上 下
17 / 59

【第16話:旅の始まり】

しおりを挟む
 トーマスの村を出て2週間が経とうとしていた。

 あれからリシルと旅をする事になったオレは、二人で話し合ってまずは騎獣を手に入れようという事になり、メギタスの先にある大きな街『テイトリア』を目指している。

 馬ならメギタスでも手に入ったのだが、冒険者は危険な地に赴く事も多く、普通の馬だと魔物に襲われた際に命を落とす事が少なくない。
 その為、移動の多い冒険者の間では調教師テイマーと呼ばれる人達が捕まえた『魔獣』に乗る者が多い。

 魔獣とは魔物同様に魔力を糧に位階をあげる事ができる生物で、普通の獣とも、魔力の乱れから発生する魔物とも違う別の存在だ。

 一般的には通常の獣などが長い年月の間に魔力の影響を受け、その生態を変化させたものだと言われているが詳しくはわかっていない。
 ごく一部、魔力の影響受けたもの以外に、もともとそう言う種として存在していたとされている特殊な魔獣もいるのだが、これらは魔獣とは区別されている。

 そんな魔獣の中で冒険者に人気があるのは、ラプトルと言う大きな二足歩行のトカゲの魔獣や、歩みこそ遅いが力があり頑丈な水牛の魔獣エアレー、6本足の巨大な馬の魔獣グレイプニルなどだろうか。

 中でも、ラプトルは体力があって足も速く、低ランクの魔物を倒せるほどの戦闘力を併せ持つので一番人気だ。

 まぁ他には冒険者憧れの夢の騎乗生物として、ワイバーンやグリフォンと言った空飛ぶ騎獣があげられるのだが、特殊な騎士団やSランク冒険者ぐらいしか所持する事は不可能なのでここでは省いておく。

 そしてオレやリシルが入手したいと考えているのはラプトルだ。
 だが、前述のように一番人気のある騎獣のために常に品薄で、テイトリアでも手に入れるのには時間がかかるだろう。

 どちらにしろメギタスで待っていても入手できないので、メギタスでは一泊だけして旅の準備をしてすぐに出発している。
 ただ、運が悪い事にメギタスからの乗り合い馬車がちょうど出発したばかりだったため、今はのんびりと街道を歩いて向かっている状況だ。

 二人とも冒険者で体力にも自信があり、街道付近に出る魔物なら脅威とはならないため、徒歩で向かっても問題はないと同じ意見だった。

 そしてメギタスの街を出てすでに4日。
 テイトリアの街までは徒歩だと5日ほどの距離なので、明日の昼ごろまでには着くだろう。

「それでテッド。テイトリアに着いたらどうするの? 騎獣ラプトルはすぐ購入出来そうにないでしょ?」

 リシルが銀髪を靡かせオレの前まで回り込むと、オッドアイの瞳を輝かせて顔を覗き込むようにして聞いてくる。

「そうだな。とりあえず冒険者らしく何か適当に依頼でも受けようかと思っているんだが……構わないか?」

「構わないけど、無理に依頼受けないでも良いのよ? テッドが早く私にランク追い付きたいって言うのなら協力するけど?」

 そう言ってクスクスと笑いながらウインクしてくる。

 あの時、最後だと思って余計な事言ってしまったからか、時々こうやってドキリとするような表情を向けてくる。

 まぁ可愛いのは認めるが、また悪戯っ子の目になっていて少しげんなりする。
 まぁ、大人の余裕で受け止めて……いや、やっぱりたまには反撃しておこう。大人の威厳も大事だ。うん。

「何だ? オレの冒険者ランクが何か?」

 と言って、オレはこっそり入れ替えた冒険者タグが見えやすいように少し顎をあげる。

 このプラチナのタグは15年前まで使っていた正真正銘オレの冒険者タグだ。
 ただ、世界から忘れられた存在なのに、いきなりSランクの冒険者として行動すると色々と厄介ごとが多いのがわかったので、今は封印しているのだが。

「うわっ!? いつの間に! 昔の引っ張り出してくるなんてズルい!! 大人の癖にずるい!!」

 オレの首にかかるプラチナ製の冒険者タグに気付いたリシルが抗議の声をあげるが、大人のずるさ……じゃなくて威厳で却下しておく。まぁ、威厳とは関係ないが。

「昔のだろうが本物だし。オレのものってのに嘘はないし」

 そんな他愛もない会話をしながら街道を歩いていた時だった。

 かなり遠くに感じたが、前方から何か大きな魔法を使ったような音が聞こえてきた。

「何かな? 誰かが魔物とでも戦ってるいるのかしら?」

 音の聞こえてきた方に道が曲がっており、森の木々が邪魔してここからでは視認できないようだ。

「どうする? 厄介ごとに巻き込まれるかもしれないが……まぁ行くに決まっているよな」

 オレはリシルを気にして駆け出すか一瞬迷ってしまっていたが、途中でリシルの視線がきつくなったのを感じ取って素直に行動する事にした。

「私に遠慮なんてしないでよね。じゃぁ、強化をかけるわよ!」

 そう言って詠唱を開始する。

≪緑を司る解放の力よ、我が魔力を糧に衣となりて道を示せ≫

薫風くんぷうの囁き≫

 少し先に出現した緑の魔法陣を二人で潜り抜け、風を纏うと一気にスピードをあげて駆け抜ける。

 その速度に視界が狭くなり、景色が後ろに流れていく。

 強化魔法は唱えるものの練度によってその効果が決まる。
 そしてリシルのそれはヒューの奴にこそ劣るが、驚く程の効果を授けてくれていた。

「さすがヒューの娘だな」

 思わず呟いてしまったオレの声は、風に掻き消えてリシルには届かなかったようだが、親と比べられるのを極端に嫌うリシルに聞こえなくて良かったかもしれない。

 そんな事を考えているうちに魔法音がだんだんと大きくなり、それが明らかに戦闘によるものだと言うのがわかった。

 何故なら、

「だ、だれか~! た、助けてくれ~!!」

 そう言って馬車から叫ぶ御者の男に、馬で並走しながら後ろに魔法を放つ女性の姿が見えたのだ。

「何かに追われているようだ! 急ぐぞ!」

 そして街道を曲がったところで目に飛び込んできたのは、飛竜ワイバーンに襲われる商人の姿だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女をイケメンに取られた俺が異世界帰り

あおアンドあお
ファンタジー
俺...光野朔夜(こうのさくや)には、大好きな彼女がいた。 しかし親の都合で遠くへと転校してしまった。 だが今は遠くの人と通信が出来る手段は多々ある。 その通信手段を使い、彼女と毎日連絡を取り合っていた。 ―――そんな恋愛関係が続くこと、数ヶ月。 いつものように朝食を食べていると、母が母友から聞いたという話を 俺に教えてきた。 ―――それは俺の彼女...海川恵美(うみかわめぐみ)の浮気情報だった。 「――――は!?」 俺は思わず、嘘だろうという声が口から洩れてしまう。 あいつが浮気してをいたなんて信じたくなかった。 だが残念ながら、母友の集まりで流れる情報はガセがない事で 有名だった。 恵美の浮気にショックを受けた俺は、未練が残らないようにと、 あいつとの連絡手段の全て絶ち切った。 恵美の浮気を聞かされ、一体どれだけの月日が流れただろうか? 時が経てば、少しずつあいつの事を忘れていくものだと思っていた。 ―――だが、現実は厳しかった。 幾ら時が過ぎろうとも、未だに恵美の裏切りを忘れる事なんて 出来ずにいた。 ......そんな日々が幾ばくか過ぎ去った、とある日。 ―――――俺はトラックに跳ねられてしまった。 今度こそ良い人生を願いつつ、薄れゆく意識と共にまぶたを閉じていく。 ......が、その瞬間、 突如と聞こえてくる大きな声にて、俺の消え入った意識は無理やり 引き戻されてしまう。 俺は目を開け、声の聞こえた方向を見ると、そこには美しい女性が 立っていた。 その女性にここはどこだと訊ねてみると、ニコッとした微笑みで こう告げてくる。 ―――ここは天国に近い場所、天界です。 そしてその女性は俺の顔を見て、続け様にこう言った。 ―――ようこそ、天界に勇者様。 ...と。 どうやら俺は、この女性...女神メリアーナの管轄する異世界に蔓延る 魔族の王、魔王を打ち倒す勇者として選ばれたらしい。 んなもん、無理無理と最初は断った。 だが、俺はふと考える。 「勇者となって使命に没頭すれば、恵美の事を忘れられるのでは!?」 そう思った俺は、女神様の嘆願を快く受諾する。 こうして俺は魔王の討伐の為、異世界へと旅立って行く。 ―――それから、五年と数ヶ月後が流れた。 幾度の艱難辛苦を乗り越えた俺は、女神様の願いであった魔王の討伐に 見事成功し、女神様からの恩恵...『勇者』の力を保持したまま元の世界へと 帰還するのだった。 ※小説家になろう様とツギクル様でも掲載中です。

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...