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【第35話:すまなかった】
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魔獣の調教と言うのは、ある種のスキルや魔法だと言われている。
事実、魔獣を従えるには調教師の存在なくして成功した例は今まで一つも報告されておらず、現在ではテイマー以外には不可能だとされている。
そしてこの調教と呼ばれるこの能力を有する者たちは、例外なく属性魔法の適正を持っている者が一人もいない。
この事から、研究者の間ではこの力は属性魔法の一種ではないかと言う話が有力とされているのだが、結局のところそれを証明するすべが無く、あくまでも通説とされていた。
このように、この調教に関しては何もわかっていないと言うのが正直なところで、その原理や仕組みはもちろん、もし属性魔法の一種だとするのなら何故調教だけ呪文が存在しないのか? 何故魔法陣が現れないのか? 何故代わりに陽炎のようなものが現れるのか? 結局のところ何もわかっていない。
それでも人々は昔から魔獣を従えるために、この能力を使ってきた。
そしてオレたちもまた、その仕組みはわからないまま、こうしてナイトメアと対峙しているのだった。
「テグスさん、横に飛んで!!」
リシルは、自身も避けながら、的確にテグスに指示をだす。
「お、ぉぉぉぉ!?」
そしてドタドタとそれに続くように移動するテグスの真後ろに、大きな火柱があがる。
「あっちぃな!? くそぉ!! また一からかよ!!」
物理的な移動や攻撃はオレがいなし、魔法による攻撃はリシルが何とか防いでいるのだが、オレたちにとって想定外だったのが、このナイトメアが位置指定で発動する高位の魔法まで使いこなしてきたことだった。
これにより、せっかく調教が順調に進んでいても、テグス自身が大きく避けなければいけない為、集中が途切れ、また調教が振り出しに戻ってしまうのだ。
「テッドさん! お客さんが来たようだ! 僕の方で対処するが問題ないな!」
ゲイルの方にちらりと視線を向けると、そこには腰ほどの高さがあるジャイアントスパイダーという大きな蜘蛛の魔物の姿が見えた。
一匹だけでなく奥にも何匹かいるようだが、ランク2の魔物なのでゲイルなら一人で何とかしてくれるだろう。
正直、オレとリシルだけだとナイトメアだけで手一杯だったので、ゲイルとデリーが依頼を引き受けてくれたのは本当にありがたかった。
まぁデリーは調子に乗りそうだから、口には出さないけど。
「わかった! そっちは頼む!」
ゲイルは目線だけをこちらに向けて頷くと、広場に入ってこようとしていたジャイアントスパイダーに斬りかかっていく。
広場に足を踏み入れようとしていた最初の一匹を瞬く間に切り刻むと、その斬り捨てた一匹目の胴体を蹴飛ばし2匹目を怯ませ、斜め後ろにいた他のジャイアントスパイダーにも一匹目と同じ運命を辿らせる。
魔物との間合いの取り方、タイミング、的確な攻撃部位と言い、さすがA級冒険者といった所だろうか。
わずかな時間で8匹もいたジャイアントスパイダーの群れを倒し切ったのだった。
しかし、調教はまだ始まったばかりだ。
その後もオレたちは、根気よく調教を続けていく……つもりだった。
それから半刻ほど経った頃だろうか。テグスが疑問の声をあげる。
「コイツ何だかおかしいな……すれてるだけかと思ったんだが、どうも前の主人を引きずっているような感じがするぞ!」
オレと行動を共にしていたのは、もう15年以上前の話だ。
だがその言葉を聞いて、まさかとは思いつつも、従魔を操るときに使う魔力の波動をコッソリとナイトメアにあててみる事にした。
ナイトメアの突進を鞘を付けたままのレダタンアで上手く力を右下に逃して受け流すと、魔力の波動を流し込む為に躱しざまに左手を首元にあてがる。
ナイトメアの名前は『メルメ』。
リシルの母親であるルルーロに強引に押し切られる形で名付けた可愛らしい名前だが、15年ぶりにその名を心の中で呟きながら魔力の波動を練り上げて流し込む。
「メルメ……すまなかったな……」
そこにいるものだけに聞こえるように呟いたオレのその言葉に、まるで正気を取り戻すようにくりりとした目をこちらに向けるナイトメア。
と、同時に放たれたテグスの陽炎がナイトメアを包み込んでいく。
一瞬びくりと身体を硬直するような仕草をするが、まるでそれを受け入れるかのように大人しくなって、それまでの抵抗が嘘のようにその動きをとめる。
「おいおいマジかよ……あっさり成功しちまったじゃねぇか……」
テグスがさき程までの抵抗が嘘のようにあっさり成功した事に、事態を飲み込めずにそう呟く。
「え? え? えぇぇぇ!? どういう事?? もう成功したの!?」
「んん? 僕が目を少し話している間に……いや、しかし本当なのか?」
リシルとゲイルも、突然あっさり成功したと言われて、まだ信じられていないようだった。
「いやぁ~俺もちょっと信じられないんだが、完全に調教成功しちまってるようだ……」
そして徐々にナイトメアを調教したのだと実感がこみ上げてきたオレたちは、ようやく喜びの声をあげるのだった。
ただ、オレはその場に立ちつくし、首元に触れたその手を離せないでいた。
攻めるような、それでいて再会を喜ぶようなメルメの瞳にすまなかったと呟きながら。
事実、魔獣を従えるには調教師の存在なくして成功した例は今まで一つも報告されておらず、現在ではテイマー以外には不可能だとされている。
そしてこの調教と呼ばれるこの能力を有する者たちは、例外なく属性魔法の適正を持っている者が一人もいない。
この事から、研究者の間ではこの力は属性魔法の一種ではないかと言う話が有力とされているのだが、結局のところそれを証明するすべが無く、あくまでも通説とされていた。
このように、この調教に関しては何もわかっていないと言うのが正直なところで、その原理や仕組みはもちろん、もし属性魔法の一種だとするのなら何故調教だけ呪文が存在しないのか? 何故魔法陣が現れないのか? 何故代わりに陽炎のようなものが現れるのか? 結局のところ何もわかっていない。
それでも人々は昔から魔獣を従えるために、この能力を使ってきた。
そしてオレたちもまた、その仕組みはわからないまま、こうしてナイトメアと対峙しているのだった。
「テグスさん、横に飛んで!!」
リシルは、自身も避けながら、的確にテグスに指示をだす。
「お、ぉぉぉぉ!?」
そしてドタドタとそれに続くように移動するテグスの真後ろに、大きな火柱があがる。
「あっちぃな!? くそぉ!! また一からかよ!!」
物理的な移動や攻撃はオレがいなし、魔法による攻撃はリシルが何とか防いでいるのだが、オレたちにとって想定外だったのが、このナイトメアが位置指定で発動する高位の魔法まで使いこなしてきたことだった。
これにより、せっかく調教が順調に進んでいても、テグス自身が大きく避けなければいけない為、集中が途切れ、また調教が振り出しに戻ってしまうのだ。
「テッドさん! お客さんが来たようだ! 僕の方で対処するが問題ないな!」
ゲイルの方にちらりと視線を向けると、そこには腰ほどの高さがあるジャイアントスパイダーという大きな蜘蛛の魔物の姿が見えた。
一匹だけでなく奥にも何匹かいるようだが、ランク2の魔物なのでゲイルなら一人で何とかしてくれるだろう。
正直、オレとリシルだけだとナイトメアだけで手一杯だったので、ゲイルとデリーが依頼を引き受けてくれたのは本当にありがたかった。
まぁデリーは調子に乗りそうだから、口には出さないけど。
「わかった! そっちは頼む!」
ゲイルは目線だけをこちらに向けて頷くと、広場に入ってこようとしていたジャイアントスパイダーに斬りかかっていく。
広場に足を踏み入れようとしていた最初の一匹を瞬く間に切り刻むと、その斬り捨てた一匹目の胴体を蹴飛ばし2匹目を怯ませ、斜め後ろにいた他のジャイアントスパイダーにも一匹目と同じ運命を辿らせる。
魔物との間合いの取り方、タイミング、的確な攻撃部位と言い、さすがA級冒険者といった所だろうか。
わずかな時間で8匹もいたジャイアントスパイダーの群れを倒し切ったのだった。
しかし、調教はまだ始まったばかりだ。
その後もオレたちは、根気よく調教を続けていく……つもりだった。
それから半刻ほど経った頃だろうか。テグスが疑問の声をあげる。
「コイツ何だかおかしいな……すれてるだけかと思ったんだが、どうも前の主人を引きずっているような感じがするぞ!」
オレと行動を共にしていたのは、もう15年以上前の話だ。
だがその言葉を聞いて、まさかとは思いつつも、従魔を操るときに使う魔力の波動をコッソリとナイトメアにあててみる事にした。
ナイトメアの突進を鞘を付けたままのレダタンアで上手く力を右下に逃して受け流すと、魔力の波動を流し込む為に躱しざまに左手を首元にあてがる。
ナイトメアの名前は『メルメ』。
リシルの母親であるルルーロに強引に押し切られる形で名付けた可愛らしい名前だが、15年ぶりにその名を心の中で呟きながら魔力の波動を練り上げて流し込む。
「メルメ……すまなかったな……」
そこにいるものだけに聞こえるように呟いたオレのその言葉に、まるで正気を取り戻すようにくりりとした目をこちらに向けるナイトメア。
と、同時に放たれたテグスの陽炎がナイトメアを包み込んでいく。
一瞬びくりと身体を硬直するような仕草をするが、まるでそれを受け入れるかのように大人しくなって、それまでの抵抗が嘘のようにその動きをとめる。
「おいおいマジかよ……あっさり成功しちまったじゃねぇか……」
テグスがさき程までの抵抗が嘘のようにあっさり成功した事に、事態を飲み込めずにそう呟く。
「え? え? えぇぇぇ!? どういう事?? もう成功したの!?」
「んん? 僕が目を少し話している間に……いや、しかし本当なのか?」
リシルとゲイルも、突然あっさり成功したと言われて、まだ信じられていないようだった。
「いやぁ~俺もちょっと信じられないんだが、完全に調教成功しちまってるようだ……」
そして徐々にナイトメアを調教したのだと実感がこみ上げてきたオレたちは、ようやく喜びの声をあげるのだった。
ただ、オレはその場に立ちつくし、首元に触れたその手を離せないでいた。
攻めるような、それでいて再会を喜ぶようなメルメの瞳にすまなかったと呟きながら。
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