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【第39話:真魔王ラウム その5】

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 真魔王軍『天』の空飛ぶ魔物の軍勢は、15万ほどになっていた。
 これは、ヘクシーの街に向かった5万を除いての数なので、既に真魔王ラウムの領域からの移動が完了したことを意味している。

 しかし、その空を埋め尽くす魔物たちは、まだ動けずにいた。
 それは、その魔物たちを率いているのが知性の高い魔族であり、下手に知性が高いせいで、ゼロの存在を、また、ゼロが率いる者たちの実力を感じ取ってしまっていたせいだ。

 要するに、ビビってしまっていたのだ。

「無理だ……あんなのに勝てるわけがない……」

 遠目に見える謎の軍だが、その距離が近づくにつれ、その魔族は気付いてしまったのだ。

「あれ全部、俺達と同族じゃないのか……」

 同族。

 つまり、こちらに迫ってくる1万前後の者たちが、単なる人族の軍ではなく、自分たちと同じ魔族なのではないかと。

 魔族とは、見た目こそ人と非常に近い姿をしているが、元々人とは異なる世界にいた者たちであり、そして……単純に、人よりも圧倒的に強い。

 それは自身も魔族であり、魔物の軍勢を率いるその者が一番よく知っていた。

 その魔族と思われる者たちが1万もいるのだ。
 自分たち真魔王軍『天』のラウムの眷属全て合わせても魔族は1000人もいない。
 それが何をどうすればそのような人数を集められるのか。
 目の前の現実が受け入れられずにいた。

 しかし、ここで退く事は許されない。
 そう思いなおすと、全軍に指揮を出す。

「敵は魔族だ! お前たちよりも強い者が多いだろう! だが、数でこちらが圧倒している! 奴らを蹴散らせぇぇ!!」

 作戦と呼べるようなものは立てている時間がなかった。
 そもそも魔物で構成されるこの軍に、そこまで細かい指示は出来ない。

 こうなってしまっては、数の利を生かし、正面からぶつかるしかなく、それはあながち間違った行動ではなかった。

「「「うおぉぉぉ!!」」」

 四方から怒号があがり、次々と降下しながら敵軍に向かって行く魔物たち。

 ハーピーと呼ばれる女性の上半身に鳥の身体を持つ者たちが、魔法の歌を謳い、士気をあげ、力を底上げする。

 数は少ないが亜竜であるワイバーンが先陣を切り、その後ろを鷲の上半身に獅子の身体を持つグリフォンが続く。
 いずれも魔物としては上位にあたる者たちだ。

 その更に後ろには、アイスバードやファイヤーバードといった、小型の鳥の魔物が大量に続き、他にも石造の魔物であるガーゴイルや、巨鳥の魔物エビルホークなど、多種多様の空を飛ぶ魔物たちが、謎の軍に向かって行った。

「ははっ……そうだ……そう簡単に俺たちが負けるわけがない!」

 しかし、その先陣が視界を覆いつくすような巨大な黒い炎と共に、消し炭と化した。

「……は?」

 その魔族が見た事もないような巨大な黒い炎だった。
 たった一撃で先頭の1万ほどの魔物が消し去られた。

 そして、次々とそれに続くように撃ち込まれた赤い炎は、最初の炎のような馬鹿げた大きさのものでは無かったものの、それでも最上位クラスの炎の魔法には違いなく、魔物の軍は一瞬にして瓦解させられた。

 ゼロの配下の魔族たちの放つ炎だ。

「ば、馬鹿な……最初の一撃はあの存在が放ったにしても、他の者たちも尋常じゃない威力ではないか……」

 その魔族が放心しつつも、そう呟いた時だった。

「それはお褒めに預かり光栄です。まぁ、長い間私に付き従ってくれている者たちだから、君たちのようにひ弱ではないからね」

 その魔族に話しかけてきたのはゼロだ。

「なっ!? き、貴様は!? 『無』の!?」

 その魔族も真魔王軍の『天』の魔王ラウムから主力の軍を任せられるような存在。
 遥か昔に、一度だけゼロの姿を見た事があった。

「私はただのゼロですよ。ステルヴィオの筆頭眷属の、ね。間もなく終わる命でしょうが、一応、お見知りおきを」

 ゼロがそう言って優雅にお辞儀をしてみせるが、その魔族はそれをチャンスと見て自身の軍が喰らった魔法に勝るとも劣らないような魔法をゼロに向けて放った。

「なにを馬鹿な事を!! みすみす殺られてたまるものか!」

 爆風が巻き起こり、近くにいた味方の魔族や魔物までをも巻き込んで……いや、自身をも巻き込み、傷つけながらも、凄まじい威力の魔法を撃ち放った。

 しかし……魔王覇気を纏うゼロを傷つける事が出来るのは、同じ魔王覇気を使う魔王か、聖光覇気を使う勇者のみ。

 その一か八かの魔法は、結局ゼロを吹き飛ばす事すらできずに終わってしまった。

「くっ!? わかってはいたが、叶うわけがない……今のうちに……」

 恐らく自分の魔法が効かないだろう事は、その魔族もわかっていた。
 その魔族の真の狙いは、自身を巻き込み吹き飛ばすことで、ゼロとの距離を取る事が本当の目的だった。

「いやぁ、敵わないと見ての見事な逃げっぷり。敵ながらお見事ですねぇ」

 しかし、それすらもゼロに対しては無意味な行動だった。
 突然、後ろに気配を感じて振り返れば、そこにいないはずのゼロの姿を見つける。

「くっ!? せめて、この事をラウム様に!」

 そう言って、更に魔法を放とうとした魔族だったが、

「その忠誠心と機転は中々のものでしたが、ここまでにさせて頂きましょう」

 そう言って、振り下ろした右手から黒い炎が剣閃となって伸びていき、呆気なく魔族を両断してしまった。

「さて……残りの魔物や魔族は配下の者たちに任せるとして、私は最後のお仕事にでも向かわせて頂くとしましょうか。ちゃんと見届けてあけないといけませんからね」

 そしてゼロは、そんな言葉を残して忽然と姿を消した。

 この魔族が倒された事により、真魔王軍『天』の主力部隊は統制を失い、ゼロの配下の魔族たちによって、掃討されていったのだった。
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