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第一章
第22話 時精霊の隠れ家
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結局、リナシーの説明のあとにガンズの方からもBランク向けとAランク向けの説明もあり、すべての話が終わるのに一時間ほどかかってしまった。
さすがにちょっと疲れた……。
この世界に来てからは高いステータスのお陰か肉体的にはまったく疲れを感じなくなっていたのだが、今回はいろいろあったので精神的にな。
「がははは! なんだ! あんな強いのにこんなことで疲れてるのか!」
「いや、疲れているのは昨日からいろいろ続いているせいなんだよ。そもそもオレは前衛じゃないんだ。でもまぁ、これで終わったんだろ?」
「おう! 今日から二人は高ランク冒険者だ! これからの活躍に期待してるぞ!」
「ほどほどに頑張るよ。まだこの街にも慣れていないしな」
ゲーム時代に所属していた国の王都だ。
本当なら一番慣れ親しんでいる街なのだが、三〇〇年という年月はその風景を一変させていた。
王城や貴族街の大きな屋敷などの中には見覚えのある建物もちらほら見られたが、一般的な石造りの民家や通いなれた店は無くなっており、道もかなり大規模な区画整理が行われたようで、オレの記憶にある街とはまったく異なるものとなっていた。
だから、もっとも慣れ親しんだ、まったく慣れていない街とも言える。
「そういや、昨日この王都にきたところだと言ってたな。どうしてこの街に来たんだ?」
「ん~ちょっと縁があってな」
「ほう……縁ね~。その縁とやらが気になるが、まぁ今は疲れているようだし聴かないでおくか!」
俺が気遣いできる男で良かったな? そう言って笑うガンズにオレは、苦笑いを返した。
「それで、もう帰っていいのか?」
「はい。一階までご案内いたします。レスカさま、キューレさん、これからどうぞよろしくお願いします」
オレとキューレの受付担当は、結局リナシーがすることになった。
ガンズは最初、もっとベテランをつけようかと思っていたようだが、オレたちに対しても物おじせずに話すリナシーを見て決めたのだそうだ。
「あぁ、こっちこそよろしく頼む」
ほんとによろしく頼む……出来ればオレに欠けているこの世界の常識なども教えてくれ……。
「近いうちに依頼を頼みたいから必ず顔を出せよ! 高ランクの依頼をこなせる奴が不足しているんだ!」
「あぁ、わかったわかった。近いうちにちゃんと顔を出す」
いろいろあったが、こうしてオレとキューレは冒険者となったのだった。
◆
冒険者ギルド一階に下りた時には、一斉に注目を浴び、また何か面倒に巻き込まれるのではないかと心配したが、みんな遠巻きにこちらを見ているだけでギルドから出るまで、声すらかけられなかった。
「はぁ……なんかどっと疲れたな……」
「主さま、大丈夫ですか? よろしければ私がお運びいたしましょうか?」
はこぶ? なにを……って、オレをか⁉
「いや! だ、だいじょうぶだ! 歩くぐらいまったくこれっぽっちも問題ない!」
慌てて断ると少し残念そうに上目遣いでこちらを見つめてきたが、そんなことをしてもダメなものはダメだ!
かわいいが、どこでそんな仕草を覚えてきたんだ……かわいいが……。
「それより教えてもらった宿に急ぐぞ。人気の宿だから早い時は夕方には満室になるみたいだしな」
ギルド長室を後にする前に、値段は気にしないからおすすめの宿を教えてくれと尋ねておいたのだ。
快適でサービスが行き届いていて、特に飯の美味しい宿をと。
それで教えて貰ったのが、この……。
「ここが勧められた宿『時精霊の隠れ家』か」
冒険者ギルドも三階建てのかなり大きな建物だったが、ここはそれ以上の大きさがありそうだ。
それに冒険者ギルドに勝っているのは大きさだけではない。
ギルドの飾りっ気のない建物と違い各所に彫刻のようなものが彫られ、花が飾られており、ドアの作りひとつとってもギルドとは正反対の華やかで、それでいて落ち着いた雰囲気をつくりあげていた。
「なかなか素敵な宿ですね」
「え? あ、あぁ、そうだな。思っていた以上に豪華だし綺麗な宿だ」
キューレがまさかそのような感想を口にするとは思っていなかったので、ちょっと驚いた。
しかし、想像していたものよりずっと凄いな。
宿というよりもホテルに近い印象だ。
ゲームでのベルジール王国は完全に中世ヨーロッパ風の街並みだったが、この宿も含めてもう少し近代的な作りの建物も見かけるようになっていた。
三〇〇年という長い時を経て、いろいろ文化や技術なども進歩しているのだろう。
ゆっくり外観を眺めていたくなる素敵な作りの宿だが、部屋に空きがあるか確認するのが先か。
「部屋が空いているといいんだがなぁ……」
オレも一目で気に入ったし、せっかくキューレも気に入ったようなので出来ればここに泊まりたい。
そのまま門をくぐり『時精霊の隠れ家』の建物の中へと入る。
「うわぁ……」
思わず自然にそんな声をあげてしまう。
内装も期待を裏切らない、いや、期待を遥かに超える素晴らしいものだった。
絵や彫刻に関してはオレはさっぱりわからないが、新緑をモチーフにしたような大きな絵がいくつも飾られ、さまざまな彫刻や家具、植物などがセンス良く飾られていた。
「主さま、あそこが受付ではないでしょうか」
キューレの言葉を受けて言われた場所へと視線を向けると、ロビーの左手にカウンターのようなものがあり、そこに執事風の服に身を包んだものが立っていた。
「あぁ、たしかにあそこのようだな」
オレは軽くキューレに礼を言って受付と思われる場所へと歩を進める。
そのままカウンター近くまで行くと、男は洗練された礼をしてから尋ねてきた。
「ようこそ『時精霊の隠れ家』へ。ご予約の方でしょうか」
所作のひとつひとつが洗練されている。
「いや、予約はしていない。あ、でも紹介状を貰っているんだ」
ガンズがギルド長室を出る前に、これをやると紹介状をくれていたのだ。
まぁガンズ曰く、異邦人だと言えば泊めてくれるだろうとは言っていたが。
男は紹介状を受け取ると、オレに断りをいれてから丁寧に封を切り中身を確認した。
「これはこれは。ガンズさまのご紹介でしたか。しかも異邦人さまなのだとか」
「あぁ、そうだ。それで部屋は空いているか?」
「はい。とっておきのお部屋をご案内させていただきます」
良かった……なんとか今日の寝床は確保できたようだ。
オレは堂々と振舞いながらも、これでようやく寛げそうだと、そっと安堵の息を吐いたのだった。
さすがにちょっと疲れた……。
この世界に来てからは高いステータスのお陰か肉体的にはまったく疲れを感じなくなっていたのだが、今回はいろいろあったので精神的にな。
「がははは! なんだ! あんな強いのにこんなことで疲れてるのか!」
「いや、疲れているのは昨日からいろいろ続いているせいなんだよ。そもそもオレは前衛じゃないんだ。でもまぁ、これで終わったんだろ?」
「おう! 今日から二人は高ランク冒険者だ! これからの活躍に期待してるぞ!」
「ほどほどに頑張るよ。まだこの街にも慣れていないしな」
ゲーム時代に所属していた国の王都だ。
本当なら一番慣れ親しんでいる街なのだが、三〇〇年という年月はその風景を一変させていた。
王城や貴族街の大きな屋敷などの中には見覚えのある建物もちらほら見られたが、一般的な石造りの民家や通いなれた店は無くなっており、道もかなり大規模な区画整理が行われたようで、オレの記憶にある街とはまったく異なるものとなっていた。
だから、もっとも慣れ親しんだ、まったく慣れていない街とも言える。
「そういや、昨日この王都にきたところだと言ってたな。どうしてこの街に来たんだ?」
「ん~ちょっと縁があってな」
「ほう……縁ね~。その縁とやらが気になるが、まぁ今は疲れているようだし聴かないでおくか!」
俺が気遣いできる男で良かったな? そう言って笑うガンズにオレは、苦笑いを返した。
「それで、もう帰っていいのか?」
「はい。一階までご案内いたします。レスカさま、キューレさん、これからどうぞよろしくお願いします」
オレとキューレの受付担当は、結局リナシーがすることになった。
ガンズは最初、もっとベテランをつけようかと思っていたようだが、オレたちに対しても物おじせずに話すリナシーを見て決めたのだそうだ。
「あぁ、こっちこそよろしく頼む」
ほんとによろしく頼む……出来ればオレに欠けているこの世界の常識なども教えてくれ……。
「近いうちに依頼を頼みたいから必ず顔を出せよ! 高ランクの依頼をこなせる奴が不足しているんだ!」
「あぁ、わかったわかった。近いうちにちゃんと顔を出す」
いろいろあったが、こうしてオレとキューレは冒険者となったのだった。
◆
冒険者ギルド一階に下りた時には、一斉に注目を浴び、また何か面倒に巻き込まれるのではないかと心配したが、みんな遠巻きにこちらを見ているだけでギルドから出るまで、声すらかけられなかった。
「はぁ……なんかどっと疲れたな……」
「主さま、大丈夫ですか? よろしければ私がお運びいたしましょうか?」
はこぶ? なにを……って、オレをか⁉
「いや! だ、だいじょうぶだ! 歩くぐらいまったくこれっぽっちも問題ない!」
慌てて断ると少し残念そうに上目遣いでこちらを見つめてきたが、そんなことをしてもダメなものはダメだ!
かわいいが、どこでそんな仕草を覚えてきたんだ……かわいいが……。
「それより教えてもらった宿に急ぐぞ。人気の宿だから早い時は夕方には満室になるみたいだしな」
ギルド長室を後にする前に、値段は気にしないからおすすめの宿を教えてくれと尋ねておいたのだ。
快適でサービスが行き届いていて、特に飯の美味しい宿をと。
それで教えて貰ったのが、この……。
「ここが勧められた宿『時精霊の隠れ家』か」
冒険者ギルドも三階建てのかなり大きな建物だったが、ここはそれ以上の大きさがありそうだ。
それに冒険者ギルドに勝っているのは大きさだけではない。
ギルドの飾りっ気のない建物と違い各所に彫刻のようなものが彫られ、花が飾られており、ドアの作りひとつとってもギルドとは正反対の華やかで、それでいて落ち着いた雰囲気をつくりあげていた。
「なかなか素敵な宿ですね」
「え? あ、あぁ、そうだな。思っていた以上に豪華だし綺麗な宿だ」
キューレがまさかそのような感想を口にするとは思っていなかったので、ちょっと驚いた。
しかし、想像していたものよりずっと凄いな。
宿というよりもホテルに近い印象だ。
ゲームでのベルジール王国は完全に中世ヨーロッパ風の街並みだったが、この宿も含めてもう少し近代的な作りの建物も見かけるようになっていた。
三〇〇年という長い時を経て、いろいろ文化や技術なども進歩しているのだろう。
ゆっくり外観を眺めていたくなる素敵な作りの宿だが、部屋に空きがあるか確認するのが先か。
「部屋が空いているといいんだがなぁ……」
オレも一目で気に入ったし、せっかくキューレも気に入ったようなので出来ればここに泊まりたい。
そのまま門をくぐり『時精霊の隠れ家』の建物の中へと入る。
「うわぁ……」
思わず自然にそんな声をあげてしまう。
内装も期待を裏切らない、いや、期待を遥かに超える素晴らしいものだった。
絵や彫刻に関してはオレはさっぱりわからないが、新緑をモチーフにしたような大きな絵がいくつも飾られ、さまざまな彫刻や家具、植物などがセンス良く飾られていた。
「主さま、あそこが受付ではないでしょうか」
キューレの言葉を受けて言われた場所へと視線を向けると、ロビーの左手にカウンターのようなものがあり、そこに執事風の服に身を包んだものが立っていた。
「あぁ、たしかにあそこのようだな」
オレは軽くキューレに礼を言って受付と思われる場所へと歩を進める。
そのままカウンター近くまで行くと、男は洗練された礼をしてから尋ねてきた。
「ようこそ『時精霊の隠れ家』へ。ご予約の方でしょうか」
所作のひとつひとつが洗練されている。
「いや、予約はしていない。あ、でも紹介状を貰っているんだ」
ガンズがギルド長室を出る前に、これをやると紹介状をくれていたのだ。
まぁガンズ曰く、異邦人だと言えば泊めてくれるだろうとは言っていたが。
男は紹介状を受け取ると、オレに断りをいれてから丁寧に封を切り中身を確認した。
「これはこれは。ガンズさまのご紹介でしたか。しかも異邦人さまなのだとか」
「あぁ、そうだ。それで部屋は空いているか?」
「はい。とっておきのお部屋をご案内させていただきます」
良かった……なんとか今日の寝床は確保できたようだ。
オレは堂々と振舞いながらも、これでようやく寛げそうだと、そっと安堵の息を吐いたのだった。
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