上 下
33 / 137
第一章 旅立ち

【第33話:闇の尖兵 その3】

しおりを挟む
 ギルドを飛び出したオレは通りを疾駆しながら、このままじゃ間に合わないと、

「パズ!きっと本気出せばお前の方が早いだろ?先にいってリリルを頼む!」

 と、パズにリリルを守ってやってくれと頼む。
 するとパズは、

「ばうっぅ!」

 と、一吠えするとオレの「頭の上」から飛び降りて残像を残すようなスピードで走り出す。

「愛しの人は任せろとか、そんなセリフどこで覚えたーー!」

 と、オレの叫び声を置き去りにして走り去っていくのだった…。
 ~
 その時、

「ユウト殿!どうなったでござるか!」

 と、キントキに跨って追いかけてきたメイと合流する。
 そしてそのまま走りながら、

「メイ!緊急事態だ!北の森でゴブリンの大群が発生していて、この街に向かって進行を始めようとしている!」

 まずは『第三の目』で見えている内容をメイに伝える。

「な!?本当でござるか!?」

 そして、驚くメイには悪いが時間がないので手短に伝える。

「本当だ!だからギルドと衛兵にこの事を伝えてくれ!それと、悪い知らせだがその森にリリルがいる!先にパズを向かわせているがオレもこのまま後を追う。だから街の方は頼む!」

 メイは本当は自分もリリルを救いに向かいたかったが、

「!? わかったでござる!リリル殿を頼むでござるよ!」

 そう言って、オレからはなれてギルドに向かっていくのだった。

 ~

 パズは走っていた。
 魔力炉を稼働し、全身に溢れんばかりの魔力を纏い、馬より早く走っていた。
 そして街を飛び出し街道に出ると、更に2段階ほどギアをあげて街道を北にひた走る。
 もう地上でパズよりも早く走れるものはいないのではないか?そう思える速度だった。
 途中すれ違った馬車は、急にあがった砂ぼこりに驚くが、もうそこには何の姿も確認できなかった。

 風のごとく疾駆しながらパズは転生した時を思い出していた。
 セリミナ様に救ってもらった時、パズは普通のチワワよりも高い知能を一緒に授かっていた。
 そしてユウトを助けてあげなさいと。
 この力と頭でユウトを助けてあげれると思うと、パズは嬉しくてしかたなかった。
 ただ、『朴念仁なユウトの為に一肌脱ぐか~』とか、チワワらしからぬ事を考えていたのは触れないでおこう…。
 ~
 パズはユウトから送られてくるだいたいの場所のイメージに向かって疾駆している。
 そしてあっという間に街道を駆け抜け問題の森の前にたどり着くと、すぐにリリルの匂いをキャッチする。

「ばう!」

 と、一吠えするとパズの目の前に高速で回転する円状の氷の刃がいくつか出現する。
 それを自分が向かう方向に飛ばすと、パズは再びその氷の刃を追うように駆け出すのだった。

 ザザザザザ!!

 複数の氷の刃が行く手の邪魔な草木を刈り取っていく。
 その後ろを追うように走るパズは、森の中とは思えないような速度で駆け抜けていた。
 そして、刈り取るのは草木だけではなかった。

「ギャギャ!」

 突然現れるゴブリンたちを、鎧袖一触がいしゅういっしょく 氷の刃で切り刻んでいくのだ。
 そしてその数が百体に届こうかという頃、ようやく目的の人物の元へとたどり着いたのだった。

 ~

 リリルはいつまでたってもやってこない『痛み』と『死』に、不思議に思い目を開ける。
 すると、迫っていたゴブリンが微動だにせず彫刻のように固まっていた。
 いや…彫刻のようにではなく、ゴブリンは実際に氷の彫刻と化していたのだ。

「いったい…これってまさか!?」

 そしてそのまさかが胸に飛び込んできた。

「きゃっ! パズくん!!」
「ばぅわぅ!」

 パズを受け止めきれずに腰をつくリリルは、その小さな体を抱きしめる。
 頬を舐められて、

「きゃ!くすぐったいよ。パズくん。ありがとー!」

 と言って、パズを頭の上に持ち上げる。
 そして肩の痛みがない事、あちこちの体の痛みが消えていることに気付いて、

「パズくん。治してくれたのね。ありがと!」

 と言って、もう一度抱きしめるのだった。
 ~
 自分の命がまだある事を噛みしめたリリルは、ユウトの姿を自然に探していた。

「パズくん。ユウトさんは一緒じゃないの?」

 そうパズに尋ねると、パズは

「ばわぅばぅ」

 と答えるのだが、やはりリリルには理解できなかった…。

「あぁ。ちょっとわかんないかな?パズくん、ごめんね」

 と苦笑しパズにあやまると、自分の体の調子を確かめ立ちあがり、落とした杖を見つけて拾い上げる。

「パズくんがここにいるって事は、きっとユウトさんも近くにいるはずですよね」

 そう呟いて移動を再開しようとした時だった。

「あら~。その従魔凄いわね~。加護持ちを始末しようと思ったら変なのが釣れちゃったわ~」

 そこに聞き覚えのある声が響き渡ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

どうぞご勝手になさってくださいまし

志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。 辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。 やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。 アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。 風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。 しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。 ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。 ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。 ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。 果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか…… 他サイトでも公開しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACより転載しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】『サヨナラ』そう呟き、崖から身を投げようとする私の手を誰かに引かれました。

仰木 あん
ファンタジー
継母に苛められ、義理の妹には全てを取り上げられる。 実の父にも蔑まれ、生きる希望を失ったアメリアは、家を抜け出し、海へと向かう。 たどり着いた崖から身を投げようとするアメリアは、見知らぬ人物に手を引かれ、一命を取り留める。 そんなところから、彼女の運命は好転をし始める。 そんなお話。 フィクションです。 名前、団体、関係ありません。 設定はゆるいと思われます。 ハッピーなエンドに向かっております。 12、13、14、15話は【胸糞展開】になっておりますのでご注意下さい。 登場人物 アメリア=フュルスト;主人公…二十一歳 キース=エネロワ;公爵…二十四歳 マリア=エネロワ;キースの娘…五歳 オリビエ=フュルスト;アメリアの実父 ソフィア;アメリアの義理の妹二十歳 エリザベス;アメリアの継母 ステルベン=ギネリン;王国の王

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

処理中です...