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【第9話:アーキビスト】
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森の奥から響いてきた轟音に、門の周りに集まっていた他の村人も騒然となっていた。
「テッドさん! セナも無事だったんですね! しかしさっきの音は……一体何が起こったんでしょう?」
村人の中に交じっていた衛兵のゴドーがオレを見つけて駆け寄り話しかけてくるが、オレもその質問の答えは持ち合わせていない。
「わからないな……ただ、音の聞こえてきた方向は……」
森の方を振り返って音がした方角に遠い目を向ける。
「テッドさん、たぶん当たり。祠よ。一応調べてみるわ」
リシルはオレの考えを肯定すると、魔眼でもって原因を探り始めたようだ。
しかし、リシルの素性を知らないゴドーが良く分からずに何をしているのかと尋ねてくる。
「テッドさん? その子はいったい? 冒険者のようですけど、何をしているんですか? それに祠っていうのは魔力の乱れを沈めるアレですか?」
「その子はリシル。オレより強いBランクの冒険者だぞ。魔眼で遠くの状況を確認できるようだからちょっと待ってくれ」
「Bランク!? そ、その若さで……」
さっきまでリシルの容姿にちょっと鼻の下を伸ばしていた顔が、その驚きに染まっている。
「やっぱり驚くよな~。こんな若いのにほんとびっくりしたよ。でも……実力は本物だ」
オレの言葉が耳に届いたのか、満更でもなさそうに頬をひくつかせている所は本当に年齢そのままの女の子なんだがな。
~
リシルが虚空を見て暫しの時間が流れた。
オレ達が戻ってきたことと先ほどの音の件もあり、今は村の簡素な門は閉じられている。
ゴドーはもう少しこの場にいたかったようだが、先輩の衛兵に見張り台に行くよう指示を受けて今は2mほどの低い櫓のようなものに登って門の外を監視していた。
村の門も丸太で出来た塀も簡素な作りだが防御結界が仕込まれているので、ランク3の魔物ぐらいまでなら暫くは平気だろう。
「わかったわ! 思った通り祠が破壊されてしまっているわね。やっぱり『世界の揺らぎ』絡みっぽいな……こんな辺境の村まで手を出してくるなんてちょっと予想外だわ……」
リシルは焦点を虚空から目前のオレに戻すと、ちょっと苦々しい顔でそう告げる。
しかし、ここでまた先ほどの『世界の揺らぎ』という言葉が出てきた。
「さっきも出てきたが、その『世界の揺らぎ』って言うのは何なんだ?」
「どっちから話せば良いかな……? 『世界の揺らぎ』って言うのは二つの事を指すの」
それだけでは良く分からず、話を続けるように促す。
「一つ目は現象そのもの事を指すの。魔王が倒れた15年ほど前から起こり始めた現象でね。魔力の乱れの揺れ幅が急激に上昇して本来ならそこで発生しないような高ランクの魔物が現れたり、普段では考えられないような数の魔物が現れる事もあるわ」
「魔物の異常行動とは違うのか?」
オレが調査依頼を受けたのがスタンピードとも呼ばれる魔物の異常行動の事だ。
「そうね。この『世界の揺らぎ』の結果、スタンピードに繋がるケースはあるけど現象そのものは別物よ。ただこっちの国、イクリット王国ではあまり情報を掴み切れていないようだから上は混同しているかもしれないわね」
「セーラン王国ではある程度掴んでいるという事か?」
リシルは隣国セーラン王国から来たと言っていたのを思い出して聞いてみる。
「全て掴み切れているわけではないんだけど……ただ、この現象の裏にとある組織が暗躍している事までは掴んでいるわ」
「それがもしかしてもう一つの……ってことか?」
さっき二つの事を指すと言っていたリシルの言葉がここに繋がる気がした。
「さすがテッドさんね。 セーラン王国の諜報部隊がその組織の存在を掴んだんだけどね。これがややこしい事に『世界の揺らぎ』って名乗っているのよ」
話をもう少し詳しく聞いてみると、そのセーラン王国の諜報部隊が情報を掴んだ事を知ったその組織から一通の手紙が届き、そこにその名が記されていたようだ。
しかもその手紙はセーラン王国や世界に向けた宣戦布告のような内容だったらしい。
「そんな国家機密をオレみたいなただの冒険者に話しちゃダメなんじゃないのか……」
色々知りたいとは思ったが、まさかここまで大きな話だとは思わなかった。
これ絶対一介の冒険者なんかに話して良い情報じゃないだろ……。
「もちろん、ただの冒険者なんかに話さないわよ! あなたが勇者テッドだから話してるに決まっているじゃない!」
もし仮に勇者と呼ばれる者が昔存在していたとして、何故この子はオレがその勇者だと確信しているのだろう?
セナの事で気が動転していたので深く考えていなかったが、そもそもこの広いトリアデン王国の辺境の村にいるオレの存在をどうやって知ったのだ?
最初に魔眼で人探しが得意だと聞いて納得してしまっていた。
しかし、一番有名な遠見の魔眼『観察者』だとすると、それではオレを見つけるのは非常に困難なはずだ。
観察者ではせいぜいこの村の周辺数キロぐらいまでしか届かない。
オレがそのことに気付いた時、リシルが少し笑いながら話しかけてきた。
「テッドさんは本当に隠し事が下手ね。この魔眼の名は『アーキビスト』。あらゆる情報の収集・管理・保護、全ての記録を司る世界にただ一つの真実を見抜く魔眼よ」
「テッドさん! セナも無事だったんですね! しかしさっきの音は……一体何が起こったんでしょう?」
村人の中に交じっていた衛兵のゴドーがオレを見つけて駆け寄り話しかけてくるが、オレもその質問の答えは持ち合わせていない。
「わからないな……ただ、音の聞こえてきた方向は……」
森の方を振り返って音がした方角に遠い目を向ける。
「テッドさん、たぶん当たり。祠よ。一応調べてみるわ」
リシルはオレの考えを肯定すると、魔眼でもって原因を探り始めたようだ。
しかし、リシルの素性を知らないゴドーが良く分からずに何をしているのかと尋ねてくる。
「テッドさん? その子はいったい? 冒険者のようですけど、何をしているんですか? それに祠っていうのは魔力の乱れを沈めるアレですか?」
「その子はリシル。オレより強いBランクの冒険者だぞ。魔眼で遠くの状況を確認できるようだからちょっと待ってくれ」
「Bランク!? そ、その若さで……」
さっきまでリシルの容姿にちょっと鼻の下を伸ばしていた顔が、その驚きに染まっている。
「やっぱり驚くよな~。こんな若いのにほんとびっくりしたよ。でも……実力は本物だ」
オレの言葉が耳に届いたのか、満更でもなさそうに頬をひくつかせている所は本当に年齢そのままの女の子なんだがな。
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リシルが虚空を見て暫しの時間が流れた。
オレ達が戻ってきたことと先ほどの音の件もあり、今は村の簡素な門は閉じられている。
ゴドーはもう少しこの場にいたかったようだが、先輩の衛兵に見張り台に行くよう指示を受けて今は2mほどの低い櫓のようなものに登って門の外を監視していた。
村の門も丸太で出来た塀も簡素な作りだが防御結界が仕込まれているので、ランク3の魔物ぐらいまでなら暫くは平気だろう。
「わかったわ! 思った通り祠が破壊されてしまっているわね。やっぱり『世界の揺らぎ』絡みっぽいな……こんな辺境の村まで手を出してくるなんてちょっと予想外だわ……」
リシルは焦点を虚空から目前のオレに戻すと、ちょっと苦々しい顔でそう告げる。
しかし、ここでまた先ほどの『世界の揺らぎ』という言葉が出てきた。
「さっきも出てきたが、その『世界の揺らぎ』って言うのは何なんだ?」
「どっちから話せば良いかな……? 『世界の揺らぎ』って言うのは二つの事を指すの」
それだけでは良く分からず、話を続けるように促す。
「一つ目は現象そのもの事を指すの。魔王が倒れた15年ほど前から起こり始めた現象でね。魔力の乱れの揺れ幅が急激に上昇して本来ならそこで発生しないような高ランクの魔物が現れたり、普段では考えられないような数の魔物が現れる事もあるわ」
「魔物の異常行動とは違うのか?」
オレが調査依頼を受けたのがスタンピードとも呼ばれる魔物の異常行動の事だ。
「そうね。この『世界の揺らぎ』の結果、スタンピードに繋がるケースはあるけど現象そのものは別物よ。ただこっちの国、イクリット王国ではあまり情報を掴み切れていないようだから上は混同しているかもしれないわね」
「セーラン王国ではある程度掴んでいるという事か?」
リシルは隣国セーラン王国から来たと言っていたのを思い出して聞いてみる。
「全て掴み切れているわけではないんだけど……ただ、この現象の裏にとある組織が暗躍している事までは掴んでいるわ」
「それがもしかしてもう一つの……ってことか?」
さっき二つの事を指すと言っていたリシルの言葉がここに繋がる気がした。
「さすがテッドさんね。 セーラン王国の諜報部隊がその組織の存在を掴んだんだけどね。これがややこしい事に『世界の揺らぎ』って名乗っているのよ」
話をもう少し詳しく聞いてみると、そのセーラン王国の諜報部隊が情報を掴んだ事を知ったその組織から一通の手紙が届き、そこにその名が記されていたようだ。
しかもその手紙はセーラン王国や世界に向けた宣戦布告のような内容だったらしい。
「そんな国家機密をオレみたいなただの冒険者に話しちゃダメなんじゃないのか……」
色々知りたいとは思ったが、まさかここまで大きな話だとは思わなかった。
これ絶対一介の冒険者なんかに話して良い情報じゃないだろ……。
「もちろん、ただの冒険者なんかに話さないわよ! あなたが勇者テッドだから話してるに決まっているじゃない!」
もし仮に勇者と呼ばれる者が昔存在していたとして、何故この子はオレがその勇者だと確信しているのだろう?
セナの事で気が動転していたので深く考えていなかったが、そもそもこの広いトリアデン王国の辺境の村にいるオレの存在をどうやって知ったのだ?
最初に魔眼で人探しが得意だと聞いて納得してしまっていた。
しかし、一番有名な遠見の魔眼『観察者』だとすると、それではオレを見つけるのは非常に困難なはずだ。
観察者ではせいぜいこの村の周辺数キロぐらいまでしか届かない。
オレがそのことに気付いた時、リシルが少し笑いながら話しかけてきた。
「テッドさんは本当に隠し事が下手ね。この魔眼の名は『アーキビスト』。あらゆる情報の収集・管理・保護、全ての記録を司る世界にただ一つの真実を見抜く魔眼よ」
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