自分の胸に聞いてみました

七地潮

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胸の内、曝け出させていただきます

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「ルーナリア・リコット、君との婚約を破棄させてもらおう」


卒業式後の記念パーティーで、ランバルト第一王子は、婚約者の侯爵令嬢と対峙していた。

「………理由をお伺いしても?」

ルーナリアは扇で口元を隠し、冷静な声を出す。

「わざわざ言わなくともわかるだろう。
自分の胸に聞いてみる事だな」


パーティー中に起こった騒ぎに、卒業生だけではなく、その保護者も集まってくる。

「……胸の内に聞く…ですか」

「そうだ、お前の私に対する態度がどう言ったものだったか、自分でよくわかっているだろう」


王子の発言に、集まった者たちは、侯爵令嬢が王子に対して不敬な事をしでかしたのかと、少しざわめいた。


「殿下に対する態度…ですか………それは……………

五年前に王命で婚約者になったにもかかわらず、最低限のパーティーでエスコートしかして下らず、会いにくることもなく、こちらからお伺いしてもいつも『忙しい』とお会いもできず、手紙の一つもないうえに、贈り物も一度もいただいた事もありませんよね。

にもかかわらず、私へのプレゼントを購入すると予算を引き出し、周りにいらっしゃる女性へ渡しているのに、財務省の方々に『婚約者の物欲が激しくて困る』などおっしゃっているそうですね。

王子妃教育の一環だと、殿下の公務も私へと回している、あまつさえ学園の課題やレポートまでも押し付けて来た、そんな殿下を『王太子不適格』や『私は貧乏くじをひいたものね』とか『いっそ廃嫡へとなれば良いのに』などと思っている事ですか?」


彼女の言葉に周りのざわめきは大きくなる。


『五年間もプライベートでの関わりもないなんて、私なら文句を言ってるわ』

『一度もプレゼントが無いなんて信じられない』

『それより、婚約者に渡すプレゼント代を他に回すって、横領にならないのか?』

『公務って他の人に任せて良いものなの?』

『殿下のレポートって、いつも《優》判定を貰ってたよな?
あれって令嬢が作成した物だったのか?』


ざわめきながら、敢えて口に出さないが、皆心の中で同じ事を思っていた。


ーーだからと言って言い過ぎなのでは?


「!!!だから!お前のそう言ったシラけた態度が嫌なんだよ!
無表情でも嫌嫌だってのが透けて見えるし!」

「殿下…言葉遣いが乱れていますわよ」

「ちょっと頭が良いからってレポート任せたら、教師陣は俺の出したレポートよりベタ褒めだし」

「手を抜けば良かったのですか?」

「それにプライベートで合わなかったって、お前俺より背が高かったから一緒に居たくなかったんだよ!
今だってそんなに背が変わらないからダンスも踊りにくいし」

「背が高いのは血筋です」

「プレゼントだって、お前花もケーキも好きじゃ無いし、宝石も興味がないとか言ってたじゃないか」

「確かに甘い物は好みませんし、アクセサリーは似合わないものを頂いても、他の方のように売る事などはしたくありませんから、興味がないと言いました」

「……売る?…………」


彼女の言葉に王子が周りに集まっている幾人もの令嬢に視線を巡らせるのだが、皆一様に視線を逸らした。


「殿下、この際ですから言わせていただきます。
アクセサリーとは、派手だから良いという物では無いのです。
大きければ良いという物でも無いのです。
身につける物なのですから、重ければ重いほど良いなど、どのようなタチの悪い商人に騙されたのですか?」


視線を逸らせたまま大きく頷く女性たちは、全て子爵家や男爵家の下位貴族、大きくて派手なアクセサリーを貰っても、合わせるドレスもなければ、着けて行くところもない。

受け取る時は喜んで見せても、あとは箪笥の肥やしになるか、バラしてリメイクするか、リメイクするにもタダではないのだから、売り払うのが一番手っ取り早い。

王子にしても、喜んで誉めやかしてくるのが嬉しいだけなので、誰に何を贈ったかは覚えていない。

なので皆さん多いに臨時収入を喜んで、王子を褒め称える。
それに気をよくして、更に身につけようもないアクセサリーをあちらこちらにばら撒く。

一番喜んでるのは、デッドストックであるケバ……品の無………派手なアクセサリーを売り捌けた宝石商だ。



「……もうその辺りで勘弁してやってくれないか」

大きくは無いがよく通る声が、会場に響いた。

公務で遅れていた国王陛下の声だ。


「騒がせてしまい申し訳ございませんでした、陛下。
このような場所で婚約破棄を言い渡されて、少々頭に血がのぼってしまったようです。
殿下も…胸の内に聞けと言われ、ついつい正直に口にし過ぎてしまい申し訳ありません」

「…………………」


ルーナリアが頭を下げるも、王子は茫然としている。


「まあ、背が低く頭も悪くセンスも無いと言われたのだから仕方ないだろう」


ーー王様、言い方!

皆の心が一致する。


「不敬罪の処罰は謹んでお受けします」

「いやいや、其方のはっきりした物言いは嫌いでは無い。

それに第一子だからと周りが甘やかした結果、自分に甘く、甘言に乗りやすく育ってしまったからな。
私としては普段は心の中に納めて、ここぞという時にきちんと口に出せる相手にこれの手綱を任せたいと思うのだが。

これは継承権を剥奪し、公爵へと降格するがこのまま婚約を続け、ゆくゆくは王太子となる第二王子を、これと支えてもらえぬか」


突然の継承権剥奪にざわめく周りより、大きな声が王子から発せられる。

「、な!
父上!私が第一王子なのに、なぜ弟が王太子なのですか!?」

「それこそ『自分の胸に聞く』事だな」

そんな…と崩れ落ちる王子から逸らせた視線を向けられたルーナリアは、優雅にカーテシーをする。


「王命賜りました」

「こんな情けない息子でも良いか?」

「しつ……教育は任せてください」

ーー躾けと言った?!

「うむ、では詳しくはまた。
皆の者も騒がせた。本日はこれで解散とする。
パーティーは後日王宮で開催しよう。
詳細は追って知らせる」

王の宣言に皆は頭を下げ、順に会場を後にするのであった。









ルーナリアは思う。

王子の事は好きでは無いが嫌いでも無い。

自分に甘く甘言に乗りやすいが、言い換えると素直な性格だ。
やり方次第では良い為政者となる……かも知れない。

今回のことで、ズバズバと言っても多少の事では罰せられない様なので、これからもどんどん言わせてもらおう。
王子が良くなるのも悪くなるのも、自分の手綱捌きによるだろう。

ついでに自分好みの男になる様に仕向けるのも楽しいのでは?

今は恋も愛も無いけれど、この先良い伴侶になりゆるのではないかと、心の中でひっそりと微笑むのであった。



ただ…センスの悪さが治るのかは不安だが……。









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