忘れられた元勇者~絶対記憶少女と歩む二度目の人生~

こげ丸

文字の大きさ
上 下
11 / 59

【第10話:その正体】

しおりを挟む
「真実を見抜く魔眼……アーキビスト……」

 真実を見抜く? それってどういう意味だ?
 オレの過去に起こった出来事までわかるという事か?

「……ッドさん! テッドさん? どうしたの?」

 リシルの呼びかけに我に返ったが、少し混乱してしまったようだ。
 しかし、オレってこんなに弱かったのか?

 それとも……弱くなったのか……。

「ちょっと混乱していた。すまないな」

「気にしないで。でも、だから私にはわかるのよ。あなたが……」

 リシルがその言葉を発しようとしたその時、2度目の轟音が響き渡ったのだった。

 ~

 その轟音は先ほどの祠が破壊されたような音とは違って、何かもっと別の音だった。

「今度は近いぞ!?」

「いったいなに!? 何が起こっているのよ!?」

 周りにいた村人たちが怯え、叫んでいた。
 その混乱は別の者の不安を煽り、恐怖に変わっていく。

 15年前、まだ世界が戦禍に見舞われていた頃ですら、この村は幸運にも直接の被害を受けなかった。
 それはつまり、この村のほとんどの者は戦いを知らないという事だった。

 群衆の混乱と言うものは、時に勝てる戦いに不要な被害をもたらす。
 何とかしなければ……しかし、そう考えたのはオレだけではなかったようだ。

≪緑を司る解放の力よ、我が魔力を糧に風となりて声を届けよ≫

とどろく風≫

 リシルの詠唱により現れた緑の魔法陣は、一陣の風を生み、村中にその声を届ける。

『みなさん! 落ち着きましょう! 私はリシル。Bランクの冒険者です! 村を覆う守護結界はいまだ健在ですし、この原因となっている事にも心当たりがあります。私はこの村の者ではないけれど、同じ冒険者のテッドさんと協力して必ずこの村を守ってみせます! 魔物が襲ってきた時の訓練はしていませんか? 訓練通りやれば大丈夫です。皆でこの事態を乗り越えましょう!』

 何だかリシルが眩しかった。

 最初は突然聞こえてきたリシルの魔法音声に皆ただ驚いていたが、遅れてその言葉を理解する。
 先ほどまでいだいていた恐怖と混乱は姿を消し、代わりに希望と勇気の芽が息吹いていた。

「そ、その通りだ! みんな年に1度の訓練通り行動しようぜ!」

 ゴドーも自身の仕事を思い出したかのように忘れていた声をあげ、丁度よいとばかりに高い櫓の上から指示を出し始める。

「女子供と老人は、村の集会所に! 自警団に所属している者はそれぞれ武器を取って一旦門の所まで集まってくれ!」

 こいつも出会った頃は新米の衛兵だったな。いつもおどおどしていたのに立派になったものだ。

「ちょっとテッドさん! 何そこで遠い目してるんですか!? 私たちも働きますよ!」

 ちょっと感慨深い気持ちになっていたら怒られてしまった……。

「あぁ……すまない! セナ! 悪いが今から話す事をギルドでサクナおばさんに報告しておいてくれないか」

「わ、わかったよ! それぐらいは任せて!」

 今、事態が動いている状況で音に近いこの場を離れるべきではないと判断し、調査依頼の件や、セナ自身の救出の件、この事態の原因は人為的なものである可能性が高い件などを掻い摘んで説明したので、あとはギルドに報告に向かってもらう。

「それじゃぁ頼んだぞ!」

「ほ、報告内容が難しいよ!? 一応、報告するけどテッドさんも後で報告してよね!!」

 掻い摘んで説明したつもりだったが、ちょっと色々詰め込みすぎたようだ……。

「はは。わかったよ。とりあえず急いで頼む!」

 ギルドへの報告の件が済むと、待っていたのかリシルが近寄ってきて小声で話しかけてきた。

「もう終わった? あまり他の人には聞かせれないから……」

「例の組織の件か? それとも今の状況についてか?」

「組織の件もだけど……両方ね」

 表情を変えずにそう言うのだが、何か不味そうな感じだ。

「まず、例の組織は確実に来てるわ。私が魔眼『アーキビスト』で確認した感じだと構成員は5人だから少ない方なんだけど、その代わりに揺らぎで発生する新たな魔物が問題だわ……」

「凄いな。新たに発生するようになった魔物の種類までわかるのか??」

「私のアーキビストは未来は見えないし特別な予測も出来ないけど、過去に起こった事は全て知る事ができるの」

 やはり十分に凄いと思うが、未来が見えると色々と生きにくくなりそうだから、過去だけで良かったかもしれないな。
 オレなら未来なんてものが見えたら、見えた未来に肝心のが振り回される自信がある。

「これは私しか知らない情報なんだけど、現象としての『世界の揺らぎ』を起こすのはそれほど難しい事じゃないの」

 そんな情報、一介の冒険者のオレはあまり聞きたくないのだけれど、今はそうも言っていられないか。

「魔物を倒すと暫くすれば元の魔力となって霧散するでしょ? だから死体の残るような特殊な魔物以外は、その死体を遠くに持ち運ぶことはできない。でも、それを可能にする魔法を奴らが編み出したようなの。霧散する前にね、状態保持が出来る魔法を使うのよ」

「そんな魔法があるのか。と言うか編み出したのだったか。でも……死体が持ち運べるようになって何の得があるんだ?」

 研究などには役立つだろうから、王都の魔物研究者なら喉から手が出るぐらい欲しいだろうが……。

「そうね。でも、その消えるはずだった場所ではなく、まったく別の地でその状態保持魔法を解いたらどうなると思う?」

 この話の流れで切り出すんだ。もう答えはわかっているが……。

「そ……それが『世界の揺らぎ』という現象の正体か……」

「うん。そして今回奴らは厄介な魔物の死体を用意してきたみたいなのよ」

 もうその話し方だと嫌な予感しかしない。

「あまり聞きたくない話だけど、聞かせてくれるか? その奴らが用意した魔物の死体ってのは何なんだ?」

「オーガや戦闘蟻ウォリアーアントなどのランク3の魔物と……ランク6の単眼巨人サイクロプスの死体よ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった

根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...