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【第13話:目指すもの】

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 フォレンティーヌさんに助けられたという事を知り、どういう経緯で僕を助ける事になったのかを教えて貰いました。

 まず、フォレンティーヌさんはこの街の出身ではありませんでした。

 その彼女がシグルスにやってきたのが約一年前。
 遠くの城塞都市国家から護衛依頼を繰り返し、その日、この街にやってきたばかりだったそうです。

 ただ、隣の城塞都市国家からこのシグルスには、タイミングが悪くて護衛依頼が無かったらしく、依頼抜きでシグルスに向かっていました。

 どういった目的でこのシグルスを目指していたのかはわかりませんが、目的地はこの街だったようです。

 そしてシグルスの街がようやく見えたその時、なにかの魔力の高まりを感じ取った彼女は、その感覚に従うままに街道から外れ……城壁の側で倒れていた僕を発見したという事でした。

「そうなんですね。前に僕を助けてくれた守護者の事を聞いた時に、本人の許可がないと教えれないと言って断られたので全く知りませんでした。そう言う話なら一度会ってお礼を言いたいのですが……って、あれ? どうしてその助けてくれた人が僕に実地訓練をって話になったんでしょう??」

 そもそも僕が守護者を目指して守護者養成学校に入学するのを、何故フォレンティーヌさんは知っていたのでしょうか?

「うむ。フォレンティーヌ彼女は中々律儀な性格の子のようでな。助けた後も何かとお主の事を気にかけていたようなんじゃ」

「気にかけて貰っていたのはありがたいのですが、それでどうして僕の指導をしたいという話になるのでしょうか?」

「うむ。彼女が言うには『ダインあの子の能力は私が指導した方が伸びるから私に任せて欲しい』という事なのじゃ」

 どう言う事なんでしょう?
 僕の能力って言っても、結局ギフトの事もよくわからないままだし、剣や魔法、魔銃については養成学校で普通に習えますし、フォレンティーヌさんは僕について何かを知っているのでしょうか? そして何を教えてくれるつもりなのでしょうか?

「ん~? どう言う事なんですかね? ちなみにフォレンティーヌさんは、どう言ったギフトの持ち主なのですか?」

「二つ名の通り『樹氷』と言うギフトを持っておるのぉ」

 そう言われてもイマイチどういう能力のギフトなのかわからないですよね……。

 僕がわかってないのが表情に出ていたのでしょう。
 ワグナー校長は、もう少し詳しく話してくれました。

「彼女の樹氷と言うギフトは氷属性のギフトでな。任意の場所に氷の木を出現させる事が出来るのじゃ」

「フォレンティーヌさんの樹氷は凄い綺麗なのよ! キラキラ光り輝く氷の木が出現したかと思うと、その木を中心に凄い強力な氷の攻撃をいっぱい繰り出せるの!」

 途中から興奮したセリアが割って入ってきたけど、校長を見る限り間違ってはいないようです。

 この世界ではギフトなど関係なく、誰でも火水土風の基本4属性の魔法を扱う事ができます。
 ただ、人によって属性に向き不向きがあり、それによって扱える魔法の種類が、魔法の才能と扱える魔力量によってその威力などに大きな差が生まれるのですが、それでもこの世界では魔法はとても身近な存在です。

 ただ、他に光闇などの特殊属性と呼ばれる属性があるのですが、こちらは適正がないと全く使えないようで、その条件は未だに解明されていないようです。

 フォレンティーヌさんのその氷の木がどう言った能力なのかの詳細はわかりませんが、普通では考えられないような氷属性の魔法を繰り出し、その威力もとても強力だという話でした。

「そんな凄いんですね。僕も一度見てみたいなぁ」

 やはり魔法というものは何だかワクワクします。
 でも、そんなフォレンティーヌさんが僕の指導をと言う事は、僕にも何か氷属性のギフトが備わっているという事でしょうか?

 今日見た映像からは氷とは何も結びつかないですが……。

「でも、そうすると僕に氷属性のギフトがあると思ってるんですかね?」

 僕が倒れていた時に何かそう言うものを感じ取ったのでしょうか?

「ん~詳しくは儂も聞いていないのじゃ。元々断るつもりじゃったしのぉ」

 モンスターウェーブの発生が無ければ、僕の能力を見極めてから再度検討しようと思っていらしく、何でも今日の夕方にここを訪ねてきた時に、その時期を話し合う予定だったそうです。

「まぁそういう訳じゃから、その時にお主も直接会って色々聞いてみるといい。その時の話次第で決めようと思っておる」

 そして悪いようにはせんから安心せいと言って、僕についての話は終わったのでした。

 ~

 その後、校長室を出た僕らは、校長のはからいで施設案内をローズが受け持つことになり、守護者養成学校を歩いて回ることになりました。

 最初に行った施設が食堂だったのは、もうお昼を過ぎていたのでさすがローズといったところです。
 食堂のご飯がとてもとても美味しかったのは、きっと今日一番の収穫でしょう。

 その後、いくつかの施設を回った後、

「うわっ! ローズ! あれは何やってるの!?」

 セリアが指をさしたのは魔法訓練施設でした。

「ここは魔法訓練施設なんだけど……あそこで訓練してる人たちは、うちの訓練生じゃないわね」

「生徒以外も利用しているの?」

「たぶんだけど、あれは現役の守護者の人たちね。校長もそれならそうと教えてくれたらいいのに」

 ローズの話では、守護者は普段はギルドにそういう施設があるので、そちらを使うそうです。
 でも、今はモンスターウェーブが発生しており、作戦行動の練習をする為の場所が足りないから、貸し出しているのだろうという事でした。

「たしかに結構歳の人もいるし、魔法の威力も精度も高そうだね」

 数人ごとにグループを作って隊列を組んで動いているし、指揮のもとに魔法の発動タイミングを合わせていたり、かなり実践的な訓練をしているようです。

「なんか色々あってすっかり忘れてたけど、モンスターウェーブがせまってるのよね……」

 僕はぜんぜん忘れてなかったから同意を求められても困るけど、ここは話をあわせておかないと。

「そうだね。モンスターウェーブってどういうものかは教えて貰ったけど、何か実感がわかないよ」

 モンスターウェーブが起こったからと言って、必ず大きな被害が出るとは限らないと聞いています。
 必要以上に恐れる必要は無いと。

 だからと言って楽観視できるものでもありません。
 酷い時には多数の死傷者が出る事もまた事実であり、それこそ過去にはいくつもの都市国家が滅亡しています。

 だけど……恐れるにしろ、平然と受け止めるにしろ、僕たちに出来る事は限られていました。

「まぁでも、今の僕らに出来る事はほとんどないし、守護者の人と街の衛兵さんに頑張ってもらうしかないよね」

「そうよね……普通の魔物の襲撃の時だって、私たちは警報が鳴ったら建物の中に避難するぐらいしか出来ないし」

「だと良いんだけど……。ダイン。これからまた校長室に戻るけど、安易に実践を経験させるって話に乗っちゃダメよ?」

 ローズだけでなく、セリアもいつになく真面目な表情でこちらを心配そうに見ています。

「うん。その件だけど……僕は内容次第では実践を経験するって話を受けてみようと思ってるんだ」

 まさか僕がその気になっているとは思っていなかったみたいで、二人とも驚きの声をあげました。

「え!? どうして!?」

 セリアがちょっと怒り気味に、ローズは納得のいく説明をしなさいと鋭い視線を送ってきます。

「フォレンティーヌさんって凄く強い人なんでしょ? という事は、学べる事も多いと思うんだ。モンスターウェーブというのもそんなに経験できるものじゃないし、それを凄く強い人と一緒に経験出来るんなら、より役立つはずでしょ」

「そんな……」

「志が高いのは良いけど、どうしてそこまで? ダインって守護者にそんなに思い入れあった?」

 たしかに僕はそこまで守護者というものに思い入れがあったわけでは無かった。

 今日実際に魔物と戦うまでは……。

「僕はね。今日の襲撃を受けて思ったんだ。セリアが、ローズが、孤児院のみんながいなくなるのは嫌だって……」

 孤児院のみんなは僕にとって家族だ。
 昔の記憶がないからハッキリとはわからないけど、初めてできた本当の家族だと思っている。

「だから僕は、強い守護者になって……孤児院のみんなを守りたい」

 この日、僕に始めて目指すものが出来たのでした。
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