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【第37話:お前もか……】
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ナイトメアを連れたオレたちは、翌日の夕方、何事もなくテイトリアの街に到着する。
やはりナイトメアをつれているのが大きかったようで、途中ゴブリンの姿を確認した時も、こちらに気付くなり慌てて逃げていった。
「ゲイル、デリー。協力してくれてありがとうな」
オレはテイトリアの街に入り、魔獣商『グレイプニル』まで戻ってくると馬車を降りて二人にそう言って依頼完了証を手渡す。
今回はオレからの指名依頼という形で、正式にギルドを通して依頼を出しているので、それが無事に完了した事を証明する依頼完了証を先に用意しておいたのだ。
依頼の達成条件が、ナイトメアがいてもいなくても、調教が成功してもしなくても、同行して役目さえはたせば良いという条件だったから、失敗する事はまず無いだろうと出発前に面倒な完了証作成を済ませていた。
「僕の方こそ貴重な体験をさせてもらったよ。感謝する」
「くそぉ。今更だけどナイトメアを従魔にするとか羨ましいぜ」
「旅をしないなら従魔を所有していても大変だし、金もかかるからデリーには必要ないだろ?」
ゲイルにしてもデリーにしても、この街を拠点に活動しており、普段は商隊の護衛依頼を中心に活動しているので、個人で従魔を所有する必要はあまりない。
もちろん護衛依頼に個人所有の従魔で参加する者もいるが、依頼主が護衛の分の移動手段を用意するのが普通なので、無理に従魔を所有しても出費がかさむだけなのだ。
「まぁそうなんだがよぉ。ナイトメアの従魔となると話は別だろ? それだけで戦力になるんだしよ」
「心配すんな。おめぇじゃナイトメアが主と認めてくれねぇよ。まぁグレイプニルなら俺がうまく譲渡してやるけど、どうだ?」
「ひでぇな。それにグレイプニルじゃぁ戦力にはならねぇだろ!」
相変わらずテグスが隙をみてグレイプニルを売り込もうとするが、さすがにデリーも口車には乗らなかったようだ。
グレイプニルもゴブリン程度なら鎧袖一触蹴り殺すが、それでもせいぜいランク2の魔物相手に生き残るのがやっとだからな。
「それよりテグスさん。メルメの馬具はグレイプニルのものがそのまま使えるんですよね? 疲れている所悪いけど、さっそく取り付けて貰ってもいいかしら?」
リシルがちょっと申し訳なさそうにしながら尋ねた時、ちょうど店の中からテグスの妻のリネシーが出てきた。
そして叫んだ……。
「えぇぇぇ!? 嘘でしょ!? 本当にナイトメアじゃない!? え!? え!? えぇぇぇ!? やっぱり!! しかも上位種じゃないの!?」
大騒ぎするリネシーに自慢げに話をするテグスを横目に、
「リシル。今日はもうメルメはここに預けて皆で飯でもいこうか? 宿にも厩舎に空きがあるか確認しないといけないし、これ以上遅くなると美味い炙り肉の店に行けなくなるぞ?」
既に夕闇が濃くなってきており、あまり遅くなると行きたい店が閉まるのだ。
「わっわっ。この前言ってた炙り肉の店!? そう言う事ならそうしましょ!」
この間エンダ豆を食べた時に連れていく約束をした店が閉まるのが早いと伝えると、今日行けると思ってなかったのか慌てだす。
「まだもう少し余裕あるからそこまで焦らなくても大丈夫だ。それで、お前らはどうする? 今日は祝いも兼ねてオレが奢るぞ? テグスとリネシーさんもどう?」
「え? もしかして『赤の炙り亭』のこと!? 行くわ! テグスも行くわよね!?」
そしてリネシーさんが食いついた。
この街で有名な高級料理店だし、評判を知っていたようだ。
「奢りならもちろんついて行くぜ!」
「僕もいいのかい? そう言えば仲間に奢ってもらうのは初めての経験かもしれないな」
「じゃぁ、全員参加だな!」
その日はメルメを『グレイプニルの蹄』に預かってもらい、皆で祝いを兼ねてとろけるような炙り肉を心ゆくまで堪能したのだった。
~
「……テッドォ……起きてるぅ……?」
翌朝、部屋の扉をノックする音と、かなり控えめなリシルの声が聞こえてきた。
一緒に宿に泊まるといつも朝早くに尋ねてくるのだが、声に元気がないような気がする。
オレは何かあったのかと少し心配になり、早足で扉まで歩いて部屋に招き入れたのだが、その原因にげんなりする。
「二日酔いか……心配して損した……」
昨日は閉店間際まで『赤の炙り亭』で最高に美味い肉を食べ、いつも以上にお酒を飲んでいたので当然といえば当然だろう。
「だってぇ……お肉がすっごく美味しかったから、ついついお酒も飲みすぎちゃったのよ……」
「まぁ今日の予定は『グレイプニルの蹄』に行くだけだから、ゆっくり部屋で寝てたらどうだ? 顔真っ青だぞ……着替えたら二日酔いに効く薬でも買ってきてやるよ」
元々お酒は嗜む程度しか飲まないみたいだから昨日も飲みすぎだと止めたのだが、珍しく歳相応にはしゃいでいて、いっぱい飲んでいたからな。
「お願いしま~す……ちょっとベッド借りるね……」
自分の部屋に戻るのすら辛いのか、言うが早いかオレのベッドに飛び込んで、そのままあっという間に寝息を立てはじめてしまう。
「ったく……仕方ないな。ちょっと待ってろ」
オレはそっと毛布をかけると、ちょっと無防備すぎる寝姿に足早に部屋を出るのだった。
~
昔何度か行ったことのある薬師の店で二日酔いの薬をいくつか余分に買うと、一旦宿に戻ってリシルを無理やり起こして飲ませる。
「ごめんなさい……」
ちょっと真面目に反省しているリシルに、気にしなくていいから寝てろと頭を撫でてやる。
毛布を口元まで被せて「にへら」と笑うリシルを部屋に残し、今度はグレイプニルの蹄に向かう。
「ぉぉ……テッドか……すまん。まだ馬具つけ終わってねぇんだ……」
「お前もか……」
何かそんな気がしたんだよな。
そしてあらかじめ多めに買って持ってきている二日酔いの薬を、リネシーさんの分と合わせて二人分渡すと、
「じゃぁ、明日の朝にでもまたくるから、これ飲んでちょっと寝てろ。あと、ちょっとメルメの様子見てから帰る。今日の分の魔石をやっておくから」
「悪いな……」
馬などの動物と違って、魔獣は魔石を食べる。
グレイプニルのような低位の魔獣なら水や食事もある程度必要だが、それでも小さなロバよりも必要とする食事の量は少ないだろう。
これが上位の魔獣になると更に顕著で、数日に1回程度食事を与えれば、後は魔石だけで済む。
食事にかかるお金で言えば魔石の方が高くつくのだが、大量の食料を持ち運ぶ必要がないのも魔獣が冒険者に好まれる理由の一つだ。
「そら……お前の好きだったソードボアの魔石だぞ?」
厩舎の鍵を借りてメルメのところまで行くと、あらかじめ用意しておいたランク3の猪の魔物の魔石を手渡しで食べさせる。
「ほんと旨そうに食うよな」
オレはメルメの頬の当たりを掻くように撫でてやる。
すると、嬉しそうに目を細めたメルメが喉を鳴らす。
「一人にして悪かったな……でも……生きていてくれて良かった……」
15年前。
オレたち『導きの五聖人』と呼ばれたパーティーは、各国の騎士団と共に『魔王城ガラリア』に攻め入った。
その騎士団にメルメを預けてオレたちは『魔王ゾロス』との戦いに臨んだのだが、メルメの姿を見たのはその時が最後となってしまっていた。
魔王城には魔王軍全てを殲滅して攻め入ったわけではなかったのだ。
その為、オレたちが魔王と戦う間、騎士団の精鋭たちが魔王軍の猛攻を防いでくれていたのだが、全てが終わった時にはメルメの姿は見えなくなっていた。
すぐに探しに行きたかったのだが、皆にその存在を忘れられ、ほとんどの力を失っていたオレには、メルメを探しに行くことは出来なかった。
だから……死んだと思っていた。
いや、死んだと思うしかなかったのだ。
いろいろやり切れない気持ちが処理できなくて、そう思う事で現実から目を逸らして逃げていたのだ。
「メルメ……生きていてくれて、ありがとう……本当に、ありがとう……」
再会できた奇跡に感謝し、半刻ほどメルメの側にいてから、オレは厩舎を後にしたのだった。
やはりナイトメアをつれているのが大きかったようで、途中ゴブリンの姿を確認した時も、こちらに気付くなり慌てて逃げていった。
「ゲイル、デリー。協力してくれてありがとうな」
オレはテイトリアの街に入り、魔獣商『グレイプニル』まで戻ってくると馬車を降りて二人にそう言って依頼完了証を手渡す。
今回はオレからの指名依頼という形で、正式にギルドを通して依頼を出しているので、それが無事に完了した事を証明する依頼完了証を先に用意しておいたのだ。
依頼の達成条件が、ナイトメアがいてもいなくても、調教が成功してもしなくても、同行して役目さえはたせば良いという条件だったから、失敗する事はまず無いだろうと出発前に面倒な完了証作成を済ませていた。
「僕の方こそ貴重な体験をさせてもらったよ。感謝する」
「くそぉ。今更だけどナイトメアを従魔にするとか羨ましいぜ」
「旅をしないなら従魔を所有していても大変だし、金もかかるからデリーには必要ないだろ?」
ゲイルにしてもデリーにしても、この街を拠点に活動しており、普段は商隊の護衛依頼を中心に活動しているので、個人で従魔を所有する必要はあまりない。
もちろん護衛依頼に個人所有の従魔で参加する者もいるが、依頼主が護衛の分の移動手段を用意するのが普通なので、無理に従魔を所有しても出費がかさむだけなのだ。
「まぁそうなんだがよぉ。ナイトメアの従魔となると話は別だろ? それだけで戦力になるんだしよ」
「心配すんな。おめぇじゃナイトメアが主と認めてくれねぇよ。まぁグレイプニルなら俺がうまく譲渡してやるけど、どうだ?」
「ひでぇな。それにグレイプニルじゃぁ戦力にはならねぇだろ!」
相変わらずテグスが隙をみてグレイプニルを売り込もうとするが、さすがにデリーも口車には乗らなかったようだ。
グレイプニルもゴブリン程度なら鎧袖一触蹴り殺すが、それでもせいぜいランク2の魔物相手に生き残るのがやっとだからな。
「それよりテグスさん。メルメの馬具はグレイプニルのものがそのまま使えるんですよね? 疲れている所悪いけど、さっそく取り付けて貰ってもいいかしら?」
リシルがちょっと申し訳なさそうにしながら尋ねた時、ちょうど店の中からテグスの妻のリネシーが出てきた。
そして叫んだ……。
「えぇぇぇ!? 嘘でしょ!? 本当にナイトメアじゃない!? え!? え!? えぇぇぇ!? やっぱり!! しかも上位種じゃないの!?」
大騒ぎするリネシーに自慢げに話をするテグスを横目に、
「リシル。今日はもうメルメはここに預けて皆で飯でもいこうか? 宿にも厩舎に空きがあるか確認しないといけないし、これ以上遅くなると美味い炙り肉の店に行けなくなるぞ?」
既に夕闇が濃くなってきており、あまり遅くなると行きたい店が閉まるのだ。
「わっわっ。この前言ってた炙り肉の店!? そう言う事ならそうしましょ!」
この間エンダ豆を食べた時に連れていく約束をした店が閉まるのが早いと伝えると、今日行けると思ってなかったのか慌てだす。
「まだもう少し余裕あるからそこまで焦らなくても大丈夫だ。それで、お前らはどうする? 今日は祝いも兼ねてオレが奢るぞ? テグスとリネシーさんもどう?」
「え? もしかして『赤の炙り亭』のこと!? 行くわ! テグスも行くわよね!?」
そしてリネシーさんが食いついた。
この街で有名な高級料理店だし、評判を知っていたようだ。
「奢りならもちろんついて行くぜ!」
「僕もいいのかい? そう言えば仲間に奢ってもらうのは初めての経験かもしれないな」
「じゃぁ、全員参加だな!」
その日はメルメを『グレイプニルの蹄』に預かってもらい、皆で祝いを兼ねてとろけるような炙り肉を心ゆくまで堪能したのだった。
~
「……テッドォ……起きてるぅ……?」
翌朝、部屋の扉をノックする音と、かなり控えめなリシルの声が聞こえてきた。
一緒に宿に泊まるといつも朝早くに尋ねてくるのだが、声に元気がないような気がする。
オレは何かあったのかと少し心配になり、早足で扉まで歩いて部屋に招き入れたのだが、その原因にげんなりする。
「二日酔いか……心配して損した……」
昨日は閉店間際まで『赤の炙り亭』で最高に美味い肉を食べ、いつも以上にお酒を飲んでいたので当然といえば当然だろう。
「だってぇ……お肉がすっごく美味しかったから、ついついお酒も飲みすぎちゃったのよ……」
「まぁ今日の予定は『グレイプニルの蹄』に行くだけだから、ゆっくり部屋で寝てたらどうだ? 顔真っ青だぞ……着替えたら二日酔いに効く薬でも買ってきてやるよ」
元々お酒は嗜む程度しか飲まないみたいだから昨日も飲みすぎだと止めたのだが、珍しく歳相応にはしゃいでいて、いっぱい飲んでいたからな。
「お願いしま~す……ちょっとベッド借りるね……」
自分の部屋に戻るのすら辛いのか、言うが早いかオレのベッドに飛び込んで、そのままあっという間に寝息を立てはじめてしまう。
「ったく……仕方ないな。ちょっと待ってろ」
オレはそっと毛布をかけると、ちょっと無防備すぎる寝姿に足早に部屋を出るのだった。
~
昔何度か行ったことのある薬師の店で二日酔いの薬をいくつか余分に買うと、一旦宿に戻ってリシルを無理やり起こして飲ませる。
「ごめんなさい……」
ちょっと真面目に反省しているリシルに、気にしなくていいから寝てろと頭を撫でてやる。
毛布を口元まで被せて「にへら」と笑うリシルを部屋に残し、今度はグレイプニルの蹄に向かう。
「ぉぉ……テッドか……すまん。まだ馬具つけ終わってねぇんだ……」
「お前もか……」
何かそんな気がしたんだよな。
そしてあらかじめ多めに買って持ってきている二日酔いの薬を、リネシーさんの分と合わせて二人分渡すと、
「じゃぁ、明日の朝にでもまたくるから、これ飲んでちょっと寝てろ。あと、ちょっとメルメの様子見てから帰る。今日の分の魔石をやっておくから」
「悪いな……」
馬などの動物と違って、魔獣は魔石を食べる。
グレイプニルのような低位の魔獣なら水や食事もある程度必要だが、それでも小さなロバよりも必要とする食事の量は少ないだろう。
これが上位の魔獣になると更に顕著で、数日に1回程度食事を与えれば、後は魔石だけで済む。
食事にかかるお金で言えば魔石の方が高くつくのだが、大量の食料を持ち運ぶ必要がないのも魔獣が冒険者に好まれる理由の一つだ。
「そら……お前の好きだったソードボアの魔石だぞ?」
厩舎の鍵を借りてメルメのところまで行くと、あらかじめ用意しておいたランク3の猪の魔物の魔石を手渡しで食べさせる。
「ほんと旨そうに食うよな」
オレはメルメの頬の当たりを掻くように撫でてやる。
すると、嬉しそうに目を細めたメルメが喉を鳴らす。
「一人にして悪かったな……でも……生きていてくれて良かった……」
15年前。
オレたち『導きの五聖人』と呼ばれたパーティーは、各国の騎士団と共に『魔王城ガラリア』に攻め入った。
その騎士団にメルメを預けてオレたちは『魔王ゾロス』との戦いに臨んだのだが、メルメの姿を見たのはその時が最後となってしまっていた。
魔王城には魔王軍全てを殲滅して攻め入ったわけではなかったのだ。
その為、オレたちが魔王と戦う間、騎士団の精鋭たちが魔王軍の猛攻を防いでくれていたのだが、全てが終わった時にはメルメの姿は見えなくなっていた。
すぐに探しに行きたかったのだが、皆にその存在を忘れられ、ほとんどの力を失っていたオレには、メルメを探しに行くことは出来なかった。
だから……死んだと思っていた。
いや、死んだと思うしかなかったのだ。
いろいろやり切れない気持ちが処理できなくて、そう思う事で現実から目を逸らして逃げていたのだ。
「メルメ……生きていてくれて、ありがとう……本当に、ありがとう……」
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