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第三章 異世界の馬車窓から

八木 八兵衛物語

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ワシが生まれた家は豪農ってやつでな、広い田畑や山も持っていて、色んな作物を作っていたな。

うちは13人きょうだいで、ワシは名前の通り八男に生まれてな、上に男七人も居てはいくら広い土地が有っても継げる物も無く、嫁と一緒に嫁の地元へ行く事にしたんだ。

嫁は奉公に来てた娘で、地元の土地が痩せていて作付けが上手くいかず、村では農業を諦めていると聞く。
ワシはその土地を開墾しようと、痩せた土地でも育つ苗や種を貰って、嫁の地元へ旅に出たんだ。

その途中、山賊に襲われて、気づいた時はワシ一人がこの世界へ来てたんだ。

最初はまあビックリしたわな。
嫁と一緒に居たはずなのに、隣には珍妙な格好の男が横たわってるし、ワシも上から押さえつけられてる様に動けないし、周りにはキンキラキンの異人さんが居るし、ピカピカした光も見えるし、ここはきっとあの世だなと思ったよ。

そしたら、すーっと光が近づいて来たんだけど、暖かいし怖くも無いからじっと見てたら、身体に吸い込まれていってな。
そしたら言葉が分かるようになったのは皆一緒だな。

話を聞くと前の年には日照りで収穫が少なく、その年には今度は大雨で川が氾濫して、二年連続の天災に蓄えも底をつきかけていて、周りの国に助けを求めても、この国では魔物と仲良く暮らしてるからって敬遠されてて助けてもらえないと。

そこで違う世界から助っ人を呼んだと言うことだが、農作業をする人なんて山程居るのになぜワシなんだ?
そう思わなくもなかったが、協力する事にしたんだな。

一緒に喚ばれた男は畑の作業も出来ないし、作物の知識もない。
一体なぜここに居るのか分からなかったけど、ワシはワシの仕事をした。

見た事ある様なものは問題無かったんだけど、見た事も聞いた事も無いような物も多かったな。

だが不思議な事に、どうすればその作物がよく育つかは分かったし、異常なほど育つのも早い。
これが祝福の力なのだと教えて貰ったけど、分からないことは置いといて、自分のやれる事をやって過ごして来たんだ。

そして国が落ち着いた後は土地を貰って、この世界での妻を娶り、子や孫に囲まれてのんびりと暮らしているんだな。

昔一緒になった嫁とはもう会えないのは寂しいが、後添えの妻も、嫁に遜色劣らない出来た妻だ。

畑は子供が早々に継いてくれたから、老後はのんびり城の庭の世話をして過ごしている…………


*****


「とまあこんな感じかな。
畑や庭いじりをしているだけなのに、呼ばれて来たってだけで大臣なんて大仰な呼び方されてるけど、ワシは普通の爺さんだよ」

話終わった八兵衛さんは、スイが淹れてくれたお茶を口にする。
「で、お前さん所の爺さんは元気かい?」

八兵衛さんがスイに問いかけると、スイはちょっと嫌な顔をした。
「ええ、元気過ぎて全然戻って来ません。父もね」
スイのお爺さんと知り合いなのかな?と疑問に思った事が顔に出ていたのか、八兵衛さんが教えてくれる。
「ワシと一緒に喚ばれた男がこの子の曾祖父(ひいじい)さんなんだよ」
あー、さっきの畑仕事に役立たなかったって言う。

「まあ、あの爺さんが何をしたかは本人に聞くと良い」
「そうします」
ここは頷いておこう。

スイは空になったカップを受け取りながら、八兵衛さんに言う。
「曽祖父には連絡が付きましたので、一度戻って来るそうですが、父は相変わらずです」
「お前さんも大変だなあ」
八兵衛さんにしみじみ言われたスイは、力なく笑った。

なーんとなく微妙な空気になって来たな。

話を変えよう。

「八兵衛さんはいつまでお休みなんですか?
もしかして今回のお休みって、僕を案内する為とかなんですか?」
……ちょっと話の転換が急すぎたかな、キョトンとされてしまった…。

「いや今回の休みは元から申請してたんだよ。
曽孫が産まれてな、顔を見に行くんだよ」
「おお、おめでとうございます」

よし、馬車の中の空気が一気に明るくなった。

「何人居ても家族が増えるのは嬉しい事だねえ。
それはそうと、この世界では八兵衛って名前は笑われるからね、ワシの事は『ベエ』と呼んでくれ」
ああ、そうだった。
どうしても漢字変換された名前の方が自然に浮かぶけど、ここでは笑われるんだった。

「それではベエさんで。
改めましてベエさん、この度はおめでとうございます」
座ったままではあるけど、頭を下げると、ベエさんはとても素敵な笑顔を浮かべた。

僕もこんな風に歳をとりたいな。

……何千年先になるかは不明だけど。






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