23 / 27
第八話 推しだけじゃなくて推しの要素を構成する周りのキャラだいたい皆好きになるから結局箱推しになる その1
しおりを挟む――、時は、少し前から遡る。
――――
「いやぁぁぁあ!吸い込まれますわ!ハレンチですわぁぁぁぁ!!!!」
「ポラリス・ホールド」をかけたミーティアちゃんの大絶叫が学校中に響き渡った直後。
「ぐへぇっ!」
突然、ミーティアちゃんの身体から強い光が出て、私の視界を白く塗り潰した。
光が収まるのを待って、やっと目を開けてみたら、ミーティアちゃんは案の定、私の腕の中からいなくなっていたのである。
――――
「結局、あの子はなんだったんだろうね……」
あれだけ派手に割られたハズの窓ガラスが元通りになっているのを見ながら、あおいちゃんがお弁当の卵焼きを頬張った。
……、校庭に現れたサイヤクダーは、全学年の生徒が体育館に避難するほどの騒ぎになったらしく、勝手にいなくなっていた私達「マジカル・ポラリス」の三人は、ミーティアちゃんとの戦闘の後に国語のオッサン先生から大目玉を食らった。
美少女戦士もののアニメの定番とはいえ、理不尽である。いや、先生が生徒の安全を守らなきゃいけないからっていう理由はわかるんだけども。
「メテオリトの妹って言っていたけど、本当なのかな」
「そりゃ、あかりんのことをあんな風に言ってくるってことは、そうなんじゃないの?『泥棒猫!』なんて、ウチ初めて生で聞いたよ」
しみじみと話している二人に、ちょっとだけ悪いと思ってしまった。
生の『泥棒猫』を聞いて興奮している人間なんて、この場で私しかいない。
二人は、前世の記憶を持ち合わせない、純粋な中学二年生なのだ。教育的に、悪いことをしてしまった。
「ごめんね。私の愛が深くて激しいばっかりに……」
こんな修羅場を二人に見せつけるつもりなんてなかった。
多分、『マジカル☆ステラ』的にもNGだろう。日曜朝の子ども向けアニメで、「泥棒猫」なんて単語は出しちゃいけない。さすがにそれはダメだ。
「あぁ……、まぁ、あかりだし」
「メテオリトへのアプローチがあんだけ激しければ、妹さんだって気付くよねぇ……」
あおいちゃんが溜息を吐き、ことねちゃんが肩をすくめる。
……、あれ?これ、なんか、呆れられてない?私、二人に呆れられてない?
「ご、ごめん!でも、私、メテオくんのこと――」
「誰も諦めろ、なんて言ってないよ。どうせ止めたって聞かないでしょ」
「まぁ、周りの男子にも目を向けて欲しいけどね。……って」
ことねちゃんが、何気なく振り返る。
その視線の先には、メテオくん……、もとい、「天手オリト」の席があった。
あれ?そういえば――。
「天手くん……、戻って来てないね?」
それどころか、今の今まで気が付かなかった。
周りのクラスメイト達も、先生も、何事もなかったかのようにお弁当を食べている。
「ねぇ、日向」
ことねちゃんが、少し離れた席でフットサル同好会のメンバーとお昼を食べている日向くんに呼びかけた。
彼はフットサルのメンバーとの会話に夢中だったけれど、ことねちゃんに気付いた子が、日向君を小突いて気付かせてくれた。
「どうした、星野?」
「天手くん、どうしたの?さっきの騒ぎの時はいたと思うんだけど」
「え?何言ってんだ?」
日向くん、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
「オリトは、今日、休みだろ?」
……、え?
どういう、ことだ?
だって、私達は、確かに、オリトくんを後ろに庇って戦っていたハズなのに。
「え?あの授業の前までいたよね?だってウチら――」
「いや、休みだって。なぁ?」
日向くんが言うと、フットサル同好会のメンバー達も頷く。
他のクラスメイト達も誰も反応しないから、多分、日向くん達の言葉の方が正しいのだろう。
……、正直、天手くんはメテオくんだ。何が起こったっておかしくない。
だけど、こんな展開って。これって――。
「……、どうしたの、あかり」
取り越し苦労かもしれない。
杞憂かもしれない。
妹のフォローをしているだけかもしれない。
だけど、どうしても、最悪の状況が頭をよぎる。
「ごめん。私も体調が悪くなった。たった今」
「え?」
椅子から立ち上がって、弁当を包む。
机の中の教科書を出して、鞄に放り込む。
その鞄を背負えば、昼休みに学校を早退する、見事な不良女子中学生の出来上がりだ。
「ちょっと早退するね。大丈夫。心配しないで」
――、アニメ「マジカル☆ステラ」では、メテオくんが最終決戦でいなくなった後、「天手オリト」の記憶は、クラスメイトの皆の中からは完全に消えてしまう。
今は、完全に消えたわけではないし、単なる「休み」になっているだけだから、もしかしたら、メテオくんが自分の力で皆の記憶を書き換えたのかもしれないけれど。
でも、「もし」、「万が一」、メテオくんが消えるようなことになっていたら。
今すぐには消えなくても、それに繋がるようなことになってしまっていたら。
「あかり!」
「あかりん!」
――私は、何のために、この世界で「マジカル・ポラリス」しているんだか、わからない。
「ステラ・マジカルプロテクション!」
廊下に走り出て、五階の窓から飛び降りながら叫ぶ。
これは、私一人が決めたことだから、絶対に他の二人は巻き込んじゃいけない。
ましてや、私の前世のことも半信半疑な二人には。
こんな時でも、ステラ・ミラーは私の呼びかけに答えてくれた。
下から吹き上げる風を感じながら、眩しい光の中で目を閉じる。
サイヤクダーも出ていないのに変身するなんて、お茶の間の子どものヒーローとしては失格だ。
だけど、きちんとメテオくんの無事を確かめないと、どうしても落ち着かない。
素早くメテオくんを探すには、結局これが一番なのだ。
「どうしたポラ!?ポラリス!」
ポラルンが横から話しかけてくる。
こんな主人公で、こんな主で、本当にごめん。
「メテオくんを、探しにいく」
マジカル・ポラリスの脚力で、五階のジャンプからの衝撃に耐える。
学校の裏のフェンスを跳び越え、道路を跳び越え、屋根から屋根を伝って、なるべく一般人の皆々様に見つからないような道を選びながら、私は街の中を駆け巡った。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
女性が少ない世界へ異世界転生してしまった件
りん
恋愛
水野理沙15歳は鬱だった。何で生きているのかわからないし、将来なりたいものもない。親は馬鹿で話が通じない。生きても意味がないと思い自殺してしまった。でも、死んだと思ったら異世界に転生していてなんとそこは男女500:1の200年後の未来に転生してしまった。
殿下!婚姻を無かった事にして下さい
ねむ太朗
恋愛
ミレリアが第一王子クロヴィスと結婚をして半年が経った。
最後に会ったのは二月前。今だに白い結婚のまま。
とうとうミレリアは婚姻の無効が成立するように奮闘することにした。
しかし、婚姻の無効が成立してから真実が明らかになり、ミレリアは後悔するのだった。
妹が処刑さる……あの、あれは全て妹にあげたんです。
MME
恋愛
妹が好きだ。妹が欲しい物はみんなあげる。それであの娘が喜ぶなら何だって。それが婚約者だって。どうして皆が怒っているんだろう。お願いです妹を処刑しないで下さい。あれはあげたんです。私が我慢すればいいのです。
殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。
真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。
そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが…
7万文字くらいのお話です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
6年間姿を消していたら、ヤンデレ幼馴染達からの愛情が限界突破していたようです~聖女は監禁・心中ルートを回避したい~
皇 翼
恋愛
グレシュタット王国の第一王女にして、この世界の聖女に選定されたロザリア=テンペラスト。昔から魔法とも魔術とも異なる不思議な力を持っていた彼女は初潮を迎えた12歳のある日、とある未来を視る。
それは、彼女の18歳の誕生日を祝う夜会にて。襲撃を受け、そのまま死亡する。そしてその『死』が原因でグレシュタットとガリレアン、コルレア3国間で争いの火種が生まれ、戦争に発展する――という恐ろしいものだった。
それらを視たロザリアは幼い身で決意することになる。自分の未来の死を回避するため、そしてついでに3国で勃発する戦争を阻止するため、行動することを。
「お父様、私は明日死にます!」
「ロザリア!!?」
しかしその選択は別の意味で地獄を産み出していた。ヤンデレ地獄を作り出していたのだ。後々後悔するとも知らず、彼女は自分の道を歩み続ける。
夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。
window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。
三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。
だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。
レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。
イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。
子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。
嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。
しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い!
声が出せないくらいの激痛。
この痛み、覚えがある…!
「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」
やっぱり!
忘れてたけど、お産の痛みだ!
だけどどうして…?
私はもう子供が産めないからだだったのに…。
そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと!
指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。
どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。
なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。
本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど!
※視点がちょくちょく変わります。
ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。
エールを送って下さりありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる