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第三章 異世界の馬車窓から

オダ家の書は……

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昨日はスイもニトも付いて来なかったけど、今日は一緒だ。

トモ家だと畳の部屋だったけど、今日はヤクさんが気を利かせて、洋室を準備してくれたとのこと。
良かったねスイ。

ネイに案内された室内では、モトさんとヤクさんが先に座っていた。
二人の前のテーブルの上に書物は無く、30センチ四方の木箱が一つあるだけだ。

「本当に私達もご一緒してよろしいのですか?」

テーブルに着いたニトが言う。
おお、ちゃんと仕事モードだ。
スイは今までずっと一緒だったから、僕が書を読む時一緒に見てたけど、ニトは他家の書を見るのは初めてのようだ。

昨日のトモ家の書はスイも見てないけどね。

「構いませんよ。
元々後世の方に見せる為の物ですからね。
この国の方なら誰でもご覧になって構わない物ですよ」

うん、確かに【書】って人に見せる為に残す物なんだから、当たり前の答えなんだろうけど、多分ニトとしては、他所の家の内部事情を覗き見してしまうって感覚なのではないのかな?
僕が始めはそう感じたように。

そんなこんなを考えているうちに、モトさんがヤクさんに目配せし、立ち上がったヤクさんが木箱を開け、中の物を取り出す。
中から出て来たのは、片手に乗るくらいの大きさの、卵型の石だ。

赤味がかったその石は、遊色効果と言うんだっけ?オパールの様に、光の加減で色んな色が浮かんで見える。

「これは……【記録の石】…?」

隣に座るスイが、驚いた様に小さく呟く。

「え?あの城に有る【王家の石】と同じなのか?」
スイの呟きに反応するニト。
二人ともこの石が何なのか知ってる様だ。

と言うか、【記録の石】って言うくらいだから、名前から何なのかわかるけど。
「でもアレって青味がかった透明じゃなかったか?」
「ええ、それに大きさも小さいですけど、あのいくつもの色が浮かぶ見た目はそうとしか思えませんが…」
どうやら見たらわかる物らしい。

「お前知らなかったのか?」
「ええ、聞いていませんね。
そもそも王家以外に存在するとは思いませんでした」
何だか二人がテンパってる。

スイの取り乱しようは、ニトの言葉遣いにツッコミを入れ忘れるほどだから、よっぽど意外な物なんだ、この【記録の石】って。

「お二人は【王家の石】をご覧になった事があるのですか?」
モトさんがスイ達に尋ねる。
「…ええ……。
記録は見た事ございませんが、遠目に拝見した事はございます」
「俺もチラッと見た事があるくらいだけど……」
ニトは完全に素だね。

それに【王家の石】って牧さんの大学ノートで見たよな。
「こちらは【王家の石】をご覧になった初代様が、これは面白いと仰り、祝福を下さっている以外の妖精に力を借りて作ったそうです」
「バカな、祝福を与える以外の妖精が力を貸すなど聞いた事ない」
ニトさーん、後でスイに怒られるよー。

正直二人がここまで驚く事なのか、ちっともわからないんですけど。
でも、繋がっていない妖精の妖術が使えるのかってのは、後でニヤ達に聞いてみよう。
って言うか、ニヤ達当事者じゃん、詳しく聞いてスイ達に教えてあげよう。

二人の反応に出遅れ感のある僕、何も知らないから「へー、この世界にはこんな物があるんだ」としか思えない。
乗り遅れてしまってる。

「これって名前を聞く限り、初代様の記録が見れるという物なんですよね?」
「そうですよ、初代様の記憶を記録した物です」
記憶の記録か、映画みたいな物だったり?

「どうやって見るのですか?」
「この石に触れると見る事が出来ますよ」
ほお、映写機みたいに映し出すんじゃ無くて、触るのか。

「触っても?」
僕が聞くと、「はいどうぞ」と目の前に石を置いてくれる。

「スイ達は見ないの?」
まだ呆けている二人に声をかけると、はっと正気に戻った。

「これは直に触れても良いものなんですか?」
いつもの調子に戻ったスイが尋ねる。

「ええ、直接触らないと見る事は出来ませんよ」
「一人ずつですか?それとも複数人同時に見るとこが出来るのですか?」
「一度に何人でも。
指先だけでも手の平でも、直接触れさえすれば、どなたでも見る事は出来ます」
へー、そんなもんなんだ。


モトさんが改めて「どうぞ」と言うので、僕達は視線を交わし、三人でその石に触れてみた。





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