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第一章 異世界だねぇ

長い朝食

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初めて着る燕尾服で正装させられての晩餐会は……思い出したくない……。

一言言うなら………


「俺は人形じゃなーい!!!」


おっといけない、社会人になって自分の事を俺と言わないようにしてたのに、ついつい出てしまった。

学生の頃は勿論俺って言ってたけど、社会に出て周りを見て、自分の事を俺呼ばわりしてるのはダメだと思い、一人称は僕に矯正したんだけど、ついね。

だって男性も女性も、何故か皆僕を抱っこするし……。
男に抱っこされるのも嫌だけど、妙齢の女性に抱っこされるのも微妙だよ。

女性の正装なのか、皆やたら襟が開いて肩が出るようなドレスを着てるから、抱っこの仕方によると白い谷間に……とか、ジャラジャラ付けたネックレスが頰にぐりぐり当たったり………。
痛いやら恥ずかしいやらでもう……。

沢山の人を紹介されたけど、全く頭に入らなかったのも仕方ないと思う。

晩餐会後も、ゲストルームに戻って来たら、待ち構えていたメイドさんに、また服を剥かれて部屋着に着替えさせられた。

あの……僕、今の見た目はこんなんだけど、34歳のいい年こいたおっさんなんです。
抱っこもだけど、パンツ一丁にひん剥くのやめて下さい…………。


*****


翌朝もひん剥かれるところから始まり、朝食のダイニングに抱っこして運ばれ、食事前にライフゲージゴリゴリと削られてしまった……。

朝食は王様の家族と一緒だった。

朝から立派なブレックファーストを頂き、食後の飲み物を飲みながら暫しの歓談。

因みに飲み物はコーヒーを所望したのに、出て来たのは王子達と同じミルクティー…。

「それでは改めて紹介しよう。
昨日も挨拶をした妻のルニだ」
「昨日はゆっくり話せませんでしたね。
タシ・ラス・ルニです。
この度は息子達が申し訳ありませんでした。
こちらでの生活は責任を持ちますので、何かあれば仰って下さい」

優雅に頭を下げる王妃様。
金髪でその頭には髪色に近い明るい茶色のミミ、先端が白いそのミミは尻尾も合わせてみると狐?

王族なのに、いくら召喚されたと言えど、幼児にまで頭を下げるとは。

王様は「お前達もきちんと挨拶しなさい」と、王子と妹姫に視線を向ける。

王子は見た目は普通、姫様は王妃様とお揃いのミミと尻尾だ。
二人を観察していると、僕の向かいに座っている王子が、こちらをまっすぐ見て話し出す。

「この度は私の召喚に応じてくれて、ありがとうございます。
つきましてはお願いしたい事がございます」
いきなりの王子の言葉に王様が口を挟む。

「これ、何を言っている。
お前達は好奇心で英雄召喚をしたのでは無いのか?」

流石にイタズラとか、悪ふざけとかは言葉が悪いのか、成る程好奇心と聞くとそんなに悪いイメージは無いな。

「父様、私はイタズラや好奇心で召喚したのでは有りません!
ちゃんと目的が有り、考えての行動です。
王子たるもの、軽はずみな行動は致しません」

おお、10歳くらいなのにしっかりしている、とまるで他人事のように聞いている。
僕の事なんだけどね、もう現実感が無くって麻痺しているみたいだね。

「それでは何故?」
「…………それは……」
言い淀む王子に助け船を出したのは王妃様だった。
「その話はまた後ほどになさって、まずは自己紹介なさい」

そうだね。
内輪揉めは家族でして下さい。
僕の事なんだけどね。

「失礼しました。
第一王子のタシ・ジン・カイです。
この度は失礼しました」
僕を召喚した事にか、言い合いをしそうになった事にかは分からないけど、王子は小さく頭を下げた。

「私はタシ・ジン・ルルです。
失礼しました」
姫様もぺこりと頭を下げる。

見た目だけだけど、自分達より年下相手に頭を下げられるのは、王妃様の躾かな。
王族と言えば、威張り散らしてるってイメージが有ったけど、丁寧な対応だ。

一応でも【英雄召喚で呼び出した相手】だからなのかな。
好感が持てるなと思いながら僕も自己紹介。

「こんにちは、東堂内柊一郎です。
こんな見た目になってしまいましたけど、34歳です」

名前を言ったところで王様以外の視線が集まる…なぜ?

そう言えば最初に名乗った時も笑われてなかったか?

「……あの…僕の名前、何かおかしいですか?」
との僕の質問に王様は
「いや、おかしいと言うか……其方の家名はどこまでなのか?」
家名?苗字って事だよな?

「東堂内ですが?」
「それでは親の名前は?」
「?…護(まもる)と幸(ゆき)ですが………?」
「……そうか………」

何だ?王様は考え込んでしまった。

「…………あの……?」
「いや、すまん。
そうだな、確かに親の名前の入っていない召喚者も複数居たな。
申し訳ない、この世界では家名、親の名、個人名で名付けるのが習わしとなっているのだ。
そしてその全てが二文字で、長いのは……」
そこまで言って言葉を濁す王様。

「長い名前は、愚鈍で恥ずかしいのです。
ね、父様」
言い淀んだ王様の言葉を、王子がズバッと切り込んだ……恥ずかしい?

「いや、世界が違えば常識も違う。
カイその言葉は失礼だぞ」

本当の事なのに…と小さくボヤキながらも、失礼しましたと頭を下げる王子。

成る程、こちらでは文字数の多い名前は、キラキラネームどころではない、ドン引き案件なのか。

「え?それってこれから名乗るたび、笑われたりするって事ですかね?」
「それは……何とも言えないな」
否定しないって事は笑われるのアリって事だよな?

毎回笑われたりコソコソ言われるのは勘弁して欲しい。
どうしようとぐるぐるしていると

「…家名だけ名乗るのはいかがでしょう。
家名だけ名乗れば偽名でも有りませんし、相手は普通に受け入れるのでは有りませんか?」
王妃様がアドバイスをしてくれる。

東堂内……成る程六文字だからトウ・ドウ・ウチとこちらの響きと同じになるのか。
下の名前だと七文字だけど、苗字ならピタリと収まりが良いな。

もしかして、妖精王達が言ってた『とうちゃん』って、【父ちゃん】じゃなく、【とうどううち】の【とう】だったのかな?

「その案有り難く使わせていただきます。
ありがとうございます」

王妃様に向かい頭を下げた上げると、何故かこちらに伸ばされていた手を下げる王妃様の姿が有った。

何事?

コホンと小さく咳払いした王妃様に、王様はやれやれと小さくため息をつく。

「それでこちらの生活に慣れるまで、しばらくの間専属の従者を付けよう」
入れ、と扉に向かって声を上げると二十歳そこそこの(いや、見た目で実年齢は分からないけど)黒髪の青年が入って来た。
昨日居なかったけど、英雄家系だね。

耳は普通だけど、耳の上に後ろに伸びた10センチ程の白い角が生えている。
んー、どこかで見た感じの角だなぁ……あ、ビールのラベルだ。

入って来た人を観察していると、青年は王様に頭を下げた後こちらを見て、一瞬目を見張りニッコリと笑った。
どこかで見た感じの顔だな。

「スイ、昨夜話した方だ。
トウ様こちらが貴方の従者となるトキ・ヤシ・スイです」
王様の紹介で、頭を下げる青年。

「初めまして、異世界からの訪問者様、トキ・サナ・ケチの孫のトキ・ヤシ・スイです。
どうぞ、スイとお呼び下さい。
これから貴方に仕えさせていただきますので、なんなりとお気軽にお申し付けください」

優雅に頭を下げるスイ。
確かケチって、昨日会った白髪混じりの黒髪の男性だよな。
財務大臣とか言う。
えー、財務大臣の孫が従者?そんなのアリなのか?

「初めまして東堂……トウ・ドウ・ウチです。
お世話になります」

こちらも頭を下げると、タイミングを見計らって王様が
「それではトウ様、スイが部屋に案内しますので、ゆっくりお寛ぎ下さい。
私は執務室に居りますので、何か問題が有りましたら直接にでもどうぞ」
と笑顔で言うけど、仕事中の王様の邪魔なんてできないでしょう。

それではこちらへ、とスイに案内されそうになるけどその前に、
「あの!」
と、席を立ちかけた四人に声をかける。

「あの、すみませんが呼び方変えていただけませんか?
ちょっとトウ様は……」
どうしても父様に聞こえる。
「そうですか……ならウチ様とお呼びいたしましょう」
うわっ、ビミョー……でも仕方ないので渋々わかりましたと頷く。


こうして長い朝食が終わった。

………朝ご飯でクタクタです、マジで。





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