど……レスカさまの召喚魔法によって呼び出された強力な魔物であればたしかに……でも、それを普通の一言で片づけられては困ります。報告はちゃんと正確に行っていただかないと私が報告書を書けません!」

 そ、そうか……依頼の達成報告などは受付嬢が報告書を書いて纏めるのか。
 それなら、機嫌を損ねてもしかたないか……。

「そうか。それはすまなかった。気を付ける……つもりだが、オレはちょっと一般的な冒険者の基準がわからない。これからももしなにかおかしなことを言ったら、悪いが今みたいに教えてくれ」

 リナシーにはこの際、冒険者の強さや一般人の常識を教えて貰おう……。

「はぁ……私も言い過ぎました。申し訳ありません。わかりました。これからはおかしな点は遠慮なく確認させていただきますね」

「あぁ、よろしくたのむ」

 しかしこのあと、報告の途中で話が何度も止まったのは言うまでもなかった……。
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