上 下
45 / 46

【第45話:蹂躙】

しおりを挟む
 目前に迫る魔物5000に対して、こちらは鬼蜘蛛100体。

 街に向かうだけなら一点突破を狙うのが楽なのですが、このあと第2第3の魔物の群れが待ち構えている事を考えると、後顧の憂いを断つためにも少しでも数を減らしておきましょう。

 僕は鬼蜘蛛部隊に指示をだし、やや扇型の横一線に展開します。
 点ではなく、面で接敵し、殲滅できるように。

「鬼蜘蛛! まずは接近前に数を減らす! 鉄糸のブレス用意! ……放て!!」

 特に鉄糸のブレスという正式名称があるわけではないが、無数の鋼鉄製の糸をブレスのように放射状に吐き出すので、そう呼んでいます。

 そしてその効果は並のブレスより強力です。

「「「す、すげぇぇぇ!?」」」

 100体の鬼蜘蛛から一斉に放出された鉄糸のブレスは、前方に展開していたゴブリンやオークの魔物数百体を一瞬で貫き、その活動を永遠に停止させます。

 この『20式鬼蜘蛛ふたまるしきおにぐも機甲』には、もっとちゃんとした遠隔攻撃手段が備わっているのですが、そちらは移動しながら使う事が出来ないですし、何より人を背中に載せて使用すると危険なので使用できません。

 なので、今回は次々と鉄糸のブレスを放って魔物を蹂躙していきます。

 途中、鉄糸のブレスをくぐり抜けてきた魔物や、魔法などの遠隔攻撃手段を持つ魔物が反撃を試みてきましたが、8本ある脚を器用に使って的確に防いでくれたので、背に乗る『暁の羊たち』の皆さんも誰一人怪我をせずにすみました。

「戦いにすらならなかったわね。行軍速度を落とす事すらせずに倒し切るなんて……」

 魔物の群れを抜けると、フォレンティーヌさんが呆れたように呟きます。
 結局、最初に待ち受けていた5000の魔物の群れを蹂躙し終えるのに、20分もかかりませんでした。

「まぁ本番はハヤトっちが動きを見せてからですからね」

 僕はそうこたえると、目の前に迫る次の魔物の群れに意識を向けたのでした。

 ~

 その後、待ち受ける魔物の群れ第二陣を同じように蹂躙していると、僕の護衛として追従し、すぐ後ろを飛んでいた祢々切丸が話しかけてきました。

『小僧! 前方のデカいのは鬼蜘蛛ではちょいと梃子摺るだろう? ちょいと行って露払いをしてくるぞ!』

 突然僕にそう告げると残像を残して見えなくなります。
 身勝手な行動は慎んでもらいたい所ですが、既に僕の視力でも捉えるのが難しいほど遠くに行ってしまいました。
 遠くに見える第3陣の魔物の群れを強襲しにいったようです。

「鬼蜘蛛だけでも余裕で倒せると思うんだけど、出番無いから痺れを切らしたんだね……」

 まぁでも、第3陣の魔物の群れは、サイクロプスなどの大型の魔物が中心だったので、鉄糸のブレスだけでは倒せないかもしれません。
 ここはありがたく感謝しておきましょう。

「なぁ、サバロンさん、オレ達いる意味あんのか……?」

「こいつの背中に乗ってしがみついてるだけなんだが?」

「知るか!? 俺に聞くな!!」

 近くの鬼蜘蛛の背に乗っている人たちが拗ねても困るので、この後の事を話しておきましょう。

「サバロンさん、この後もう一度魔物の群れを突破したら、あとは街までに敵はいません。だけど、街は数万の魔物に包囲されていますし、既に西門は破られていて一刻を争う状況です」

 スナイパーの支援がなければ、もうとっくに他の門も破られて、今頃街は魔物たちに蹂躙されていた事でしょう。

「このまま僕が街の防衛にあたれれば問題ないのですが、ハヤトの動きが読めません」

「ハヤトの野郎か……」

「はい。彼が動けば僕が対応するしかないと思うので、サバロンさんたちはこの鬼蜘蛛たちを率いて、防衛戦の援護に回って欲しいんです」

「そうだな。本当ならこの腕の仕返しをしてやりてぇとこだが、オレじゃ10秒も持たずに殺されるだろうからな。しかし、鬼蜘蛛の群れを率いるっていったいどうすんだ? 誰の命令でも聞くわけじゃねぇだろ?」

 どうやらサバロンさんの腕を奪ったのはハヤトっちみたいですね。
 何があったのか少し気になりますが、それは後で良いでしょう。

「はい。この魔物の群れを抜けたら、一時的、限定的な鬼蜘蛛の命令権を与えますので、鬼蜘蛛たちを連れてってください」

 僕が遠隔から命令出来ればいいんですが、あいにく機甲式の鬼蜘蛛は僕から1kmほど離れると動作不能になってしまいます。
 そこで、対象が魔物の時に限って命令を出す事が出来る、限定的な命令権を与える仮の契約を結んで、南を除く三つの門に鬼蜘蛛を率いて応援に向かって貰おうというわけです。

「なんかよくわからねぇが、こいつらを防衛戦やってるとこまで連れてって、魔物を殺せって命令すりゃぁ良いんだな?」

「はい。西門以外の門も既に危ない状況ですので、出来るだけ急いで駆けつけてあげてください」

「わぁったよ。それぐらいなら任せろ」

 説明が終わって数秒、ちょうど前方にいた最後の魔物が、その顔に無数の小さな穴を穿たれて倒れていきます。

「これで第二の魔物の群れを突破しましたね。次の魔物の群れは少し手間取るかと思ったんですが、祢々切丸がもう半分以上倒してますから、このままの勢いで一気に突破してしまいましょう」

「ダイン、なんか私の常識がガラガラと音を立てて崩れ去っていくんだけど……。そもそも突破って言ってるけど、全滅させちゃってるからね?」

「まぁ全滅させないと南門も守らないといけなくなりますから。それより、申し訳ないのですが、フォレンティーヌさんには僕と一緒に来てもらえないかと思っています。正直かなり危険だと思うので判断はお任せしますが、どうしますか?」

 オリジナルであるフォレンティーヌさんには、出来ればマリアンナさんの所に一緒に来て貰えないかと思っています。

 ただ、ハヤトっちとの戦闘になれば、フォレンティーヌさんを守りながら戦う余裕などあるわけもなく……。
 危険だから無理強いは出来ないと聞いてみたのですが、返事は悩むことなく返されました。

「もちろんついて行くに決まってるじゃない。私も真相とか知りたいし、もとより覚悟は出来てるわ。これでもグリムベル孤児院出身なのよ?」

 フォレンティーヌさんの言う「グリムベル孤児院出身」という言葉の意味が、重みが、今はよくわかります。
 幼少の頃に攫われて異能の開発を施され、ただ戦う技術だけをひたすら磨き、最後にはまるで蟲毒のように殺し合い、そこを生き残ってきたという事がどれほどのことなのか。

 そして「それに、あなた一人を死なせはしないわ」と、片目をパチリとしながら続けます。
 ゴミでも入ったんでしょうか?

 でも……その言葉に、何故だか胸に暖かい何かが広がっていくように感じます。

「ありがとう、ございます」

 自然に零れたその言葉を最後に、僕は口を閉ざし、シグルスの街に意識を傾けていくのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゲームの中に転生したのに、森に捨てられてしまいました

竹桜
ファンタジー
 いつもと変わらない日常を過ごしていたが、通り魔に刺され、異世界に転生したのだ。  だが、転生したのはゲームの主人公ではなく、ゲームの舞台となる隣国の伯爵家の長男だった。  そのことを前向きに考えていたが、森に捨てられてしまったのだ。  これは異世界に転生した主人公が生きるために成長する物語だ。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど

富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。 「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。 魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。 ――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?! ――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの? 私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。 今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。 重複投稿ですが、改稿してます

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

処理中です...