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【第33話:ワインレッド】

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 朝食を食べ終わると、リシルにもう一度『魔眼アーキビスト』を使ってナイトメアの居場所を確認してもらう。

 少し遠くを見つめるオッドアイ。
 エルフらしい少し目尻の上がったキリリとしたその瞳の中には、どのような景色が見えているのだろうか。
 時間にしてわずか10秒ほど。
 ほんのひと時の静寂の後、リシルは口元に薄っすらと笑みを浮かべながら言葉を発した。

「居たわよ! しかも、洞窟の中にね!」

 その言葉を聞いた瞬間、皆こぶしを握り締め、口々に喜びの声をあげる。

「良し! ナイトメアちゃんよ~俺が調教テイムしてやるからな!」

「さぁ、ナイトメアがいるとわかったのならゆっくりしていられない。すぐに出発しよう!」

 オレもちょっと興奮気味のようだ。
 皆で急いで野営の設備を撤収すると、慌ただしく歩みを進めたのだった。

 ~

 野営地を出発して1刻ほどだろうか。
 街道を少しそれた辺りに丁度よい木々の開けた場所を見つけると、馬を繋ぎとめる。
 馬車で進むことが出来るのはここが限界のようだ。

「それじゃぁ、デリー。グレイプニルたちを頼んだぞ」

 テグスのその言葉に、デリーは

「ちぇっ。仕方ねぇなぁ。俺も本当は参加したかったのによぉ」

 と、不満そうにこたえる。

「そう言うな。絶対捕まえてナイトメアを見せてやるから。悪いけど頼んだぞ」

 デリーはやはり不満はあるようだったが、それでも「まかせておけ」と返事をすると、預けた結界石を3つずつ配置しはじめる。

 ちゃんと学習しているその様子を意外そうに見ていると、

「お、俺だって学習ぐらいするってんだ! さっさと行って捕まえて来いよ!」

 そう言ってオレたちを追い払うデリー。

「おう。それじゃぁ行ってくる!」

「僕がどんな様子だったか後で説明してあげるさ」

「ナイトメア楽しみにしてな!」

「見張りしっかりお願いね」

 こうしてオレたち4人は、更に森の奥に入っていくのだった。

 ~

 洞窟の入口に辿り着くまでに更に1刻。
 途中遭遇したゴブリンが逃げて行ったぐらいで、特に問題なく辿り着いた。

「さぁ、ここからは慎重にいくぞ。打ち合わせ通り、オレとリシルが先頭。真ん中にテグス。後ろをゲイルだ」

「わかっている。僕も予備の灯りを持てばいいんだな?」

 大きな松明をテグスに持たせるのだが、不測の事態に備えて予備の灯りとして魔道具のランタンをゲイルにも持ってもらう手はずだ。

「あぁ。リシル、ランタンをゲイルに渡してやってくれ。あと、事情は話したがオレは基本的に剣を抜く事は出来ない。鞘に入れたままで鈍器としても戦えるが、基本的には魔法で戦うと思っておいてくれ」

 いざとなればリシルに合図を送った後で抜剣するつもりだが、基本的には黒魔法をメインに使い、補助として鞘ごとレダタンアを振るって、鈍器として戦う予定だ。

「わかっているけどよぉ。テッドはまた難儀な剣と契約しちまったよなぁ」

 リシル以外の3人には、剣を抜くと命を削る魔剣だと説明してある。

「逆に言えば、命を削るほどの力を秘めた魔剣という事になるのだろ? 僕的にはちょっと羨ましいですね」

「ばぁか。命あっての物種だろ? テッドはそんな魔剣抜くんじゃねぇぞ」

 二人それぞれ性格が出ているなと苦笑しながら、

「わかっている。オレとリシルの身が危険な時しか抜かないから安心しろ」

 そう言って肩をすくめてお道化てみせるのだった。

 ~

 洞窟の中は外気よりかなり気温が低いらしく、外の暖かな気候と比べて肌寒いほどだった。
 少し湿った洞窟の岩肌は松明の揺れる炎に照らされ少し神秘的で、時折聞こえる水滴が弾ける音が心地よかった。

 ただ……静かすぎた。

「やはりナイトメアが入り込んでいるからか、魔物の気配がないな」

「そうね。あと半刻もしないうちにナイトメアが寝床にしている広場に辿り着くと思うから、気を引き締めてね」

 この先、少し進んだ先にナイトメアがいる。
 リシルの魔眼では既に捉えており、他に洞窟の外に出る道もないようなので間違いないだろう。

 そして……そいつは現れた。

「おいおい……マジかよ……」

 広場の隅から覗き込んだテグスが驚きの声をあげる。

「ん? どうしたのだ? 僕にもわかるように言ってくれないか?」

「情報としてはわかっていたけど、やっぱり少し赤っぽいわね?」

 リシルのその呟きにテグスが噛みつく。

「なんで知っていたんなら言わねぇんだよ!? ナイトメアは漆黒だといったろ! あのワインレッドのナイトメアは上位種だ! しかも見て見ろ、あのあちこちに負った傷跡。ありゃぁ相当な修羅場をくぐり抜けてきた猛者だぞ……」

 ナイトメアは強い。
 それを傷つけるほどの敵と相対してきた証だとテグスは興奮気味に説明する。

 しかし、オレはそれどころでは無かった。

「そりゃぁそうだろうな……魔人国ゼクストリアから、ここまで生きて辿り着いたんだ……」

 死んだと思っていた。

 しかし、あの頬にある傷は間違いない。
 種族こそ上位種に変化しているようだが、魔王城ガラリアに攻め入った時、共に突入する事が出来ず、はぐれてしまったナイトメア元相棒の姿だった。
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