4 / 59
【第3話:ギルド依頼】
しおりを挟む
オレは怒るセナを宥めて冒険者ギルドから連れ出した後、村で唯一の鍛冶屋に来ていた。
「おやっさーん。頼んでおいたもの出来てる?」
村のはずれのこんな立地でも何とかやっていけているのは村で唯一の鍛冶屋というのもあるのだが、元々大きな都市の工房で働いていたので腕は確かだというのも大きかった。
「ん? なんだテッドか」
「なんだとは失礼だな。そんな愛想のない接客してると客こなくなるぞ」
オレが愛想のない返事に突っ込むと、おやっさんは
「うるせーな。オレは鍛冶屋だ。武器や道具は売っても愛想は売ってねーんだよ」
と言いながら一人でニヤニヤしている。
「なに上手く返してほくそ笑んでるんだよ……そもそも上手くもねーけど」
「うん。気持ち悪いね」
「く!? テッドはともかくセナに言われるのは嫌だな……」
オレは良いのかよとまた突っ込みたくなるが、話が前に進まないので聞き流してもう一度頼んでおいたものが出来ているのか聞いてみる。
すると、おやっさんはニッと笑って何も言わずに奥の工房に引っ込んでいく。
後ろで「やっぱり気持ち悪いね」とかセナがまた呟いているが、可哀想だからおやっさんには内緒にしておいてあげよう……。
それから程なくしておやっさんが戻ってくると、
「ほらっ。出来てるぜ」
と言ってカウンターに、その髭面からは想像できないようにやさしくそっと小ぶりの剣を置く。
「ほら。冒険者になれたら武器を買ってやるって言ってただろ?」
オレはそう言ってセナにカウンターの上の剣を受け取るように促す。
「えぇ!? 冗談だと思ってたのに本当だったの!?」
なに!? 冒険者認定試験に合格したのを聞いて慌てて依頼したのに……。
「なんだ。いらないんならオレが受け取っちゃうぞ?」
と剣に手を伸ばすふりをすると、セナは
「うわぁ!? うそうそ! いるいる!!」
と言って慌てて剣をつかみ取っていった。冗談なのに……オレって信用無い……?
しかし、ついこの間までオレの後をちょこちょことついて回っていたのに……子供の成長は本当に早い。
その小さかったセナが剣を鞘から抜いて嬉しそうに振っている姿は思ったより様になっていて、ちょっと感慨深いものがあった。
「まぁ無茶な使い方しなければDランクの間ぐらいはずっと使えるだろうから、ちゃんと手入れして使うんだぞ」
「わかった! テッドお兄さんありがと!」
オレは現金な奴だなぁと思いながらもセナの頭をわしゃわしゃと撫でるのだった。
~
鍛冶屋を後にしたオレは、今日の依頼をまだ受けていなかったのでもう一度ギルドに向かって歩いていた。
ちなみにセナは既に受けている依頼があるようだったので先ほど別れている。
「しかし、大丈夫かなぁ。セナはしっかりしてるように見えてたまに無茶をするからなぁ」
心配してももう冒険者になったんだから何があっても全て自己責任だと思い直し、オレはその日も依頼を一つ片づける事にする。
「サクナおばさーん。なんか急ぎの依頼とか、困ってる依頼ある?」
オレはギルドに着くと、サクナおばさんにいつものように滞っている依頼がないか確認する。
また「サクナさんとお呼び」というやり取りがあったが割愛しておく。
「そうだねぇ。特に困っている依頼はないねぇ……あ!? そうだ! ギルド依頼を受けてくれるかい?」
ギルド依頼とは誰か依頼人などがいるわけではなく、各ギルド支部がその時の状況に応じて出しているギルドが発行している依頼の事だ。
「なに? 昨日オーク討伐やったからもう無いかと思ってたけど、また何かの討伐依頼でもあるの?」
昨日受けたオーク討伐もギルド依頼だったので、もう当分ギルド依頼は無いだろうと思っていたのだが、こんな辺境の村で立て続けにギルド依頼があるとは珍しい事もあるものだ。
「討伐依頼じゃなくて調査依頼だね。昨日、メキダスの街の騎士様が来てね。ひと月前から異常な魔物の行動がみられるようになっているから気を付けるようにと」
メギタスとは、このトーマスの村から一番近い町で、規模は比較的小さいが城壁もあり、常駐する騎士もいる立派な町だ。
「え? それって……」
「そうそう。昔魔王が誕生した時と似てるって話だからおっかないよ。嫌だねぇ」
昔、魔人国で魔王が誕生した時も魔物の異常行動が各地で確認されていたので、この村の周りでも異常行動が見られないか調査して欲しいという話だそうだ。
「まぁ魔物の異常行動なんて、魔王とか関係なくたまに起こる事だからきっと大丈夫さ」
オレはそう言ってサクナおばさんを安心させると、村周辺の魔物の調査依頼を受けたのだった。
~
ギルドを後にしたオレは、村近くにある森の中の祠に来ていた。
祠は魔力の乱れのある所に、その乱れを軽減して鎮めるために建てられる事が多い。
ここの祠も例にもれず、この周辺にわずかな魔力の乱れがある為に建てられたものだ。
しかし、祠を建てても完全に魔力の乱れを鎮める事が出来るわけではない為、他所より魔物が発生しやすく、魔物の異常な行動を確認するにはちょうど良い場所なのだ。
この世界の魔物とは、世界に満ち溢れている魔力を餌にしている生命体全般を指す。
ただ、空気中の魔力だけでは魔物としての位階が上がらないらしく、人や動物、他の魔物を喰らう事で強くなっていくと言われている。
ちなみに人の場合は魔物を食べても強くなることは出来ないが、魔物を討伐する事でその魔力を僅かだが取り込むことが出来、位階をあげて強くなっていく事ができる。
この人族の位階の事はレベルと呼ばれる事が多く、人族の限界は10位階前後だと考えられている。
「しかし、この村周辺は魔物が少ないから中々調査にならないな……」
オレは結界石を使って身を隠すと、携帯食料を齧りながら長期戦の準備に入る。
この辺りの魔物に見つかって襲われても返り討ちにするぐらい簡単なのだが、魔物を倒してしまうと調査にならないというジレンマが……。
結局オレは、こうしてそのまま一晩祠の前で夜を明かす羽目になるのだった。
「おやっさーん。頼んでおいたもの出来てる?」
村のはずれのこんな立地でも何とかやっていけているのは村で唯一の鍛冶屋というのもあるのだが、元々大きな都市の工房で働いていたので腕は確かだというのも大きかった。
「ん? なんだテッドか」
「なんだとは失礼だな。そんな愛想のない接客してると客こなくなるぞ」
オレが愛想のない返事に突っ込むと、おやっさんは
「うるせーな。オレは鍛冶屋だ。武器や道具は売っても愛想は売ってねーんだよ」
と言いながら一人でニヤニヤしている。
「なに上手く返してほくそ笑んでるんだよ……そもそも上手くもねーけど」
「うん。気持ち悪いね」
「く!? テッドはともかくセナに言われるのは嫌だな……」
オレは良いのかよとまた突っ込みたくなるが、話が前に進まないので聞き流してもう一度頼んでおいたものが出来ているのか聞いてみる。
すると、おやっさんはニッと笑って何も言わずに奥の工房に引っ込んでいく。
後ろで「やっぱり気持ち悪いね」とかセナがまた呟いているが、可哀想だからおやっさんには内緒にしておいてあげよう……。
それから程なくしておやっさんが戻ってくると、
「ほらっ。出来てるぜ」
と言ってカウンターに、その髭面からは想像できないようにやさしくそっと小ぶりの剣を置く。
「ほら。冒険者になれたら武器を買ってやるって言ってただろ?」
オレはそう言ってセナにカウンターの上の剣を受け取るように促す。
「えぇ!? 冗談だと思ってたのに本当だったの!?」
なに!? 冒険者認定試験に合格したのを聞いて慌てて依頼したのに……。
「なんだ。いらないんならオレが受け取っちゃうぞ?」
と剣に手を伸ばすふりをすると、セナは
「うわぁ!? うそうそ! いるいる!!」
と言って慌てて剣をつかみ取っていった。冗談なのに……オレって信用無い……?
しかし、ついこの間までオレの後をちょこちょことついて回っていたのに……子供の成長は本当に早い。
その小さかったセナが剣を鞘から抜いて嬉しそうに振っている姿は思ったより様になっていて、ちょっと感慨深いものがあった。
「まぁ無茶な使い方しなければDランクの間ぐらいはずっと使えるだろうから、ちゃんと手入れして使うんだぞ」
「わかった! テッドお兄さんありがと!」
オレは現金な奴だなぁと思いながらもセナの頭をわしゃわしゃと撫でるのだった。
~
鍛冶屋を後にしたオレは、今日の依頼をまだ受けていなかったのでもう一度ギルドに向かって歩いていた。
ちなみにセナは既に受けている依頼があるようだったので先ほど別れている。
「しかし、大丈夫かなぁ。セナはしっかりしてるように見えてたまに無茶をするからなぁ」
心配してももう冒険者になったんだから何があっても全て自己責任だと思い直し、オレはその日も依頼を一つ片づける事にする。
「サクナおばさーん。なんか急ぎの依頼とか、困ってる依頼ある?」
オレはギルドに着くと、サクナおばさんにいつものように滞っている依頼がないか確認する。
また「サクナさんとお呼び」というやり取りがあったが割愛しておく。
「そうだねぇ。特に困っている依頼はないねぇ……あ!? そうだ! ギルド依頼を受けてくれるかい?」
ギルド依頼とは誰か依頼人などがいるわけではなく、各ギルド支部がその時の状況に応じて出しているギルドが発行している依頼の事だ。
「なに? 昨日オーク討伐やったからもう無いかと思ってたけど、また何かの討伐依頼でもあるの?」
昨日受けたオーク討伐もギルド依頼だったので、もう当分ギルド依頼は無いだろうと思っていたのだが、こんな辺境の村で立て続けにギルド依頼があるとは珍しい事もあるものだ。
「討伐依頼じゃなくて調査依頼だね。昨日、メキダスの街の騎士様が来てね。ひと月前から異常な魔物の行動がみられるようになっているから気を付けるようにと」
メギタスとは、このトーマスの村から一番近い町で、規模は比較的小さいが城壁もあり、常駐する騎士もいる立派な町だ。
「え? それって……」
「そうそう。昔魔王が誕生した時と似てるって話だからおっかないよ。嫌だねぇ」
昔、魔人国で魔王が誕生した時も魔物の異常行動が各地で確認されていたので、この村の周りでも異常行動が見られないか調査して欲しいという話だそうだ。
「まぁ魔物の異常行動なんて、魔王とか関係なくたまに起こる事だからきっと大丈夫さ」
オレはそう言ってサクナおばさんを安心させると、村周辺の魔物の調査依頼を受けたのだった。
~
ギルドを後にしたオレは、村近くにある森の中の祠に来ていた。
祠は魔力の乱れのある所に、その乱れを軽減して鎮めるために建てられる事が多い。
ここの祠も例にもれず、この周辺にわずかな魔力の乱れがある為に建てられたものだ。
しかし、祠を建てても完全に魔力の乱れを鎮める事が出来るわけではない為、他所より魔物が発生しやすく、魔物の異常な行動を確認するにはちょうど良い場所なのだ。
この世界の魔物とは、世界に満ち溢れている魔力を餌にしている生命体全般を指す。
ただ、空気中の魔力だけでは魔物としての位階が上がらないらしく、人や動物、他の魔物を喰らう事で強くなっていくと言われている。
ちなみに人の場合は魔物を食べても強くなることは出来ないが、魔物を討伐する事でその魔力を僅かだが取り込むことが出来、位階をあげて強くなっていく事ができる。
この人族の位階の事はレベルと呼ばれる事が多く、人族の限界は10位階前後だと考えられている。
「しかし、この村周辺は魔物が少ないから中々調査にならないな……」
オレは結界石を使って身を隠すと、携帯食料を齧りながら長期戦の準備に入る。
この辺りの魔物に見つかって襲われても返り討ちにするぐらい簡単なのだが、魔物を倒してしまうと調査にならないというジレンマが……。
結局オレは、こうしてそのまま一晩祠の前で夜を明かす羽目になるのだった。
0
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる