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第三章 異世界の馬車窓から
熊澤さんとブージェ
しおりを挟む「いや~、待ってたよ!」
僕はヤギ家の居間で寝転がって居たところを取り囲まれて、飛び起きた。
「ホントホント、家に来るって聞いて、今か今かと待ってたんだよ!」
どうやら熱烈大歓迎を受けている。
「本当によく来て下さった。
ずーっとここに居てくれて良いからね」
そう、思いもよらぬ大歓迎だ……
「ささ、こちらへ来て下さい」
「クマザワサン!」
熊澤さんが、ね………。
*****
農家にとって、厄介な害獣が居る。
小さくて素早しっこく、頑丈な歯で木箱も土壁も穴を開け、収穫した作物だけではなく、刈り入れ間近な野菜や、下手すると果実の実った樹木さえ倒してしまう、ブージェと言う小動物の事だ。
めっちゃアゴの強いネズミみたいなものか?
勿論辺り一面のブージェを退治してからここを農地に切り拓いたのだけど、最近何処からかやって来て、畑を荒らすそうだ。
「ブージェは一匹居たら30匹居るって言われてるからな」
ゴキブリかよ。
「頭が良いから罠にも掛からないし、毒入りの餌を撒いても食わないし」
「他の動物けしかけても返り討ちになるだけだし」
「そこでこのタタンジュ様よ!」
ずずずいっとヤギ家の人達が詰め寄って来る。
「素早くて小回りが利き、本体スリムだから狭い隙間も大丈夫!」
掃除機の宣伝か何かですか?
「ささ、パパっと追いかけて、その鋭い爪でバシッとやって、カプッとやって毒でコロリと。
その後は俺らがチャチャっと回収しますから」
擬音だらけだな。
「さぁさぁ、タタンジュ様、宜しく頼みますよ」
目をギラギラ……キラキラさせた、鼻息の荒いおじさん達がさらに距離を詰める。
怯えた熊澤さんが身をすくめる……首に巻きついて居るから、必然的に首が締まるんどけど……。
苦しいよ熊澤さん。
首から取り外して抱っこする。
あー、凄い期待されてるけど、言わなきゃダメだよね……言いづらいなぁ………。
「なーに無茶な事言ってんだ、そりゃあタタンジュはブージェの天敵だけとな」
へー、そうなんだ。
「タタンジュの即効性の神経毒が有れば、ブージェ被害を防げるじゃないか」
「だがクマザワサンはウチ様のペットだぞ、貸してもらえる訳無いだろ」
ベエさんが家族の人達に諦めるよう説得してくれてるけど、
「あのー、そのブージェってタタンジュの毒が有効なんですか?」
ハイって右手を小さく挙げて聞く。
「ああそうさ。
タタンジュの毒は効きが早いからな」
あー、やっぱりハッキリ言わないといけないよな。
「すみません、熊澤さん毒抜きしているので、毒を期待してるなら無理だと思います」
僕の言葉におじさん達の目から、キラキラが消えたけど、僕悪く無いよね?
*****
熊澤さんは無理だけど、困っているのは放っておけない。
僕はピアを読んで熊澤の通訳を頼んだ。
こちらの要求はブージェを退治して欲しい事。
それと人は襲わない事。
熊澤さんからは、人がタタンジュに危害を与えない事。
捕獲したブージェはタタンジュ達の食糧とする事。
ブージェが居なくなったら解放する事。
それが守れるなら同族に、ここでブージェ退治をする様に頼んでくれると。
ヤギ家はこの条件に更に、ブージェが獲れようと獲れまいと、毎日の食事、さらには退治終了後に報酬として肉を渡す事を上乗せした。
本当に困って居たようだ。
これに了承した熊澤さんから頼まれて、音の子にタタンジュの生息地へ飛んでもらい、熊澤さんが間に入る事によって、交渉は成立した。
良かった良かった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
あけましておめでとうございます。
元旦早々読んでいただきありがとうございます。
今年もよろしくお願いします。
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