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【第53話:呪いの力】
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黒い塊となって転がる物言わぬ躯の横を駆け抜け、一息で男の前に躍り出ると、鞘ごと引き抜いた聖魔剣レダタンアで横薙ぎの一閃を放つ。
しかし、伝わってきたのは慟魔のそれではなく、まるで大きな岩でも殴ったかのような手のしびれだった。
「ぐっ!? いつの間に!?」
セグルスの方の中身が慟魔なのはわかっていたが、こいつは慟魔の中でも相当手練れのようだ。
オレが切り込んでくるのを察知すると同時に瞬時に強固な障壁を張って、オレの一撃を弾き飛ばしたのだ。
「下賤で分を弁えぬ愚か者がぁ! その身を悔い改めるがいい!」
人間蔑視の慟魔らしい発言だ。
そしてその言葉と共に現れたのは、天に昇るように蠢く無数の火鞭。
何もかもを焼き尽くすような赤を巻き散らし、燃え盛る火の鞭が放たれるが、オレも奴の挙動を先読みして、詠唱を開始していた。
≪黒を司る穢れの力よ、我が魔力を贄に干渉を拒絶する絶対の意志となれ≫
≪不干渉の煙霧≫
薄暗い靄がオレの周囲に満ちて、襲い来る火鞭を散らし、逸らす。
「なんだと!? 我が魔法を散らすとは!?」
この黒魔法は遠隔攻撃なら石や矢はもちろん、魔法でも余程強力なものでない限り、靄の壁に触れた瞬間散らしてしまう。
奴の魔法は中々強力なようで完全に散らす事は出来なかったが、狙いを全て逸らす事に成功する。
しかし……今のままでは恐らく勝てない。
このまま戦ってもそう簡単に負けないと思うが、すんなり勝てるような相手ではないだろう。
こいつだけなら問題ないのだが、リシルたちに早く合流しなければいけない。
「くっ!? 仕方ない! リシル!! やはり剣を抜くぞーー!!」
オレは離れた後方で戦闘を始めたリシルに届くように大きな声でそう叫ぶと、覚悟を決めて鞘に手をかける。
「さぁ起きろ相棒! 聖魔剣レダタンア!」
そして一気に引き抜いた。
すると、剣身から溢れ出す黒き闇の奔流がオレを覆い隠すと、その身に漆黒の鎧を形作る。
魔の力に大きく傾いた今でも、抜けば鎧をその身に纏う事ができる。
昔纏っていた輝く白き鎧を嘲笑うような深き闇で塗り潰したその鎧は、しかしオレの身体能力をも大きくひきあげてくれる。
……聖なる力は祈りの力……。
……魔なる力は呪いの力……。
「たとえ呪いの力でも……レダタンア! その力をもっと寄こせ!」
今まではこの力を恐れて受け入れる事が出来ず、従前に使いこなせていなかったが……今はオレを信じ、付いて来てくれた少女がいる。
『こんな辛い事を何度も……何度も、何度も何度も何度も! 経験してきたっていうの!?』
オレを思って泣いてくれた少女がいる。
『だって……あなたが言ったんじゃない。 勇者さん』
今でもオレの心に残る言葉。
オレの事を覚えていてくれる少女の言葉。
ただその言葉だけで、何だか力が漲るようだった。
「待ってる子がいるんでな……一気に決めさせて貰うぞ!」
「くっ!? こけおどしに決まっている! 下賤の者が吠えるな!!」
奴は展開していた障壁を更に厚くすると、無数に展開していた火鞭を束ね、城壁をも穿つ鋭き一撃を放ってくるのだが。
「魔人のくせに忘れているようだから、思い出させてやる!」
オレは聖魔剣の力を限界まで引き出す。
「オレの名は……勇者テッドだ!」
そう叫ぶと、腰だめに剣を引き付け、
「セブンズストライク!!」
最高位の剣技を撃ち放つ。
7つの斬撃が束ねた火鞭を打ち砕き、障壁を紙の如く突き破ると、驚愕に顔を歪ませた慟魔を7つの閃光で貫き、セグルスに化けていたその慟魔はあっけなく最期の時を迎えたのだった。
~
「ふぅ。今まで怖くて聖魔剣の力を本気で引き出したことが無かったが……」
オレは、少なくない驚きと興奮を隠せないでいた。
聖魔輪転を使ったあの日。
位階がリセットされ、ほとんどの力を失った。
しかし、魔に傾いた聖魔剣レダタンアの力を本気で使ってみてわかったが、以前ほどではないにしても昔のように体が動く。
輝いていた昔のオレが戻ってきたような高揚感を感じていると、首の後ろにヂリヂリと何か痛みを感じた気がした。
「な、なんだ……?」
そう呟いた瞬間だった。
右手に持ったレダタンアから黒き闇があふれ出す。
「くっ!? なんだこのわき上がる力は!? ち、力に呑まれそうだ!?」
オレは震える両手でレダタンアを握り締めると、何とか精神力で力を抑えこもうと試みる。
このまま力に呑まれて暴走するのではと一瞬冷っとしたが、また首の後ろにヂリヂリと痛みを感じた直後に、あふれ出た力が収まっていくのを感じる。どうやら上手くいったようだ。
「はは……こいつはキツイな……さすが呪いの力だ」
気付けば全身汗でびしょ濡れだった。
しかし、それでもレダタンアから今でも力が全身に流れ込み、全能感がオレを支配しようとする。
「でも……まだだ。まだ、終わっていない……」
オレはそう小さく呟くと、戦いのはじまったリシルたちの元に向けて駆け出すのだった。
しかし、伝わってきたのは慟魔のそれではなく、まるで大きな岩でも殴ったかのような手のしびれだった。
「ぐっ!? いつの間に!?」
セグルスの方の中身が慟魔なのはわかっていたが、こいつは慟魔の中でも相当手練れのようだ。
オレが切り込んでくるのを察知すると同時に瞬時に強固な障壁を張って、オレの一撃を弾き飛ばしたのだ。
「下賤で分を弁えぬ愚か者がぁ! その身を悔い改めるがいい!」
人間蔑視の慟魔らしい発言だ。
そしてその言葉と共に現れたのは、天に昇るように蠢く無数の火鞭。
何もかもを焼き尽くすような赤を巻き散らし、燃え盛る火の鞭が放たれるが、オレも奴の挙動を先読みして、詠唱を開始していた。
≪黒を司る穢れの力よ、我が魔力を贄に干渉を拒絶する絶対の意志となれ≫
≪不干渉の煙霧≫
薄暗い靄がオレの周囲に満ちて、襲い来る火鞭を散らし、逸らす。
「なんだと!? 我が魔法を散らすとは!?」
この黒魔法は遠隔攻撃なら石や矢はもちろん、魔法でも余程強力なものでない限り、靄の壁に触れた瞬間散らしてしまう。
奴の魔法は中々強力なようで完全に散らす事は出来なかったが、狙いを全て逸らす事に成功する。
しかし……今のままでは恐らく勝てない。
このまま戦ってもそう簡単に負けないと思うが、すんなり勝てるような相手ではないだろう。
こいつだけなら問題ないのだが、リシルたちに早く合流しなければいけない。
「くっ!? 仕方ない! リシル!! やはり剣を抜くぞーー!!」
オレは離れた後方で戦闘を始めたリシルに届くように大きな声でそう叫ぶと、覚悟を決めて鞘に手をかける。
「さぁ起きろ相棒! 聖魔剣レダタンア!」
そして一気に引き抜いた。
すると、剣身から溢れ出す黒き闇の奔流がオレを覆い隠すと、その身に漆黒の鎧を形作る。
魔の力に大きく傾いた今でも、抜けば鎧をその身に纏う事ができる。
昔纏っていた輝く白き鎧を嘲笑うような深き闇で塗り潰したその鎧は、しかしオレの身体能力をも大きくひきあげてくれる。
……聖なる力は祈りの力……。
……魔なる力は呪いの力……。
「たとえ呪いの力でも……レダタンア! その力をもっと寄こせ!」
今まではこの力を恐れて受け入れる事が出来ず、従前に使いこなせていなかったが……今はオレを信じ、付いて来てくれた少女がいる。
『こんな辛い事を何度も……何度も、何度も何度も何度も! 経験してきたっていうの!?』
オレを思って泣いてくれた少女がいる。
『だって……あなたが言ったんじゃない。 勇者さん』
今でもオレの心に残る言葉。
オレの事を覚えていてくれる少女の言葉。
ただその言葉だけで、何だか力が漲るようだった。
「待ってる子がいるんでな……一気に決めさせて貰うぞ!」
「くっ!? こけおどしに決まっている! 下賤の者が吠えるな!!」
奴は展開していた障壁を更に厚くすると、無数に展開していた火鞭を束ね、城壁をも穿つ鋭き一撃を放ってくるのだが。
「魔人のくせに忘れているようだから、思い出させてやる!」
オレは聖魔剣の力を限界まで引き出す。
「オレの名は……勇者テッドだ!」
そう叫ぶと、腰だめに剣を引き付け、
「セブンズストライク!!」
最高位の剣技を撃ち放つ。
7つの斬撃が束ねた火鞭を打ち砕き、障壁を紙の如く突き破ると、驚愕に顔を歪ませた慟魔を7つの閃光で貫き、セグルスに化けていたその慟魔はあっけなく最期の時を迎えたのだった。
~
「ふぅ。今まで怖くて聖魔剣の力を本気で引き出したことが無かったが……」
オレは、少なくない驚きと興奮を隠せないでいた。
聖魔輪転を使ったあの日。
位階がリセットされ、ほとんどの力を失った。
しかし、魔に傾いた聖魔剣レダタンアの力を本気で使ってみてわかったが、以前ほどではないにしても昔のように体が動く。
輝いていた昔のオレが戻ってきたような高揚感を感じていると、首の後ろにヂリヂリと何か痛みを感じた気がした。
「な、なんだ……?」
そう呟いた瞬間だった。
右手に持ったレダタンアから黒き闇があふれ出す。
「くっ!? なんだこのわき上がる力は!? ち、力に呑まれそうだ!?」
オレは震える両手でレダタンアを握り締めると、何とか精神力で力を抑えこもうと試みる。
このまま力に呑まれて暴走するのではと一瞬冷っとしたが、また首の後ろにヂリヂリと痛みを感じた直後に、あふれ出た力が収まっていくのを感じる。どうやら上手くいったようだ。
「はは……こいつはキツイな……さすが呪いの力だ」
気付けば全身汗でびしょ濡れだった。
しかし、それでもレダタンアから今でも力が全身に流れ込み、全能感がオレを支配しようとする。
「でも……まだだ。まだ、終わっていない……」
オレはそう小さく呟くと、戦いのはじまったリシルたちの元に向けて駆け出すのだった。
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