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第三章 異世界の馬車窓から

キシ家は怪しい?

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いつものように馬車に乗り、スイと共にキシ家へ。
外務大臣のルツさんは、昼間は仕事なので、迎えてくれたのはルツさんの父親だ。

「ようこそキシ家へ。
ルツの父のキシ・カズ・ソウです」
ルツさんの息子さんで、キシ家の跡取りは出かけていて、夜には戻って来るそうだ。

「明日には父も家に着くそうなので、今日はゆっくりと過ごして下さい」

部屋に通されての荷物整理、と言っても五軒目だと慣れたもんだ。
スイにお茶を淹れてもらって寛ぐ。

「夜までまだ時間あるし、屋敷の中とか案内してもらえないかな」
僕が言うと、硬い表情でスイが答える。

「…無理かと思われます」
「え?なんで?」
「実はルツ大臣より、来訪時間は執務の終わる時間にして欲しい、もしくは明日以降にしてくれと要望がありました。
しかし此方にも都合が有りますし、遅い時間に他家を訪れるのは問題外だと断りました」
「明日以降って何かあるのかなぁ?」
明日なら昼でも良いって事なんだよね?

「多分なのですけど、明日だとキシ家の初代が戻って来るからかと思われます。
本来なら先週戻って来る予定だったので、訪れる順番を決めたのですが、帰宅予定が遅れた様ですので、此方の来訪を変更してくれと。
しかしこちらのスケジュールも有りますし、当初の予定を変更させたのはキシ家ですので断りました」
「何かあるのかなぁ」
「そう思われても仕方がありませんよね」

でもこのままここで閉じこもっているのって、何だかモヤモヤするし…
「この近辺の町をウロつくならOK貰えると思う?」
「外なら大丈夫なのではないでしょうか。
聞いて参ります」

スイがソウさんに直に聞いて来てくれて、了承を貰ったので外出する事となった。


*****


「何か隠してるのかな~」
屋台で買ってもらった串焼きを、熊澤さんにあげながら食べる。

「そう思われても仕方ないですよね」
「でもニトが言うには真面目な人って事だったけど」
「真面目だからと言って、隠し事が無いと言うわけではありませんからね」

そうだよなー、案外真面目な人程…って事もあるもんな。

「気を揉んでも仕方ありません、町の散策を楽しんでください」
「それもそうだね」
あれこれ想像してても仕方ないので、切り替えよう。

お店や屋台を冷やかしながら、時間を潰して、陽が傾く頃キシ家へ戻った。


*****


「改めまして、キシ・ソウ・ルツです。
遅くなってすみませんでした」
「初めまして、キシ・ルツ・ネジです」
仕事から戻ったルツさんと、外出から戻った息子さんと、顔合わせをしたのは夕食の席だ。

「こんばんは、ジウ・ルツ・エミよ、宜しくね」
そして近所に嫁いだと言う娘さんも同席だ。

息子さんのネジさんも、ルツさん同様、真面目そうで影が薄い。
エミさんは対照的に陽気だ。
ネジさんは見た目スイより一回りくらい上かな。
エミさんはその少し下くらいに見える。

「折角いらしたのに、父も兄も不在で失礼しました。
しかも祖父が放置してたって聞いてらビックリして飛んで来たの。
もう本当、うちの男性陣ときたら……」
「いえ、放置と言いますか、のんびりしてくれと言われただけですよ」
フォローを入れておく。

「お優しいですね。
でも始めて訪れた家で、案内も付けずにのんびりしてとは、放置と同じですよ。
後で厳しく叱っておきますね」

握り拳を作ってニッコリ笑うエミさんに対し、男性陣は黙々と食事を進めるだけだ。

ルツさんの奥さんは亡くなったと聞いていたけど、ネジさんは独身なのかな。
たった一人の女性のエミさんが居なければ、この場はお通夜の様に静まり返って居たかもしれない。
そう思う程、ソウさんもルツさんもネジさんも静かだ。

その後もエミさんのお陰で、気詰まり無く食事は進んだ。





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