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【第6話:決闘の行方】

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 最初に動いたのは、兄のザンギフだった。

「うおぉぉぉ!」

 その筋肉見た目に似合わず、オーソドックスな剣と盾を構えたスタイルのザンギフは、意外なほど素早い踏み込みで間合いを詰めると、薙ぎ払うように二人の幼女に向かってその剣を振り抜いた。

 幼い二人を心配していたサリーや他の者たちが、思わず小さな悲鳴をあげる。

 しかし、それにもかかわらず、二人の獣人の幼女は……。

「じゃぁさ、ネネネはこっちの筋肉貰っていいにゃ?」

「いいよ~! じゃぁトトトはむこうの筋肉貰うにゃ!」

 どっちがどっちと戦うのかという会話を続けていた。

 そして、何が起こったのか理解できず固まるザンギフを見て、周りも騒ぎ出す。

「おいおい……一体何が起こったんだよ……」

「おい! どうなってやがる!? 確かにあいつ、剣を振り抜いたよな!?」

「私、あの子たち斬られたと思った……良かった……」

 やじ馬に集まっている者たちの中で、その動きを捉えられた者はわずかなようで、あちらこちらで動揺や驚きの声があがっていた。

 そんな周りの声を聞いてようやく正気に戻ったザンギフが、信じられないと呟きながらも、もしやと二人に問いただす。

「な、何をしやがった!? も、もしかして、それがお前らのスキルか!?」

 戦闘に向いたギフトを授かると、いくつもの強力なスキルを扱えるようになることがある。
 だから、それらのスキルを使って回避したのかと、尋ねたのだが、

「え? ネネネもトトトもまだスキルなんて使ってないにゃ?」

「しゃがんで避けただけにゃ?」

 その答えは、逆にその実力を指し示すものだった。
 踏み込んだスピードも乗せて全力で振るった剣を、その身体能力で普通に避けただけだという事実に、嫌でも自分たちの認識を改めるしかない。

 そして、本当に今更だが、今頃になって気付いてしまった。
 この獣人の幼女たちが、只者ではないという事に。

「……お、おい! 本気で行くぞ! 少しでも手を抜けばやられるのは俺たちかもしれねぇ!」

 ネネネとトトトと向かい合う事で、ようやくその実力の高さに気付いたザンギフが弟にそう叫ぶと、弟も投げやりだった雰囲気を一変させて、筋肉二人が肩を並べる。

 すると、筋肉兄弟が本気になったのに気づいたやじ馬が声をかけた。

「頑張れ~! 筋肉ぶらざ~~ずっ!」

「筋肉ぶらざ~ず! 負けるな!」

 信じられない事に、意外と人気のようだ……。

「オレのスキルを見て驚くな! スキル『金剛』!」

「唸れ! スキル『共鳴』!」

 よくわからないが、筋肉を固くして防御力をあげるスキルと、筋肉を共鳴させてさらにパンプアップするスキルのようだ……。

「出たぁ! 筋肉スキル! ぎゃはははっ!」

「がははははっ、は、は、腹痛ぇ……!」

 指をさして笑われているので、やっぱり人気があるわけではないようだ。

 だが、二人はそんなやじも気にならないほど、真剣に獣人の幼女二人と対峙していた。
 凡庸とはいえ、Dランクと言えばベテラン冒険者だ。
 長年冒険者をやっており、そこで培った経験と勘が、ようやくとれた偏見で曇った眼を見開かせ、そうさせていたのだろう。

「用意はできたかにゃ? たぶん一瞬で終わっちゃうけど、落ち込まないでにゃ?」

 盾を構えて警戒する兄のザンギフの目の前には、いつの間にか刀を構えたネネネの姿があった。

「これがネネネたちのギフト『兵装つわものよそおい』のスキルの一つ『次元刀』だにゃ」

 一般的には、神に選ばれた勇者だけが強力なギフトを授かるとされている。
 だが、実はいくつかの例外があった。

 その一つが、一族のギフトを血の盟約によって代々受け継ぐ場合だ。
 他の神の寵愛を拒否し、代々一つの神に仕える事によって、本来ギフトが持つ力をさらに高められる忘れられたいにしえの秘術。

「トトトもお揃いだよ~! こっちもスキル『次元刀』にゃ!」

 トトトも筋肉弟の前にふらりと現れ、いつの間にか創り出した刀を手にしていた。

「くっ!? スキルによって武器を作り出したのか!?」

「だが! 武器が強力でもその武器を使いこなす腕がなければ……は?……」

 途中まで威勢よく何かを語ろうとしていた筋肉弟だったが、その手に持つ剣が、盾が、持ち手を残して消えてしまったのを見てしまっては、言葉を続ける事は出来なかった。

 そして、その僅かな時の後、カランと音を立てて無数の鉄くずとなって落下したのは、数瞬前まで剣や盾だったものだった。

 やじ馬までもが息を呑み、静まりかえった広場の中心で、

「まだやるにゃ~?」

「ネネネは、これ以上やるのはお薦めしないにゃ~?」

 トトトとネネネの声が響いた瞬間、今度は歓声が巻き起こったのだった。

 ~

 参りましたと膝をつき、非礼を詫びた筋肉兄弟に、「またね~」と別れを告げたネネネとトトトがステルヴィオとハイタッチを交わしていると、ゼロが頑張りましたねと二人の頭を撫でる。

「で……結局、これで良かったのか?」

「ん~、とりあえずその話はまた後で。お客様のようですよ」

 ゼロがそう言って視線を向けたのは、慌てた様子で駆け寄ってくるサリーだった。

「決闘が終わったばかりですみません! お話をしたい方がおられるので、少しお時間を頂けませんか?」

 何か言葉を濁してそう言うサリーを不審に思ったが、とりあえず話を聞いてみない事にはわからないと、ステルヴィオは構わないと返事を返した。

 そうして通されたのは、ギルドの中のとある一室。

 応接室と思われるその部屋は、質素ながらも質の良い家具や調度品で揃えられており、下手な貴族の部屋よりも気品が感じられる。

 ステルヴィオたちは、そんな部屋の中央にある大きなソファーに座り、今はこの地方特産の茶葉で淹れられたお茶を飲んで喉を潤していた。
 そして、ここで少し待つように言ってサリーは出ていってしまったので、今はステルヴィオたちしかおらず、どこか弛緩した空気が流れていた。

「おぉ。このお茶旨いなぁ」

「うぇ~ネネネは果実水のが良いにゃ~」

「あっ、トトトもにゃ! ヴィオ果実水出して~!」

 だが、今のうちに疑問だったことを聞いておこうとアルテミシアが口を開く。

「ゼロ様、さっきの戦いを仕組んだのって……」

 そう尋ねるアルテミシアに、ゼロは、サリーがこの場にいれば見惚れていただろう微笑を浮かべると、

「仕組んだと言われると少し否定したくなりますが、まぁ良いでしょう。まず、この国で活動するにあたって弊害となりうることが何点かありました。そのうちの一つがネネネとトトトの二人が獣人であり、ここが人間至上主義の国だという事。そのくせ、良くも悪くもランクなどの肩書よりも、実力が全ての実力主義の傾向が強いという点でした」

「なるほど……それでネネネちゃんとトトトちゃんの二人に、その実力をアピールする場を設けたんですね!」

 ゼロの言葉に素直に感嘆するアルテミシアだったが、そこにステルヴィオが茶々を入れる。

「何とぼけてるんだよ。それだけじゃねぇだろ? もう一つ理由があるだろ?」

「え? どういう事ですか?」

 ゼロの説明に素直に納得していたので、不思議そうに首を傾げるアルテミシアと、ただ微笑むにとどめるゼロ。

『ご主人様~アルちゃんは素直なとこが魅力なんだよ~』
『……素直が一番……』
『ご主人様が忘れちまった心だな!』

「うるせぇ! オレだって素直な心ぐらい持ってるわ! そもそも、さっきまでアルに抱えられてぐうすか寝てたくせに、ケルもわかってねぇだろ!?」

 わかってねぇだろの言葉にあからさまに目を逸らすケルだったが、そこで部屋の扉がノックされる。

「まぁいいや。そのもう一つの理由がやってきたようだぞ?」

 ステルヴィオはそう言うと、楽しそうにニヤリと笑みを浮かべるのだった。
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