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第一章 異世界だねぇ

英雄召喚について

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頭の中が大混乱だ。
どうしてこうなった?これからどうしろと?


頭を抱えていると説明をしていた男が王様に近づき何か伝えている。
王様はうむと頷き、まだざわついている室内に「静かに」と声を発した。

大きな声を出したわけでも無いのに、ざわつきはピタッと止まった。

「そちらの方も混乱しているだろう。
一度ゆっくりされると良い。
召喚について詳しく説明出来る者を付けよう。
これからの事などは、一旦落ち着いてから話し合うと言うことで良いか?」

声の響きかな、上に立つ者って感じの貫禄の有る、しかし意思の篭った声と話し方だ。

「そうして頂けると助かります。
正直もう何が何だか……」
そうであろうと頷き、一人の男に声を掛ける。
「マキ、頼めるか?」
呼ばれたのは、二十代半ばくらいの黒髪の青年だ。

「お任せ下さい」

ニッコリ微笑んでこちらを向く。
「行きましょうか」
言いながら、右手を差し出して来たけど…これって握手ではなく手を繋いで、だよな。

……ムリ。いくら子供の姿と言えど、男と手を繋いで歩くなんてムリ。
フルフル首を振ると残念そうに手を引っ込め歩き出した。

「そうだ、行かれる前に名前を教えて頂けるか」
王様に言われたけど、そう言えば名乗ってなかったね。

「私の名前は、東堂内柊一郎です」
名乗った途端、空気が凍りついた。

え?何だ?

キョロキョロしていると何処からか「ぷっ!」と吹き出す声がして、それを引き金にあちらこちらでクスクス笑いが沸き起こる。

一体何なんだよ、失礼だなぁ。

案内を引き受けた青年も笑いを堪えながら歩き出す。
僕は内心イラッとしながら、謁見の間を後にした。


*****


案内された部屋は、めちゃ豪華な部屋だった。
ボキャブラリー貧困だけど、それしか言いようが無い。

「どうぞおかけ下さい」
ソファーを勧められたけど……よじ登らなければ届かないよな、これ。

身体全体使ってよじよじと登って居たら、真後ろに立った青年が
「だ……抱っこしようか?」
とか言ってくるからブンブンと頭を振った。

何なんだよさっきから嫌過ぎる。

ソファーに座ると……座ると言うか身体が沈む。
テーブルを挟んだソファーに、青年は腰掛けた。

「まずはこちらの世界へようこそ。
俺はマキ・ミル・ニト、城で司書をしている。
君はどの時代から来たの?」

……何を聞かれているかも分からない。

「この世界は何故か日本とゲートが繋がっているようで、以前から、国に問題が有る時に英雄を召喚しています。
英雄……まあぶっちゃけ日本人なんだけどね。

こちらで召喚を発動した時、条件に合った人物が、複数名召喚されると言われてます。

条件で分かっている事は、こちらが必要とする能力を持っている、死に掛けた男性と言われています。

てかそううちの先祖が、そう書き残してるっつー感じ?」

何だ?言葉がちょっとだけ乱れてないか?

「……言葉の使い方合っていますかね?
これ21世紀って時代の言葉らしいんだけど、通じます?」
「21世紀?自分も21世紀から来たんだけど」
「おお、うちの先祖の同世代!
その辺の話聞きたいけど、今それをする時間は無いか…」

マキと言う青年はちょっと肩を落とし、話を続ける。

「詳細は追い追いとして、その英雄召喚が行われたのは過去三回。

一番初めは五百年程前魔物の国との間に起こった戦争の時で、その時戦国と言う時代から二人、昭和と言う時代から一人、大正と言う時代から一人の四人がこの世界に来ました」

時代がバラバラなんだ。

「そして二百年程前には天災で作物が枯れ果て、飢饉が起こった時に22世紀からと20世紀から一人ずつ。

その十年後に周辺諸国からの侵略を阻止する為20世紀からと21世紀から召喚されました。
その時の一人がうちの先祖で、三回の召喚で、合計八名の日本人がこちらの世界にやって来たのです」

やって来たのですと言われても、それが多いのか少ないのかも分からん。

「そして召喚なのですが、元の世界からこちらに来る時に身体が再構築されるのではと、考えられています。
そしてその再構築の時に、願った姿でこちらの世界に現れるのではと。

現にご年配の方は『若い頃は良かった』と思われながら臨終を迎えた方は若く、病気などで寿命を終えられた方は健康に、怪我などで損傷したものも、元どおりになったと記録が残っています」

……そう言えば子供の頃は良かった、とか考えていたか?

「なので貴方のその姿も貴方の望みの姿かと思われますが……」

「確かにそんな事考えてはいた。
死に掛けていたと言うのも、何となく理由は分かる」
チャンポンで無茶呑みしたから、急性アルコール中毒だろう。

「しかし悪戯だとしても、【僕が】この世界に招かれた理由が分からない」

「……それは王子達が願った事かと思われます。
その条件に合ったのが貴方だと。
その辺りは王子に伺って下さい」

何か込み入った理由が有るのだろうか、子供の悪戯に。

「英雄召喚については以上ですが、これからの事については、只今会議をしていると思いますので、後ほど王と話し合い、お決めになって下さい。
一度にあれもこれもだと混乱するでしょうから、もっと詳しい詳細も追い追いと。

貴方から聞きたい事はありますか?」

聞きたい事だらけだけど、何をどう聞いて良いのか分からない。

「元の世界には戻れないのか?」
一番大事なのはこれかな。

「そうですね…、妖精の祝福を受ける前なら可能性は有ったかも知れませんが、祝福を受けてしまったら体内の波動が変わるので、元の世界に受け入れられなくなると聞いています」

ああ、だから皆、言葉が分かるか聞いてきたのか。
言葉が分かる、イコール祝福を受けた、そうなったら戻れない、って事だから。

……やはり呪いなのではないのか?




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