36 / 59
【第35話:すまなかった】
しおりを挟む
魔獣の調教と言うのは、ある種のスキルや魔法だと言われている。
事実、魔獣を従えるには調教師の存在なくして成功した例は今まで一つも報告されておらず、現在ではテイマー以外には不可能だとされている。
そしてこの調教と呼ばれるこの能力を有する者たちは、例外なく属性魔法の適正を持っている者が一人もいない。
この事から、研究者の間ではこの力は属性魔法の一種ではないかと言う話が有力とされているのだが、結局のところそれを証明するすべが無く、あくまでも通説とされていた。
このように、この調教に関しては何もわかっていないと言うのが正直なところで、その原理や仕組みはもちろん、もし属性魔法の一種だとするのなら何故調教だけ呪文が存在しないのか? 何故魔法陣が現れないのか? 何故代わりに陽炎のようなものが現れるのか? 結局のところ何もわかっていない。
それでも人々は昔から魔獣を従えるために、この能力を使ってきた。
そしてオレたちもまた、その仕組みはわからないまま、こうしてナイトメアと対峙しているのだった。
「テグスさん、横に飛んで!!」
リシルは、自身も避けながら、的確にテグスに指示をだす。
「お、ぉぉぉぉ!?」
そしてドタドタとそれに続くように移動するテグスの真後ろに、大きな火柱があがる。
「あっちぃな!? くそぉ!! また一からかよ!!」
物理的な移動や攻撃はオレがいなし、魔法による攻撃はリシルが何とか防いでいるのだが、オレたちにとって想定外だったのが、このナイトメアが位置指定で発動する高位の魔法まで使いこなしてきたことだった。
これにより、せっかく調教が順調に進んでいても、テグス自身が大きく避けなければいけない為、集中が途切れ、また調教が振り出しに戻ってしまうのだ。
「テッドさん! お客さんが来たようだ! 僕の方で対処するが問題ないな!」
ゲイルの方にちらりと視線を向けると、そこには腰ほどの高さがあるジャイアントスパイダーという大きな蜘蛛の魔物の姿が見えた。
一匹だけでなく奥にも何匹かいるようだが、ランク2の魔物なのでゲイルなら一人で何とかしてくれるだろう。
正直、オレとリシルだけだとナイトメアだけで手一杯だったので、ゲイルとデリーが依頼を引き受けてくれたのは本当にありがたかった。
まぁデリーは調子に乗りそうだから、口には出さないけど。
「わかった! そっちは頼む!」
ゲイルは目線だけをこちらに向けて頷くと、広場に入ってこようとしていたジャイアントスパイダーに斬りかかっていく。
広場に足を踏み入れようとしていた最初の一匹を瞬く間に切り刻むと、その斬り捨てた一匹目の胴体を蹴飛ばし2匹目を怯ませ、斜め後ろにいた他のジャイアントスパイダーにも一匹目と同じ運命を辿らせる。
魔物との間合いの取り方、タイミング、的確な攻撃部位と言い、さすがA級冒険者といった所だろうか。
わずかな時間で8匹もいたジャイアントスパイダーの群れを倒し切ったのだった。
しかし、調教はまだ始まったばかりだ。
その後もオレたちは、根気よく調教を続けていく……つもりだった。
それから半刻ほど経った頃だろうか。テグスが疑問の声をあげる。
「コイツ何だかおかしいな……すれてるだけかと思ったんだが、どうも前の主人を引きずっているような感じがするぞ!」
オレと行動を共にしていたのは、もう15年以上前の話だ。
だがその言葉を聞いて、まさかとは思いつつも、従魔を操るときに使う魔力の波動をコッソリとナイトメアにあててみる事にした。
ナイトメアの突進を鞘を付けたままのレダタンアで上手く力を右下に逃して受け流すと、魔力の波動を流し込む為に躱しざまに左手を首元にあてがる。
ナイトメアの名前は『メルメ』。
リシルの母親であるルルーロに強引に押し切られる形で名付けた可愛らしい名前だが、15年ぶりにその名を心の中で呟きながら魔力の波動を練り上げて流し込む。
「メルメ……すまなかったな……」
そこにいるものだけに聞こえるように呟いたオレのその言葉に、まるで正気を取り戻すようにくりりとした目をこちらに向けるナイトメア。
と、同時に放たれたテグスの陽炎がナイトメアを包み込んでいく。
一瞬びくりと身体を硬直するような仕草をするが、まるでそれを受け入れるかのように大人しくなって、それまでの抵抗が嘘のようにその動きをとめる。
「おいおいマジかよ……あっさり成功しちまったじゃねぇか……」
テグスがさき程までの抵抗が嘘のようにあっさり成功した事に、事態を飲み込めずにそう呟く。
「え? え? えぇぇぇ!? どういう事?? もう成功したの!?」
「んん? 僕が目を少し話している間に……いや、しかし本当なのか?」
リシルとゲイルも、突然あっさり成功したと言われて、まだ信じられていないようだった。
「いやぁ~俺もちょっと信じられないんだが、完全に調教成功しちまってるようだ……」
そして徐々にナイトメアを調教したのだと実感がこみ上げてきたオレたちは、ようやく喜びの声をあげるのだった。
ただ、オレはその場に立ちつくし、首元に触れたその手を離せないでいた。
攻めるような、それでいて再会を喜ぶようなメルメの瞳にすまなかったと呟きながら。
事実、魔獣を従えるには調教師の存在なくして成功した例は今まで一つも報告されておらず、現在ではテイマー以外には不可能だとされている。
そしてこの調教と呼ばれるこの能力を有する者たちは、例外なく属性魔法の適正を持っている者が一人もいない。
この事から、研究者の間ではこの力は属性魔法の一種ではないかと言う話が有力とされているのだが、結局のところそれを証明するすべが無く、あくまでも通説とされていた。
このように、この調教に関しては何もわかっていないと言うのが正直なところで、その原理や仕組みはもちろん、もし属性魔法の一種だとするのなら何故調教だけ呪文が存在しないのか? 何故魔法陣が現れないのか? 何故代わりに陽炎のようなものが現れるのか? 結局のところ何もわかっていない。
それでも人々は昔から魔獣を従えるために、この能力を使ってきた。
そしてオレたちもまた、その仕組みはわからないまま、こうしてナイトメアと対峙しているのだった。
「テグスさん、横に飛んで!!」
リシルは、自身も避けながら、的確にテグスに指示をだす。
「お、ぉぉぉぉ!?」
そしてドタドタとそれに続くように移動するテグスの真後ろに、大きな火柱があがる。
「あっちぃな!? くそぉ!! また一からかよ!!」
物理的な移動や攻撃はオレがいなし、魔法による攻撃はリシルが何とか防いでいるのだが、オレたちにとって想定外だったのが、このナイトメアが位置指定で発動する高位の魔法まで使いこなしてきたことだった。
これにより、せっかく調教が順調に進んでいても、テグス自身が大きく避けなければいけない為、集中が途切れ、また調教が振り出しに戻ってしまうのだ。
「テッドさん! お客さんが来たようだ! 僕の方で対処するが問題ないな!」
ゲイルの方にちらりと視線を向けると、そこには腰ほどの高さがあるジャイアントスパイダーという大きな蜘蛛の魔物の姿が見えた。
一匹だけでなく奥にも何匹かいるようだが、ランク2の魔物なのでゲイルなら一人で何とかしてくれるだろう。
正直、オレとリシルだけだとナイトメアだけで手一杯だったので、ゲイルとデリーが依頼を引き受けてくれたのは本当にありがたかった。
まぁデリーは調子に乗りそうだから、口には出さないけど。
「わかった! そっちは頼む!」
ゲイルは目線だけをこちらに向けて頷くと、広場に入ってこようとしていたジャイアントスパイダーに斬りかかっていく。
広場に足を踏み入れようとしていた最初の一匹を瞬く間に切り刻むと、その斬り捨てた一匹目の胴体を蹴飛ばし2匹目を怯ませ、斜め後ろにいた他のジャイアントスパイダーにも一匹目と同じ運命を辿らせる。
魔物との間合いの取り方、タイミング、的確な攻撃部位と言い、さすがA級冒険者といった所だろうか。
わずかな時間で8匹もいたジャイアントスパイダーの群れを倒し切ったのだった。
しかし、調教はまだ始まったばかりだ。
その後もオレたちは、根気よく調教を続けていく……つもりだった。
それから半刻ほど経った頃だろうか。テグスが疑問の声をあげる。
「コイツ何だかおかしいな……すれてるだけかと思ったんだが、どうも前の主人を引きずっているような感じがするぞ!」
オレと行動を共にしていたのは、もう15年以上前の話だ。
だがその言葉を聞いて、まさかとは思いつつも、従魔を操るときに使う魔力の波動をコッソリとナイトメアにあててみる事にした。
ナイトメアの突進を鞘を付けたままのレダタンアで上手く力を右下に逃して受け流すと、魔力の波動を流し込む為に躱しざまに左手を首元にあてがる。
ナイトメアの名前は『メルメ』。
リシルの母親であるルルーロに強引に押し切られる形で名付けた可愛らしい名前だが、15年ぶりにその名を心の中で呟きながら魔力の波動を練り上げて流し込む。
「メルメ……すまなかったな……」
そこにいるものだけに聞こえるように呟いたオレのその言葉に、まるで正気を取り戻すようにくりりとした目をこちらに向けるナイトメア。
と、同時に放たれたテグスの陽炎がナイトメアを包み込んでいく。
一瞬びくりと身体を硬直するような仕草をするが、まるでそれを受け入れるかのように大人しくなって、それまでの抵抗が嘘のようにその動きをとめる。
「おいおいマジかよ……あっさり成功しちまったじゃねぇか……」
テグスがさき程までの抵抗が嘘のようにあっさり成功した事に、事態を飲み込めずにそう呟く。
「え? え? えぇぇぇ!? どういう事?? もう成功したの!?」
「んん? 僕が目を少し話している間に……いや、しかし本当なのか?」
リシルとゲイルも、突然あっさり成功したと言われて、まだ信じられていないようだった。
「いやぁ~俺もちょっと信じられないんだが、完全に調教成功しちまってるようだ……」
そして徐々にナイトメアを調教したのだと実感がこみ上げてきたオレたちは、ようやく喜びの声をあげるのだった。
ただ、オレはその場に立ちつくし、首元に触れたその手を離せないでいた。
攻めるような、それでいて再会を喜ぶようなメルメの瞳にすまなかったと呟きながら。
0
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
S級スキル【竜化】持ちの俺、トカゲと間違われて実家を追放されるが、覚醒し竜王に見初められる。今さら戻れと言われてももう遅い
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
主人公ライルはブリケード王国の第一王子である。
しかし、ある日――
「ライル。お前を我がブリケード王家から追放する!」
父であるバリオス・ブリケード国王から、そう宣言されてしまう。
「お、俺のスキルが真の力を発揮すれば、きっとこの国の役に立てます」
ライルは必死にそうすがりつく。
「はっ! ライルが本当に授かったスキルは、【トカゲ化】か何かだろ? いくら隠したいからって、【竜化】だなんて嘘をつくなんてよ」
弟である第二王子のガルドから、そう突き放されてしまう。
失意のまま辺境に逃げたライルは、かつて親しくしていた少女ルーシーに匿われる。
「苦労したんだな。とりあえずは、この村でゆっくりしてくれよ」
ライルの辺境での慎ましくも幸せな生活が始まる。
だが、それを脅かす者たちが近づきつつあった……。
【旧版】パーティーメンバーは『チワワ』です☆ミ
こげ丸
ファンタジー
===================
◆重要なお知らせ◆
本作はこげ丸の処女作なのですが、本作の主人公たちをベースに、全く新しい作品を連載開始しております。
設定は一部被っておりますが全く別の作品となりますので、ご注意下さい。
また、もし混同されてご迷惑をおかけするようなら、本作を取り下げる場合がございますので、何卒ご了承お願い致します。
===================
※第三章までで一旦作品としては完結となります。
【旧題:異世界おさんぽ放浪記 ~パーティーメンバーはチワワです~】
一人と一匹の友情と、笑いあり、涙あり、もう一回笑いあり、ちょこっと恋あり の異世界冒険譚です☆
過酷な異世界ではありますが、一人と一匹は逞しく楽しく過ごしているようですよ♪
そんなユウト(主人公)とパズ(チワワ)と一緒に『異世界レムリアス』を楽しんでみませんか?(*'▽')
今、一人と一匹のちょっと変わった冒険の旅が始まる!
※王道バトルファンタジーものです
※全体的に「ほのぼの」としているので楽しく読んで頂けるかと思っています
※でも、時々シリアスモードになりますのでご了承を…
=== こげ丸 ===
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる