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【第14話:失ったもの】

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 一人の少女がこちらに駆け寄ってきていた。

 肩にかかる輝く銀髪を靡かせ、オレの側までやってきたその少女が嬉しそうに話しかけてくる。

「凄いですね! 助けてくれてありがとう! 正直私一人じゃ危なかったわ!」

「気にしないでいいさ。少し苦戦したが倒し切れて良かったよ」

「私の名前はリシル。一応、これでもBランクの冒険者よ。よろしくね!」

 見知ったはずのその少女、リシルはそう言って右手を差し出してきた。

 やはりそうなるよな……。

 オレはその言葉を心の中に仕舞い込み、

「オレの名前はテッド。Cランクの冒険者だ」

 同じく右手を出して握手を交わすのだった。

 ~

 魔人たちの死体と、転がる無数の魔晶石を回収したオレ達は村の門まで戻ってきていた。
 回収には魔人の一人が持っていた空間拡張された魔法鞄を利用させてもらった。

 閉じられた門の前まで来ると、確認用の覗き穴から衛兵のゴドーが声をかけてくる。

「ちょっと待て! 今は有事のため門を閉じている。悪いが身分証明になるものを出してくれないか?」

 そう言われたオレは、懐からブロンズのタグを取り出して冒険者である事を証明する。

「冒険者か……疑って悪かったな。門を少しだけ開けるからちょっと待っててく……あ!? そっちの子はさっき出て行ったBランクの!? 無事だったのか! どうなったんだ!?」

 オレの後ろにリシルの姿を見つけたゴドーが、期待に満ちた目でそう問いかける。

「えぇ。まだ魔物の残党はいるかもしれないけど、主だった魔物も原因をつくった奴らも倒してきたわ」

 リシルのその言葉に、門の向こう側から喜ぶ皆の声が聞こえてくる。
 オレはどこかその声を遠くに感じながら、初めてこの村にやってきた時の事を思い出していた。

「ここならもう事も無いと思っていたんだがなぁ……」

 思わず出た言葉に、気付けば頬を伝う一筋の跡。

 涙もろくなったのは年のせいかな……。

 歓喜の声を聴きながらそっと気付かれないように親指でぬぐっていると、リシルがそっと肩に手をかけて声を掛けてくる。

「皆の喜ぶ声を聞けて良かったわ! あなたのお陰よ!」

 そうだ。

 皆の喜ぶ声が聞けたのだから、皆の生活が守れたのだから、これ以上贅沢を言うべきじゃない。

「みんな無事で本当に良かった。本当に……」

 その日は村をあげての歓待を受けたのだった。

 ~

 翌朝、村長の家に泊めて貰ったオレは朝早くに冒険者ギルドに向かった。

「おはようございます」

 そう言って扉をあけたオレに、

「あらぁ!? 英雄さんじゃないの!? 昨日はよく眠れたかい?」

 とサクナおばさんが声を掛けてきた。
 仲良くなった人たちに他人行儀に話されるのは何度経験しても慣れないものだが、それでも辛い気持ちを飲み込むのには少し慣れてきたようだ。

「あぁ。村長の家に泊めて貰って上等なベッドを用意してもらったからね」

 実際は色々考えてしまって結局一睡も眠れなかったが、3、4日寝ないでもオレの体なら平気だろう。

「それでこんな朝早くどうしたんだい?」

「ちょっと慌ただしいが、もうここを出ようと思ってね」

 オレはという事にしてある。

「えぇ~!? 少しはゆっくりしていってくれれば良いのにさ~」

「悪い。ちょっと行くところがあってね。昼前には出ようと思っている。でも、その前に昨日の報告で問題ないか確認しておこうかと寄ったんだ」

 昨日のうちに粗方の報告は終えて、原因を作った魔人たちの亡骸も渡してある。
 今日か明日にはメキダスの街から応援が来るだろう。

 その後、今回起こった事の顛末をサクナおばさんと再度擦り合わせ、一部、追加の報告をして確認を終える。

「それじゃぁオレはもう行くよ。村長にはここを出る事は伝えてあるから……それから……サクナおばさんも元気でな!」

「え……? あ、あぁ、ありがとうね? この辺境の村まで英雄さんの活躍が聞こえてくるのを期待しているよ」

 5年間ほぼ毎日のように顔をあわせ、とりとめのない話をしていた。
 その最後に交わした会話は、何だかよそよそしくて、出会ったばかりの頃を思い出すようだった。

 ~

 冒険者ギルドを後にしたオレが門に向かって歩いていると、後ろから突然声をかけられた。

「す、すみません!」

 振り返ったオレが少し視線を下げると、そこには恥ずかしそうにしているセナの顔があった。

「セナ……」

 思わずそう呟いてしまったが、幸いセナには聞こえなかったみたいだ。

「……えっと、確か冒険者になり立てって言ってた子だね」

 そう話しかけると、パーッと花が咲くような満面の笑みを浮かべて

「は、はい! 昨日、挨拶させて貰ったセナって言います!」

 元気よく返事が返ってきた。

「む、村を救ってくれて本当にありがとうございました! そ、それで……その……オレもいつかテッドさんみたいな冒険者になってみせます! 何年もかかるかもしれませんけど、いつか……きっといつか絶対になってみせます!」

 腰に差した真新しい剣の柄をギュッと握り締め、決意表明をするようにオレに伝えてくる。

「そうか……セナは……いや、若い冒険者はついつい無理をしがちだ。いつでもしっかり安全マージンをとって、無理をしない事。それをしっかり守って頑張れば、オレぐらいすぐに追い越せるさ」

 そう言ってセナの頭をくしゃっと撫でてあげた。

「あ……」

 一瞬そう呟いたセナだったが、そこから元気よく「わかりました!」と返事をすると、最後に深くお辞儀をして走り去っていく。

「この村の依頼は任せたぞ……」

 オレは誰に聞かせるわけでも無く呟くと、その後ろ姿を見えなくなるまで見送るのだった。
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