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【第12話:聖魔剣】
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メキメキと大きな音を立てて倒れる木々たち。
そこから最初に現れたのは単眼巨人ではなく、小さな無数の影、小鬼の群れだった。
「さて……久しぶりに本気で頑張ってみるか」
オレが準備運動をしながら前に出ると、事前の作戦通りに魔法の言葉がつむがれる。
≪緑を司る解放の力よ、我が魔力を糧に衣となりて道を示せ≫
≪薫風の囁き≫
詠唱の完了と共にオレの目前に現れた緑の魔法陣を、オレはゆっくりと歩いてくぐり抜ける。
魔法陣をくぐり抜けると風の加護が全身を覆い、強力な補助効果がこの身に付与される懐かしい感覚が駆け抜けた。
戦いに明け暮れたあの頃の記憶が蘇り、長く消えた心の火を灯すようだ。
すると、リシルが期待と不安の入り混じった視線を向けながら話しかけてきた。
「ね、ねぇ! 期待して良いのよね? でも……危なくなったら逃げるのよ? まだテッドさんに聞きたい事がいっぱいあるんだから!」
「大丈夫だよ。それとさんはいらない。テッドで良い。臨時でもたった二人のパーティーなんだ。敬称なんて不要だろ?」
オレはそう言って少し振り返ってお道化た笑みを見せる。
「!?……え、えっと……わ、わかったわ。て、テッド。危なくなったら無理せず一旦ここまで引いてくるのよ!」
こんなおじさん相手でも少し照れてくれるらしい。
「その笑顔にその照れ隠し。何だかオレが昔惚れてた人にそっくりだな」
オレは思わず頭の中によぎった言葉を口に出してしまっていた。
「ほぇ!? なななな!? こ、こんな時に何言ってるのよ!?」
「こんな時だからさ。それと……聞きたい事には答えられないかもしれないから、先に謝っておく」
その言葉に勘違いしたリシルが今度は泣きそうな顔になり、
「ちょ、ちょっと……死ぬ覚悟で挑むとかじゃないよね? 嫌だよ?」
と今度は真っ赤な顔を青くして不安そうに聞いてくる。
「悪い。勘違いさせたようだな。死ぬ気はないから安心してくれ。ただ……」
オレが話を続けようとすると、ゴブリンどもがこちらに気付いて駆け出す姿が見えた。
「最後だ。短い時間だったけど、リシルと出会えて良かったよ。ありがとう」
その言葉の意味がわからず今度は顔に戸惑いの色を浮かべるリシル。
本当はやさしい癖に意地っ張りで、隠すのが下手でコロコロ表情を変えるその姿は、やはり似ているな。
『勇者だからって死なないわけじゃないんだからね!』
そう言う記憶の中の彼女とリシルの顔が重なって見えた。
ゆっくりと歩みを進めながらオレは剣の柄に手をかける。
「さぁ起きろ相棒! 聖魔剣レダタンア!」
そう叫びながら剣をゆっくりと引き抜いた。
剣身から溢れ出す黒き光の奔流に驚く声。
「テッド!?」
少し遠くでリシルの声が聞こえたがもう振り返らなかった。
剣身から溢れ出した黒き闇の奔流がオレを覆い隠し、視界を塗り潰していく。
あの日、聖剣に満たされていた聖なる力は枯れ果て、魔の力に大きく傾いた。
その結果、この剣は魔剣へと姿を変えた。
いや……正確じゃないな。この剣は聖魔剣レダタンア。
最初から聖なる光の力も魔なる闇の力も併せ持つ聖魔剣。
ただ、対極のその力は共存しない。出来ない。
あの日使った『聖魔輪転』によって魔に大きく傾き、魔剣としての性質が表に出ただけだ。
聖なる力は祈りの力。
魔なる力は呪いの力。
この世界の住人なら誰もが知っている言葉だ。
魔に傾いたこの剣は主であるオレを呪い、世界はオレを拒絶した。
原理や理屈はわからない。
だが、この力を振るえば……オレは世界から拒絶される。
また……世界から忘れられる。
「とりあえず雑魚中の雑魚に用は無いよ」
何だか口調まで昔に戻ったようだ。
漆黒の鎧に身を包んだオレは、闇を纏った剣を一薙ぎする。
「ギャギャ!!」
何が起こったか理解していないゴブリンどもは、自身の身に起こった事を理解できないまま最期の時を迎えた。
刀身に纏った闇の刃が纏めてゴブリンどもの体を上下に二分し、霧散させる。
倍に増えたそのゴブリンの体が霧散するのは、普通暫く時間が経ってからだ。
しかし、この剣で斬られた魔物は魔力を喰われてそのまま消え失せる。
そしてその魔力は……、
「ゴブリンの魔力は何だか不味い気がするのは気のせいか?」
オレの体に吸収される。
それからすぐにオーガたちも同じ運命を辿る。混ざっていたウォリアーアントも。
戦いにすらならなかった。
技や魔法を使う必要すらなく、一振りするごとに数体から数十体の魔物が掻き消えた。
「さぁ……残っているのはサイクロプスと……そこの魔人どもか?」
そこから最初に現れたのは単眼巨人ではなく、小さな無数の影、小鬼の群れだった。
「さて……久しぶりに本気で頑張ってみるか」
オレが準備運動をしながら前に出ると、事前の作戦通りに魔法の言葉がつむがれる。
≪緑を司る解放の力よ、我が魔力を糧に衣となりて道を示せ≫
≪薫風の囁き≫
詠唱の完了と共にオレの目前に現れた緑の魔法陣を、オレはゆっくりと歩いてくぐり抜ける。
魔法陣をくぐり抜けると風の加護が全身を覆い、強力な補助効果がこの身に付与される懐かしい感覚が駆け抜けた。
戦いに明け暮れたあの頃の記憶が蘇り、長く消えた心の火を灯すようだ。
すると、リシルが期待と不安の入り混じった視線を向けながら話しかけてきた。
「ね、ねぇ! 期待して良いのよね? でも……危なくなったら逃げるのよ? まだテッドさんに聞きたい事がいっぱいあるんだから!」
「大丈夫だよ。それとさんはいらない。テッドで良い。臨時でもたった二人のパーティーなんだ。敬称なんて不要だろ?」
オレはそう言って少し振り返ってお道化た笑みを見せる。
「!?……え、えっと……わ、わかったわ。て、テッド。危なくなったら無理せず一旦ここまで引いてくるのよ!」
こんなおじさん相手でも少し照れてくれるらしい。
「その笑顔にその照れ隠し。何だかオレが昔惚れてた人にそっくりだな」
オレは思わず頭の中によぎった言葉を口に出してしまっていた。
「ほぇ!? なななな!? こ、こんな時に何言ってるのよ!?」
「こんな時だからさ。それと……聞きたい事には答えられないかもしれないから、先に謝っておく」
その言葉に勘違いしたリシルが今度は泣きそうな顔になり、
「ちょ、ちょっと……死ぬ覚悟で挑むとかじゃないよね? 嫌だよ?」
と今度は真っ赤な顔を青くして不安そうに聞いてくる。
「悪い。勘違いさせたようだな。死ぬ気はないから安心してくれ。ただ……」
オレが話を続けようとすると、ゴブリンどもがこちらに気付いて駆け出す姿が見えた。
「最後だ。短い時間だったけど、リシルと出会えて良かったよ。ありがとう」
その言葉の意味がわからず今度は顔に戸惑いの色を浮かべるリシル。
本当はやさしい癖に意地っ張りで、隠すのが下手でコロコロ表情を変えるその姿は、やはり似ているな。
『勇者だからって死なないわけじゃないんだからね!』
そう言う記憶の中の彼女とリシルの顔が重なって見えた。
ゆっくりと歩みを進めながらオレは剣の柄に手をかける。
「さぁ起きろ相棒! 聖魔剣レダタンア!」
そう叫びながら剣をゆっくりと引き抜いた。
剣身から溢れ出す黒き光の奔流に驚く声。
「テッド!?」
少し遠くでリシルの声が聞こえたがもう振り返らなかった。
剣身から溢れ出した黒き闇の奔流がオレを覆い隠し、視界を塗り潰していく。
あの日、聖剣に満たされていた聖なる力は枯れ果て、魔の力に大きく傾いた。
その結果、この剣は魔剣へと姿を変えた。
いや……正確じゃないな。この剣は聖魔剣レダタンア。
最初から聖なる光の力も魔なる闇の力も併せ持つ聖魔剣。
ただ、対極のその力は共存しない。出来ない。
あの日使った『聖魔輪転』によって魔に大きく傾き、魔剣としての性質が表に出ただけだ。
聖なる力は祈りの力。
魔なる力は呪いの力。
この世界の住人なら誰もが知っている言葉だ。
魔に傾いたこの剣は主であるオレを呪い、世界はオレを拒絶した。
原理や理屈はわからない。
だが、この力を振るえば……オレは世界から拒絶される。
また……世界から忘れられる。
「とりあえず雑魚中の雑魚に用は無いよ」
何だか口調まで昔に戻ったようだ。
漆黒の鎧に身を包んだオレは、闇を纏った剣を一薙ぎする。
「ギャギャ!!」
何が起こったか理解していないゴブリンどもは、自身の身に起こった事を理解できないまま最期の時を迎えた。
刀身に纏った闇の刃が纏めてゴブリンどもの体を上下に二分し、霧散させる。
倍に増えたそのゴブリンの体が霧散するのは、普通暫く時間が経ってからだ。
しかし、この剣で斬られた魔物は魔力を喰われてそのまま消え失せる。
そしてその魔力は……、
「ゴブリンの魔力は何だか不味い気がするのは気のせいか?」
オレの体に吸収される。
それからすぐにオーガたちも同じ運命を辿る。混ざっていたウォリアーアントも。
戦いにすらならなかった。
技や魔法を使う必要すらなく、一振りするごとに数体から数十体の魔物が掻き消えた。
「さぁ……残っているのはサイクロプスと……そこの魔人どもか?」
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