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【第11話:噂】

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 ギルドマスター室を出たオレは、まだ実感がわかず、少しふわふわした足取りで再び受付へと向かった。
 衛兵隊長のオックスから貰ったお金も結構な金額だった事に今更ながらに気付いたので、預けておこうと思ったのだ。

 まだ夢なんじゃないかと実感がわかないが、いつまでもぼんやりしているわけにもいかない。
 もし大金を持っているのが周りにバレたら、面倒な奴らが寄ってくるかもしれないからな。早めに預けておくに越したことはない。

 それに、これからも冒険者としてやっていくのなら、出来れば次こそちゃんとした仲間が欲しい。
 すぐには見つからないだろうから、ギルドに相談に乗って貰いつつ、とりあえず簡単な一人で受けられる依頼でも受けてゆっくり探していこう。

 次こそは本当に信頼できる仲間を……。

「すみません。いくつかお願いがあるのですが、まずはギルド預金に……あっ……」

 適当に空いている受付窓口に行ったのだが、そこは、さっき暴走しかけていた受付嬢のシリアが受け持つ窓口だった。

「あっ……」

 やはり気まずかったのか、オレの顔を見て僅かに目を見開いたものの、今度は、すぐさま頭を下げて謝ってきた。

「先ほどは、すみませんでした!!」

 いや……謝ってくれたことは素直に嬉しいし、それは良いのだが、大声でするのはやめてほしい……。

「なんだ、あいつ? なんでシリアちゃんに謝らせてるんだ?」

「態度次第じゃ……」

 うっ、やっぱり悪目立ちしてしまったようだ。

 そもそも冒険者ギルドの受付嬢は、冒険者にとても人気がある。
 さっきは勢いに負けてあまり気にしている余裕が無かったが、こうして改めてシリアを見てみるとかなりの美少女だ。

 背は低いが、スレンダーな体形に整った顔立ち、まだオレと同じぐらいの歳に見えるし、これから更に女性としての魅力は増していくだろう。

 そんな受付嬢がオレに頭を下げて大声で謝ったのだから目立って当然だった。

「わ、わかった! シリア、頭をあげてくれ! オレは全く気にしていないから、シリアも気にしないで大丈夫だ!」

「で、でも、私! フォーレストさんが、噂の冒険者だとは全然知らなくて! 本当にすみませんでした!」

「い、いや! だから本当に全然気にしてないから! ……ん? 噂の冒険者?」

 ど、どういうことだ……? 噂の冒険者?
 なんだか嫌な予感を抱きながら、尋ねてみると……。

「え? ご存知ないのですか? 冒険者の間はもちろん、一般の方の間にも、フォーレストさんの噂が広まっていますよ? ギルドマスターにお聞きにならなかったのですか?」

「き、聞いてないです……」

 やられた……ギルドマスター、わざと黙ってたな……。

 しかしそれよりも、いったいどんな噂が流れているのか確かめておかないと!

「あの! 噂って、どんな噂なんですか!? も、もう少し詳しく教えてください!」

「えっと……たった一人でクラン『薔薇の棘』を壊滅させた、とんでもない少年がいるとか。それから、見たこともない魔法か何かで簡単に人を殺せるとか……あ、あと、その……鬼のように冷酷で残忍な男だとか。それから……」

「うわぁぁぁ!? も、もう大丈夫です!? それ以上聞くと、せっかく前向きになった心がまた折れそうなんで!?」

 だ、だめだ……こんな変な噂を流されては、仲間を見つけるなんて絶望的だ。
 単なる噂と切り捨てて見て見ぬふりをするには、下手に真実も含まれているから質が悪いぞ。

「お、おい……マジかよ……。あれが噂の……」

「そう言えば、冒険者になりたての少年だって噂だったな……」

 あ、やばい!?
 大きな声で話していたから、周りにまる聞こえじゃないか!?

「とすると……本当にあいつが……」

「あぁ、間違いねぇだろ……」

 くっ……噂されている冒険者だとバレた……。
 どうする? ここは真実を話して……と言っても、元々半分真実だし! どうしろと!?

 などと、対応に頭を悩ませていたのだが、次の言葉で全部ふっとんだ。

「「あいつが『断獄だんごくのフォーレスト』だ!」」

 ぬぁっ!? なんだその呼び名はっ!!
 駆け出しの冒険者に二つ名とか冗談だろ!?

「マジかよ!? あんなどこにでもいそうな普通っぽい奴が『断獄のフォーレスト』なのかよ!?」

「え? あんな可愛い子が? うそ~!」

「ば、馬鹿! ああ言う一見大人しそうな奴が一番ヤバイんだって!」

 オレ、そんなやばくないから!? と心の中で叫んでいると、今度はまたシリアの話題になり……。

「お、おい! だとするとシリアちゃんやばくないか!?」

「あんな必死に頭下げてるって事は、相当不味いんじゃないか!?」

「お、お前、さっき『態度次第じゃ……』とか言ってたじゃねぇか! 止めて来いよ!」

「やだよ! 俺まだ死にたくねぇし!」

 さすがにこれは見て見ぬふり……じゃなくて、聞いて聞かないふりは出来ないと思い、そこで声を上げる事にした。

「いや! オレ、そんなやばくないから!」

 と言って振り返ったのだが、これが不味かった。

「おいっ!? あいつあの歳でシルバーランクだぞ!?」

 受付で必要だろうと、さっき貰ったばかりの銀色に輝くギルドカードを手に持っていたのだ。

「「う、噂は本当だったんだ~!!」」

 いや……もう、本当にどうにでもなってくれ……。
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