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【第52話:動き出す者たち】
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「冒険者ギルドと国との間に結ばれた盟約に基づき、S級冒険者としての権利を主張させて頂きます!」
輝くプラチナのギルドタグを高く掲げて、そう言い放ったオレは一人騎士団の元にゆっくりと歩を進める。
「な!? S級冒険者だと!?」
思ったよりも衝撃を与える事に成功したようで、シグルムと呼ばれた騎士団長は動揺を隠せないでいるようだ。
S級冒険者にはいくつかの特権が与えられているのだが、その中には人類の危機に関する事柄については依頼や事件、果ては戦争にまで介入する権利が与えられているのだ。
勿論、それによって生じる責任は負わなければいけないが。
「はい。S級冒険者のテッドと言います。もしお疑いならこのタグを調べて貰っても結構ですよ」
そう言ってシグルム団長の側まで歩み寄ると、首からプラチナのギルドタグを外して差し出す。
「うっ!? と、とりあえず後でギルドで確認はさせて貰うが、い、今は良い! それよりもテッド殿は状況をご理解しておられるのか?」
領主が亡くなり、その跡取りに嫌疑がかけられている状況は領地の危機と言ってもおかしくない。
お前はそのようなこの状況を理解しているのかと、胡乱な目でこちらを見つめてくる。
「はい。少なくともあなた達騎士団よりも理解しているつもりです」
オレの物言いに、後ろで控えている騎士団員が一瞬色めき立つが、シグルム団長の一喝で静かになる。
「静まれ! ……それはどういう意味ですかな? テッド殿は何を知っておられるのだ?」
先ほどまでの胡乱な目から、今度は嘘や誤魔化しは許さないといった鋭い瞳でこちらを見つめてくるが、その瞳を真っ向から見つめ返し、オレは言葉を返す。
「犯人は魔人……いや、魔人たちの組織『世界の揺らぎ』だ。人を混乱させてその隙を攻め入るつもりなのだろう。こんな事をしている場合ではない」
何の犯人だとは言わず、オレは言葉を続ける。
リシルの魔眼アーキビストで犯行の詳細は掴んでいるのだ。
アーキビストは未来予知は出来ないが、過去に起こった事などは見通す事が出来る。
もちろん、何を視るのかをイメージする必要があるので、何もかもを知る事は出来ないのだが、このような犯人捜しは問題なく行える。
「ただ、ゾイ以外にも騎士団に魔人に通じている者がいる。ダゴンとセグルスと言うのはどいつだ?」
オレがそう話した瞬間、皆の視線が一つところに集まる。
そして視線に耐えかねたように、髪に少し白いものが混じり始めた一人の男が叫びだした。
『こいつはダゴンの方よ』
リシルが魔法を使ったのだろう。耳元で囁くような声を届けて教えてくれる。
「う、嘘だ!! だいたいS級冒険者でテッドとかいう名前は聞いた事がないぞ! そ、そうだ! きっとこいつこそ魔人に通じている奴なんじゃないのか!? ダンテ様の胸を引き裂いたのは絶対コイツですよ!!」
間違いない! 絶対そうだ! と、喚き散らすが、シグルム団長は即座に駆け寄ると抜剣してその喉に剣を突きつけた。
相当な技量と位階を持っているようで、その速度は今のオレには視線で捉えるのがやっとと言えるほどの速さだった。
「どうしてダンテ様が胸を引き裂かれた事を知っている? あの場にいた者には胸を刺されたという事にするように言い含めている」
「えっ……」
シグルム団長の言った言葉を理解したのだろう。
ダゴンは顔を蒼白に染めると徐々に後ずさりを始めるが……。
「騎士ダゴンを捉えよ!!」
その命令に、今まで呆気に取られていた騎士たちが取り囲み、あっという間にダゴンを組み伏した。
「お、俺じゃない……お、俺はゾイに旨い仕事があると言われて、警備のルートを変えて誘導しただけなんだ!!」
「くっ!? なんて事を!!」
うな垂れるダゴンはもう抵抗する気力はなくなったのか、大人しく縛に着いた。
しかし、リシルによると主犯はセグルスの方のはずだ。
「シグルム団長。主犯はセグルスの方のはずだ。そいつはどこに?」
そいつはここにいないのか? そう尋ねた時だった。
騎士団の後方から悲鳴のような声があがったかと思うと、無数の炎がほとばしった。
「なんだ!?」
シグルム団長がそう声をあげて何らかの防御魔法を唱えるが、立ち昇った炎はその形を手の形に変えて押さえ込んでいた他の騎士ごとダゴンをつかみ取ってしまう。
「ぎゃぁ!?」
一瞬の断末魔を残して黒い塊と化したダゴンを尻目に、オレとリシルは駆け出していた。
「慟魔だ!! 魔法を防げない者は距離を取れ! リシル! 何人いる!?」
オレより先に駆け出し、既に隣を並走していたリシルに問いかけると、駆けながら魔眼を使って確認する。
そして急に足を止めると、
「前方は一人だけ……!? いや、前方は囮よ!! 後方に……ダルド様の方に慟魔2人……鬼人4……違う! 5人!? え!? 魔物も!?」
そして、そっちは任せるから、片づけたら後方に! と言って踵を返して馬車の方に駆け戻る。
「くっ!? 無茶するなよ! メルメも使え! それから場合によっては……抜くぞ!」
そう叫んでオレは、徐々に姿を慟魔のそれと変え、騎士団の鎧を脱ぎ捨てた男に駆け寄るのだった。
輝くプラチナのギルドタグを高く掲げて、そう言い放ったオレは一人騎士団の元にゆっくりと歩を進める。
「な!? S級冒険者だと!?」
思ったよりも衝撃を与える事に成功したようで、シグルムと呼ばれた騎士団長は動揺を隠せないでいるようだ。
S級冒険者にはいくつかの特権が与えられているのだが、その中には人類の危機に関する事柄については依頼や事件、果ては戦争にまで介入する権利が与えられているのだ。
勿論、それによって生じる責任は負わなければいけないが。
「はい。S級冒険者のテッドと言います。もしお疑いならこのタグを調べて貰っても結構ですよ」
そう言ってシグルム団長の側まで歩み寄ると、首からプラチナのギルドタグを外して差し出す。
「うっ!? と、とりあえず後でギルドで確認はさせて貰うが、い、今は良い! それよりもテッド殿は状況をご理解しておられるのか?」
領主が亡くなり、その跡取りに嫌疑がかけられている状況は領地の危機と言ってもおかしくない。
お前はそのようなこの状況を理解しているのかと、胡乱な目でこちらを見つめてくる。
「はい。少なくともあなた達騎士団よりも理解しているつもりです」
オレの物言いに、後ろで控えている騎士団員が一瞬色めき立つが、シグルム団長の一喝で静かになる。
「静まれ! ……それはどういう意味ですかな? テッド殿は何を知っておられるのだ?」
先ほどまでの胡乱な目から、今度は嘘や誤魔化しは許さないといった鋭い瞳でこちらを見つめてくるが、その瞳を真っ向から見つめ返し、オレは言葉を返す。
「犯人は魔人……いや、魔人たちの組織『世界の揺らぎ』だ。人を混乱させてその隙を攻め入るつもりなのだろう。こんな事をしている場合ではない」
何の犯人だとは言わず、オレは言葉を続ける。
リシルの魔眼アーキビストで犯行の詳細は掴んでいるのだ。
アーキビストは未来予知は出来ないが、過去に起こった事などは見通す事が出来る。
もちろん、何を視るのかをイメージする必要があるので、何もかもを知る事は出来ないのだが、このような犯人捜しは問題なく行える。
「ただ、ゾイ以外にも騎士団に魔人に通じている者がいる。ダゴンとセグルスと言うのはどいつだ?」
オレがそう話した瞬間、皆の視線が一つところに集まる。
そして視線に耐えかねたように、髪に少し白いものが混じり始めた一人の男が叫びだした。
『こいつはダゴンの方よ』
リシルが魔法を使ったのだろう。耳元で囁くような声を届けて教えてくれる。
「う、嘘だ!! だいたいS級冒険者でテッドとかいう名前は聞いた事がないぞ! そ、そうだ! きっとこいつこそ魔人に通じている奴なんじゃないのか!? ダンテ様の胸を引き裂いたのは絶対コイツですよ!!」
間違いない! 絶対そうだ! と、喚き散らすが、シグルム団長は即座に駆け寄ると抜剣してその喉に剣を突きつけた。
相当な技量と位階を持っているようで、その速度は今のオレには視線で捉えるのがやっとと言えるほどの速さだった。
「どうしてダンテ様が胸を引き裂かれた事を知っている? あの場にいた者には胸を刺されたという事にするように言い含めている」
「えっ……」
シグルム団長の言った言葉を理解したのだろう。
ダゴンは顔を蒼白に染めると徐々に後ずさりを始めるが……。
「騎士ダゴンを捉えよ!!」
その命令に、今まで呆気に取られていた騎士たちが取り囲み、あっという間にダゴンを組み伏した。
「お、俺じゃない……お、俺はゾイに旨い仕事があると言われて、警備のルートを変えて誘導しただけなんだ!!」
「くっ!? なんて事を!!」
うな垂れるダゴンはもう抵抗する気力はなくなったのか、大人しく縛に着いた。
しかし、リシルによると主犯はセグルスの方のはずだ。
「シグルム団長。主犯はセグルスの方のはずだ。そいつはどこに?」
そいつはここにいないのか? そう尋ねた時だった。
騎士団の後方から悲鳴のような声があがったかと思うと、無数の炎がほとばしった。
「なんだ!?」
シグルム団長がそう声をあげて何らかの防御魔法を唱えるが、立ち昇った炎はその形を手の形に変えて押さえ込んでいた他の騎士ごとダゴンをつかみ取ってしまう。
「ぎゃぁ!?」
一瞬の断末魔を残して黒い塊と化したダゴンを尻目に、オレとリシルは駆け出していた。
「慟魔だ!! 魔法を防げない者は距離を取れ! リシル! 何人いる!?」
オレより先に駆け出し、既に隣を並走していたリシルに問いかけると、駆けながら魔眼を使って確認する。
そして急に足を止めると、
「前方は一人だけ……!? いや、前方は囮よ!! 後方に……ダルド様の方に慟魔2人……鬼人4……違う! 5人!? え!? 魔物も!?」
そして、そっちは任せるから、片づけたら後方に! と言って踵を返して馬車の方に駆け戻る。
「くっ!? 無茶するなよ! メルメも使え! それから場合によっては……抜くぞ!」
そう叫んでオレは、徐々に姿を慟魔のそれと変え、騎士団の鎧を脱ぎ捨てた男に駆け寄るのだった。
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