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第三章 異世界の馬車窓から

初代様の記録〜其の肆〜

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「王、この者共好き勝手が過ぎませんか?
こんな異世界の者を信じると言うのですか?」
肥えた男は我の考えに反対らしい。

「いや、私は祝福を与えてくれている妖精の啓示に従う。
この方々に戦いの事は全てお任せしようと思う」
「しかしこの者共に任せると卑怯な戦い方をするのでは無いですか?
後々我等が後ろ指を刺される事になりますぞ」

この肥えた男は煩いのう。
我のやり方に不満があるのなら、自分らだけで何とかすれば良いと申しておる。
国が滅びるもそれはそれで一つの道であろう。
我の国で無し、勝手にするが良い。

「大臣よ、我等が後に何と言われようと、それはそれだ。
我等のすべき事は例え後に後ろ指刺されようと、笑われようと、先ず優先すべきは国民の命なのでは無いのか?」
「平民が死のうと関係無いではないか!
我等の誇りこそが尊き我等の一番大切なの事ではないか!」

……何を言っておる此奴は。
腐った奴は世界が変わろうと居るものなんだな。

「…………お前は間違っておる。
国民有っての私達だ。
国の民一人一人に私達は生かされているのだぞ」
「何綺麗事を言っているのですか、民など搾取される者共でしょう」
「ルゼ殿、口が過ぎますぞ」

初老の男が肥えた男に言うが、肥えた男は止まらぬ。

「だいたい魔物と話し合いなんて馬鹿げた事だ!
魔物なぞ全て滅ぼしてしまえば良いではないか。
魔物は忌むべき者だと神殿の教えにも有るだろう、王は神殿の教えに逆らうと言うのか?
こんな馬鹿な事になど付き合っておれぬ!
私は国を出させて貰いますよ。
王には付き合っておれませんからね」

椅子を蹴倒す様な勢いで立ち上がった男は、荒々しい足音をたて、部屋を出て行く。
「ルゼ大臣、お待ちください!」
初老の男が後を追おうとするが、王がそれを止める。

「私の考えについてこれないと言うのだから、止める事は出来ないだろう。
長らく大臣を務めた家系の者に見捨てられるとは、私は情けない王なのだな」
力なく笑っておるが、その瞳に後悔の色は無い。

「確かに其方の考えは甘い所はあるかも知れぬが、民草への考えは間違ってはおらぬ。
王だ殿だと言っても、足元がしっかりしておらぬと倒れるだけだからな。
国とは一人で成り立つものではない、その事がわかっておる其方は上に立つ者として立派だと思うぞ」

「私もそう思いますね。
彼の方は身分は高いのかも知れませんが、その心は高貴だとは思えませんね。
国内では高い身分かも知れませんが、それが他でも通じるわけではないと言うこともわかっていない様ですし。
考え方が甘いのは彼方さんだと思いますよ。
国を出ると言うのなら好きにさせれば良いのでは?
膿は体外に出さないと、そこから健康が害されますからね。
早期治療は健全なる生活のためですよ」

それまで黙って成り行きを見ていた医師の男が口を出す。
この男も物の道理をわかっておる頭の回転の速い男だな。
兵士の男といい、頭の回転の速い奴は重宝するぞ。

「あんな豚の話はもう良い、それより戦さを早く終わらせる為にも話を元に戻すとしようではないか」
「豚……」
我が言うと、他の奴らは様々な反応を示すが、皆一様に笑っておる。

「そうですね…。
それでは戦いの事はそちらに一任させていただきます。
勿論何かあった時の責任はこちらが全て負います。
何よりも国の為、民の為ですから、何と言われようと構いません。
少しでも早くこの戦いを終わらせて、皆が安心して暮らせる様に力を貸していただけませんか?」
お願いしますと頭を下げる王。

確かに色々甘い所はある様だが、此奴の考えは好ましい。
我に此奴の為に力を貸してやる事に依存は無く、他の者も同じ考えの様だ。

我等が是と頷くと、男は安心した様に顔に微笑みを浮かべた。




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