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【第35話:財団】

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「ちょちょ、ちょっと待て……そういえばお前、さっき第孤児院とか言ってたよな? 俺も混乱してたし、聞き間違いかと思って聞き流しちまってたが……ダイン、お前……の一人か?」

「オリジナル?」

 そう口にした瞬間、何かの映像がフラッシュバックされ、僕はまたあの強烈な痛みに襲われていました。

「くっ……頭が……す、スナイパー!! もし僕が気を失ったら叩き起こすんだ!」

(オーケー兄貴! もし兄貴が気を失ったら、このスナイパー様がすぐさまモーニングコールしてやるぜ!)

 スナイパーがまた馬鹿な事を言ってる気がしますが、僕は意識を保っているのがやっとなのでスルーです。

 しかし、これは僕にとって記憶を取り戻すチャンスでもあります。
 何とか意識を保って、まるでコマ送りのように映し出される記憶を読み取っていきます。

(こ、これは……孤児院? これが僕が生まれ育った第13孤児院?)

 それは深い森の中、まるでそこだけ時間が切り取られたような、とても古い建物でした。
 周りに人は誰もいませんが、僕はひたすら何かの訓練をしているようです。

(あれは祢々切丸かな……?)

 長い刀を丁寧にゆっくりと振り下ろし、手元にひきつけ、手首を返してゆるりと横なぎに刀を振るいます。

 しかし僕は、黙々と型を繰り返すその姿よりも、背後の建物に目を奪われていました。

 なぜなら、その建物は僕の良く知る建物だったのですから。

「でも、この姿はまるで……マリアンナ孤児院じゃないか!?」

 僕が急に叫んだり、苦しみだしたことに驚いていたサギットさんですが、僕の口からこぼれた言葉を聞いて我に返ったようです。

「おい、ダイン? 大丈夫か? 何か思い出したのか??」

 サギットさん自身もかなりの怪我を負っていますが、口に滲んだ血を拭いながら、こちらに這うように近づいてきます。

「だ、大丈夫です。それより加減したとはいえ、僕の『破壊の共鳴』を受けているんですから、じっとしていてください」

 痛みに耐えながらそう答えたのですが、残念と言うべきか、良かったというべきか、僕の痛みは治まっていきました。そしてその記憶映像も……。

 でも……あの建物は、うちの孤児院と全く同じ形に見えました。
 いったいどういう事なのでしょうか?

「そ、そうか。ん? なんか本当にもう治ったみてぇだな?」

 若干の呆れの表情を浮かべながら、僕を見て大きく息をはくサギットさんは、どうやら本当に僕の事を心配していたようですね。

「まぁ変な状況ですが、ご心配をおかけしました。それで話を戻しますが、オリジナルというのはいったいどういう意味なのですか?」

「おそらくダインにそれを説明するには、組織の生い立ち、それから……奴らにもてあそばれているこの世界の話をしねぇといけねぇだろうな」

 まずは説明を聞こうと思ったのですが、どうにも引っかかる言葉があったので、思わず聞き返していました。

「弄ばれている?」

「そうだ。この世界はある人物にずっと弄ばれているんだ……まぁ最初から話すから聞けよ。ただ、ちょっと長くなるぞ?」

 僕は長くなっても構わないと、了承の意味を込めて深く頷きを返します。

「まず、この世界『メリアード』の全ての住人は……

 サギットさんの話は、その衝撃的な一言から始まるのでした。

 ~

 この世界『メリナード』がいつから存在するのかはわかっていません。
 だけど、この世界に人が現れた最古の記録は残っています。

 それは、今からわずか1200年ほど前です。
 1200年前、突然人は街を作り、国を作り、文字を持ち、様々な文化を持つ文明人として歴史の中に突然現れたのです。

 その国の名は『イシュタール帝国』。

 しかし、そのイシュタール帝国は過去最大規模のモンスターウェーブによって滅んでしまっているため、そのはじまりは謎とされていました。

 ここまでは僕も図書館で読んだ歴史書で知っています。

「ここまでは知っていたか。でも、イシュタール帝国にグリムベルって組織があったって言うのは知らねぇだろ?」

「グリムベル孤児院ではなく、財団……ですか?」

「あぁそうだ。財団だ。俺たちが本部と呼んでいるのも、指令を出しているのもここだ。いや、正確に言うとグリムベル財団代表『』様だ」

 その名を聞いた瞬間、ぞくりと背筋に冷たいものが走ったのを感じました。
 僕もその人に会った事があるのでしょうか……?

「つまり今もその財団があって、代表がハヤトという人なのはわかりましたが、それと1200年も前の出来事……サギットさんの話では、この世界の人が元々僕がいた世界の人だという話と何の関係があるんでしょう?」

 未だにそのグリムベル財団という組織が残っているのはわかりましたが、その今の代表であるハヤトという人が1200年前に突然現れたとされているイシュタール帝国の人たちと何か関係があるとは思えません。

 そう思って疑問の声をあげたのですが……。

「そりゃぁ関係あるさ。1200年前から現在に至るまで、グリムベル財団の代表は。ハヤト様だけだからな」

「な!? ただ一人って……」

 そんな事がありえるのでしょうか?
 1200年もの長い間、ずっと生き続けているなんて……。

「ハヤト様はな……『不老不病』の異能を持っているんだよ」

「つまり……異能の力で1200年も生き続けているというのですか……?」

 まさか異能でそんな長い時を生き続けている人がいるとは、ちょっと予想外でした。

「生きているだけなら良かったんだがなぁ……」

 そう言って、心底嫌そうに溜息をつくサギットさん。

「それは、どういう意味ですか?」

「ダイン……この世界で一番の災厄はなんだ?」

 どうしてでしょう?
 僕も何だか凄く嫌な予感がしています。

「この世界で一番の災厄は魔物だ。そして……その魔物を生み出しているのは、モンスターウェーブを起こしているのは……ハヤト様なんだよ……」

 その明かされた事実の衝撃に、僕は暫く発する言葉を失うのでした。
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