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第六話 推しに願いを! 追加戦士の登場フラグ!? 後編 その2

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 これは、さすがにまずいかもしれない。
 だって、相手はメテオくんだ。連戦連敗で忘れられがちだけど、単独かつ短期間で、私達の素性を調べて学校に転校してくるぐらいスペックの高い子なんだぞ?
 目の前で、呑気にドーナツを頬張っている赤い妖精が、「マジカル・ステラ」の変身妖精だと気付かない訳がない。
 案の定、メテオくん、めっちゃ見てる。妖精めっちゃガン見している。

「レグ?」

 そこの赤いの!あんたも可愛く小首を傾げているんじゃない!
 そもそも相手がメテオくんじゃなくても、一般人にバレた時点でかなりヤバいんじゃないのか。ちょっとは自分から隠れるとかしなさいよ。恥じらいを持ちなさい恥じらいを。

「レグ!」

 食べかけのドーナツをメテオくんに分け与えようとするんじゃありません!しかもなんでそんなにものすごくいい笑顔なんだ!
 あ、いや、私も分け与えましたけど!メテオくんにドーナツ貢ぎましたけど!でも、口付けてないやつだよ!衛生的には大丈夫だよ!ヲタクの熱くて重くて深い愛しか注いでないよ!

「レっグ!」

 ああああ星が散るほど愛想を振り撒くなウィンクするな!
 可愛い!すごく可愛い!
 でもバレちゃうだろ!お前が変身妖精だってバレちゃうだろ!
 いや、バレてるだろうけど!もうとっくにバレてるだろうけど!自分からわざわざバラしに行かなくたっていいじゃん!やめろよ!直視出来ねぇよ!

「え、えーっとね、メテ……、天手くん」

 必死に取り繕おうとして、とりあえず声を上げてみた。
 だけど、その後に続けるセリフを、何も思いつかない。
 「前世の記憶?やだなぁそんな設定忘れましたよ☆」ってぐらい、何も思いつかない。
 おかしいなぁ。一応二度目の中学二年生なんだけどなぁ。私が一回死んで今生きてる意味ってなんだろうね。本当に何なんだろうね。
 ちょっと待って。これ、ほんと待って。
 ヤバいですよね?これ、ヤバいですよね?
 下手したら、シナリオ全部崩壊するぐらい、ヤバい事態ですよね?
 だって、メテオくんが本気出したら、こんな妖精すぐに人質に取って、調理室を吹き飛ばして、サイヤクダーに襲わせれば片付くわけだし?
 いくら葛藤しているって言ったって、滅ぼしちゃえばそんなもん全部チャラに出来るし?
 そもそもこの学校に来てから日が浅いし?
 そこまで思い出も積み上がってないわけだし?
 マジカル・ポラリス、殴らない代わりに抱き着いてきてばっかで気持ち悪いだろうし?
 やろうと思えば、出来ちゃうわけじゃないですか?
 ちょっと待って。これ、メテオくん、ほんとどう出る――?

「ふっ」

 口から空気の抜けた音がした。

「ほんと、なんなんだ、こいつ」

 その、聞こえるか聞こえないかぐらいの呟きは、とても優しくて。

「まるで、誰かさんと一緒だな」

 硬かった表情を柔らかくして。
 頬を緩ませて、迂闊で無邪気な妖精を、温かい目で見詰めていた。

「へ……?」

 想像とは全く違う展開に、頭がついて行かない。
 えっ、なにこれ。

「ほら、おいで」
「レグゥ!」

 メテオくんが差し伸べた手のひらに、妖精が喜んでとてとて歩いて上がっていく。
 ポラルンに話しかけられてもびっくりして逃げてしまったような子が。
 窓にボールが当たった音でもびっくりして逃げてしまったような子が。
 メテオくんの手に上がって、手のひらにスリスリして、甘えたような声を出している、だと……?!

「そこ代われ」
「どうしたの?」

 不思議そうな目を聖母……、もとい、メテオくんから向けられて、我に返る。
 ダメだ。思わず本音が出てしまった。
 もちろん、メテオくんに向かって言ったのではない。
 そこの赤い妖精に言ったのだ。
 ちくしょう、いいな。
 メテオくんの手のひら、いいな。
 私もスリスリしたい。あわよくば、手のひらでコロコロ転がされたい。
 羨ましい。くそぅ。この、新参者の、あざとい星から来た、あざと妖精が。
 メテオくんの手のひらの上で、そんな幸せそうな顔すんじゃないよ。前世からメテオくん拗らせているヲタクがヨダレ垂らしながら泣いちゃうぞ。いいのか。仮に不幸そうな顔をされてもはっ倒すけど。
 って、あああああいつ撫でられているんですけど?撫でられているんですけど?あの妖精、今朝生まれたばかりですよね?今朝生まれたばかりですよね?そんな祝福受けていいと思ってんのか。私もメテオくんになでなでされてぇわ。羨ましいぜコンチクショー。
 なんで私は妖精が推しに撫でられているのを黙って見ていなきゃいけないんだ。しかも、あくまでドライな同級生のフリをするという最悪の条件付きで。これがせめてポラリスに変身してたら、泣いて喚いて叫んでいたのに。
 今この瞬間と来たら、私は表情筋を出来るだけ抑制して、指をくわえることも出来ずにただただ見ているしかないんだよ。地獄か。地獄なのか。私が何をしたって言うんだ。少なくとも手が後ろに回るようなことは、前世でも今世でもしてないぞ。ちくしょう。

「……、ふふっ」

 メテオくんが、私を見て意地悪く微笑む。
 なんだこれは。ご褒美か?地獄から天国?メテオくんがいるならそこが天国だけど。

「この子は、星見台さんの子なのかな?」

 メテオくん、「天手オリト」のキャラを崩さず、首を傾げる。
 恐る恐る頷くと、他の皆に気付かれないように、妖精を手で隠しながら、さりげなく渡してくれた。
 ついでに、その動作で、メテオくんの顔が私の顔の近くまでやって来る。
 耳の横に、メテオくんの体温が近付くのを、感じる。
 メテオくんの吐息を、感じる。

「ダメだよ。ペットはきちんとしつけておかないと」

 ――、心臓が、止まるかと思った。
 耳元で囁き声……、ものすごい威力だ。
 甘くて掠れてて、この、ちょっと悪そうな、ドSキャラみたいな、セクシーな感じの。
 「天手オリト」の皮を被っているからこそ出来る、普段の王子様なキャラとのギャップよ。
 とてもいい。ものすごくいい。今すぐ死んでも構わない。
 あ、でもダメだ。今私が死んだら、メテオくんは消えちゃうかもしれないから。
 生きる。めっちゃ生きる。全力で生きる。死ぬ気で生きる。

「ありがとう。いなくなっちゃって困ってたんだ。すぐに手懐けちゃうなんて、天手くんは本当にすごいね」

 私の表情筋よ。出番だ。
 さっき我慢した分、存分に緩むがいい。

「…………、あ、うん」

 は、反応が、薄い!
 メテオくん、こちらから逃げるように視線を逸らす。
 さっきの、この赤い妖精に対する態度とは全然違う。
 やっぱり、ただの敵で、普段は隣の席なだけのクラスメイトにお礼なんて言われても、どうしたらいいかわからないか。そうか。
 ヲタクはなんだか悲しいぞ!

「えっと、じゃあ、ちょっとお手洗いに行ってくるね!」

 この子は、ポラルン達に預けて来ないと。
 まだ「天手オリト」であるメテオくんと話していたかったけれど、しかたない。
 もう二度と逃げるなよ、赤いの。

「レグ……」

 ちょっと寂しそうにしたってダメだから!
 寂しいのは私だよ!コンチクショー!


――――

「よかったポラ~!一時はどうなることかと思ったポラ~!」

 人気のないところで呼び寄せると、ポラルン達は半泣きで駆け寄ってきた。

「調理室へ入って行っちゃった時は肝が冷えたベガ……」
「あの天手くんって奴、良い奴だったなワフ!メテオリトに見つからないうちに捕まえられて、運が良かったワフ!」

 ベガルンはすっかり脱力してへたばっていて、私の肩にへなへなと着陸する。
 そして、シリルン。安心しているところ申し訳ないが、あれはメテオくんだぞ。「メテオリト:せんにゅうのすがた」だぞ……。
 あそこで妖精を人質に取る事も出来たのに、素直に引き渡してくれたからよかったものの……。
 ……、それにしても、どうしてだろう。
 どうして、メテオくんは、あそこで引き渡してくれたんだろう。

「待っている間に、星空と交信して調べてみたポラ。
 この子は、獅子型妖精のレグルンポラ。しし座の星の、レグルスから生まれたみたいポラ」
「レグ!」

 赤い獅子型妖精――、レグルンが鳴く。
 確か、レグルスは、「小さな王」とか「王の星」とか、そんな意味じゃなかったっけ。

「星の妖精なんてそうそう生まれるものじゃないワフ。このタイミングでこの子が生まれるのは、奇跡みたいなものワフ」
「これは、この世界からの有り余る愛の力を、レグルスが感知した結果ベガ!愛が起こした奇跡ベガ!」
「あ……、愛?」

 星の妖精の生まれ方って、そんなホワホワとしたものだったの?
 確かに、『マジカル☆ステラ』では、そういうことは一切語られていなかったけれど……。

「ステラの戦士達が愛で強くなるように、ポラルン達は星に届いた愛の力で生まれるポラ。特に、ステラの戦士の愛は、他の人より強いポラ」
「そ、それって……」

 ポラルンの滔々とした解説に、心当たりがあり過ぎる。
 例えば、必殺技の改ざん。
 例えば、ドーナツの貢ぎ物。

「そうポラ!あかりのメテオリトへの愛が、レグルスに届いて、レグルンを生み出したポラ!すごいポラ!あかりの愛は本物ポラ!」
「まじですか……!」

 ヲタクの愛、すげぇ……!
 ポラルンは意気揚々と私の手を掴んで上下に振るし、ベガルンは夢見心地にふわふわ飛ぶし、シリルンはちょっと悔しそうな顔をして漂っている。
 レグルンはというと、話の内容がよくわかっていないのか、ぽかんとしていた。
 なるほどな……。あの、メテオくんにめっちゃ撫でられて幸せそうな顔をしていたあいつが、私の愛から生まれた妖精か……。
 うん。なんというか、納得過ぎる。知らない人に声を掛けられて逃げたのも、大きな音で逃げたのも、メテオくんにクソ懐いていたのも、全部陰キャヲタクである私の性格をばっちり受け継いでいるからだ。
 こいつは、私の分身のようなものなのか。
 ……、となると、もしかして、メテオくんが、「マジカル・ステラ」の追加戦士になったりしないか?
 私の愛はメテオくんへの愛だし。
 メテオくんも、ちょうど「王子様」だし。
 『マジカル☆ステラ』は女児向けアニメだけど、最近は男の子の戦士だってちょくちょく出てきてはいるわけだし。
 これだけ要因が揃っているなら、メテオくんが「マジカル・レグルス」として覚醒するかもしれない。
 そしたら、お互いに戦わなくて済むんじゃないだろうか。

「『マジカル・レグルス』、誰がなってくれるのか、楽しみポラね!」

 無邪気に期待しているポラルンに、私は力強く頷いた。
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