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【第7話:懐かしい魔法】

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 リシルがBランク冒険者だと言う言葉に一瞬疑いの目を向けてしまう。
 Bランクの冒険者と言えば誰もが認める一流の冒険者だ。
 リシルはハーフエルフだろうが、この容姿の幼さからすると14、5歳ぐらいだろう。
 その若さでBランクと言うのは天才と言って良いかもしれない。

 そしてもしリシルがBランク上位の冒険者ならきっと今のオレより強い。

 オレが俄かには信じられずにいると、リシルは胸元からシルバーのタグを見せて、

「どう? これで信じてくれた? それより急いでいるんでしょ? 早く行かなくて良いの?」

 とオレを少し呆れるように見つめてくる。

 シルバーのタグ。それはBランク冒険者にのみ所持を許されているタグだ。
 さすがにオレも銀色に輝くタグを見せられては信じるしかない。

「あぁ、疑って悪かった。その若さでBランクと言うのが一瞬信じられなかったんだが、凄いな」

「まぁみんなだいたい同じ様な反応だし慣れてるから大丈夫よ。それより、私も付いて行くけど大丈夫よね?」

 特に断る理由も無くなってしまったので、オレは頷き、

「それじゃぁ悪いけど案内も含めてよろしく頼む」

 そう言ってリシルとともに冒険者ギルドを後にしたのだった。

 ~

 オレたちは村の門を抜けると、リシルに案内されながらテッドが隠れていると言う大きな木のうろに向かっていた。
 衛兵のゴドーに事情を話した時に聞いた話だと、魔物の異常発生も悪化しているようでセナを助けた後は村を助けないといけなくなりそうだ。

 しかし、その最初の行程から既に思うように進まなかった。

「く!? 今度はオーガか!?」

 先程3体のゴブリンを倒したところなのに、今度は5体のオーガ、いわゆる鬼の魔物に行く手を塞がれる。
 その体高は2mを超え、生半可な攻撃ではダメージを与えられず回復力も高いため、倒すのには時間がかかるだろう。

 それに対してオレは黒の属性魔法しか使えないのに、その黒魔法は数種の魔法しか使えない。
 戦闘蟻ウォリアーアントよりも頑丈なオーガには、オレのよく使う≪咎人とがびと荊棘いばら≫では攻撃力不足なのだが、他に有効な攻撃魔法を持ち合わせていなかった。

「ちょっと数が多すぎるわね! 私が蹴散らすわ!」

 オレがオーガを倒すか大回りで敵を回避してセナの元に向かうか逡巡していると、迷うそぶりすら見せずにリシルはその巨体の群れに突っ込んで行く。

「おい!?」

 その行動に驚くオレの声を気にも止めず、リシルは走りながら腰にさげたレイピアを抜き放つと魔法の詠唱を始める。

≪緑を司る解放の力よ、我が魔力を糧に衣となりて道を示せ≫

薫風くんぷうの囁き≫

 走りながらよどみなく行われる詠唱は、リシルの実力の高さを物語っていた。
 目の前に現れた緑の魔法陣に向かって飛び込むように駆け抜けると、爆発的にそのスピードをあげる。

 魔法陣をつき破る際に風の加護を身に纏い、大幅なスピードアップと防御力の底上げを同時に行う緑属性の上位強化魔法だ。

 可視化され、薄っすらと輝く緑の風はまるで羽衣のようで、リシルの容姿と相まってとても綺麗だった。
 だがその見た目の美しさに反して、敏捷系の強化では最上位クラスの魔法は凄まじい力を発揮する。

「しかしこれは……オレの出る幕がないな……」

 それに……昔よく仲間にかけてもらった魔法だったので少し懐かしい気分になり、ちょっと感傷的になりそうだった。

 オレが色々な理由で動けないでいると、リシルは5体のオーガの間を幾度か駆け抜けて首などの急所を正確に切り裂いていき、瞬く間に全てのオーガを倒してしまう。

「これは予想以上だな……見事だ」

 オレが本気で感心してそう呟くと、リシルは少し照れくさそうにして

「こんなの大したことないわよ。母さんたちなんて……なんでもないわ。それより早く行きましょ」

 そう言ってスタスタと歩き出す。

 本当に凄い実力を持った子だが、やはりまだ若く色々悩む年頃なのだろう。
 オレは少し年寄りじみた思考をそこで打ち切り、リシルの後を追うのだった。

 ~

 それから何度か戦闘を繰り返したあと、不意にリシルの足が止まる。

「ん? どうしたんだ?」

 リシルに尋ねると、ちょっと苦々しい顔をして話始める。

「遠くから魔眼で覗き見る分にはわからなかったんだけど、結構大きな怪我をしているようだわ……」

「え!? 怪我をしているのか!? ……く……取り乱してすまない。それで大丈夫なのか?」

「うん……とにかくもうすぐだから急ぎましょ」

 オレは焦る気持ちを抑え、歩みを再開したリシルの後を追うのだった。

 ~

 それからほどなくして無事に目的の大木に辿り着いた。

 大木の裏に回ると、リシルの言っていた通りに大きなうろがあり、そこに目的の人物を発見する。

「セナ!? 大丈夫か!」

 だが、そこには肩から血を流し、意識を失って倒れている姿が見えた。

 オレはセナに駆け寄って抱き上げると、昔手に入れた高位治癒ポーションを全身にふりかける。

「ちょ!? ちょっと!? 今のってかなり高レベルの治癒ポーションなんじゃ!? そんなの見た事ないわよ!? だいたいそんなの使わなくても私治癒魔法使えるのに~!」

 リシルが後ろで「もったいない!」とか「どこにそんなの持っていたのよ?」などと騒いでいるが、これで治るなら安いものだ。
 たくさん持っているから後でお礼にあげることにしよう。

 そんなやり取りをしていると、治癒ポーションによって回復したセナが目を覚ました。

「んん……あれ?……テッドおじさん? ここは? あれ?」

 大怪我をして気を失っていたからか記憶が混乱しているようだ。
 だが、その無事な姿に安堵の息を吐く。

「ったく、テッドお兄さんだっていつも言っているだろ? とりあえずオレが村まで連れて帰るから。怪我してるしまだ寝とけ」

 そう言ってセナの頭をわしゃわしゃとしてから背負って立ち上がる。

 そしてリシルの方を振り返り、あらためて礼を言う。

「リシル。本当にありがとう。君がいなかったらと思うとぞっとするよ」

「ふふふ。どういたしまして」

 すると、何がおかしいのかオレを見て口に手をあててクスクスと笑い出す。

「な、なんだよ?」

 オレは何だか急に照れくさくなって、そっぽを向く。

「はじめて笑顔を見せたわね。
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