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第二章 旅は道連れ

53 閑話 ジョニーくんの愛

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私は………俺は至って普通の家で育った。

畑をやっている祖父母、サラリーマンの父、家事と畑を手伝っている母、頭の良い兄と、家の手伝いをよくする姉の7人家族で育った。

その時代、地元ではありきたりの家庭環境。
末っ子で甘やかされた子供時代を過ごしていた俺は、兄が大学に入った頃から、
「お兄ちゃんはこんなに頭がいいのに、あんたはなんでバカなの?」
と比べられるようになった。

その時代は、大学は勉強が好きか、目標や目的がある奴が行くもの、そんな風潮だった(地方だからか?)。
中卒で働く奴もごまんと居た。
まだ【学歴社会】と言う言葉もない時代、近所でも『お兄ちゃんは大学に行くなんて、凄いね』と、悪気のない褒め言葉を聞かされ続けて……グレた。


暴走族全盛期、遠い都会ではホコ天やタケノコ族などの話も聞こえて来た時代。
15でチームに入り、16でソッコーバイクの免許を取り、センパイに中古のバイクを譲ってもらい(どこで手に入れたかは聞いてはならないと言われた)夜通し乗りまわした。

リーゼントでキメて、長ランにボンタン、赤いのがカッコいいとチェリーを吸って、酒を飲み、学校は居眠りの場。
夜になると特攻服で改造バイクに跨り、チームのメンバーと町へ繰り出し、目が合った奴と喧嘩をして………。
今とは違う、80年代のツッパリの生き様だったね。


ジジイにはよくぶん殴られてた。
父と兄は俺の事をシカトして、母が泣く家が鬱陶しくて、仲間の家を転々としていた17の頃、タバコを買いに行ったら、いつも居るババアが居なくて、小窓から顔を出したのは同じ年くらいの女の子だった。

一目惚れだったね。

真っ直ぐな黒い髪を後ろで一つに結んだ、化粧っ気の無い女の子。
くるくるパーマでドギツイメイクでロンタイ履いてるようなのしか、周りにいなかったから、久々に素朴な女の子を間近で見たなで余計になのかな。
爽やかな風が流れた気がしたんだ。

その子はたばこ屋のババアの孫で、両親は去年町にできた総合病院を経営していて、兄や姉も医師と薬剤師と言う、エリート一家(その頃そう言う家庭はこう呼ばれてた)の末っ子で、俺と同じく出来の良い上と比べられて、落ちこぼれのレッテルを貼られた子。

両親の見栄でお嬢様学校に入れられたけど、授業について行けず、成績が振るわないのを家で責められて、小さくなっているその子を見かねたババアが、たまに店番を頼むと言う口実で家族から離して息抜きをさせているらしい。

いや、本人から聞いたわけではないぞ、聞いて回って調べたんだ。
名前は 宮下 百合江、年は俺と同じ17歳。
どうやらそのタバコ屋には月に一、二度来るらしい。
初めて話しかけたのは3ヶ月後、それから2ヶ月後には交換日記を始めた。

今みたいに携帯があるわけでなし、家電をかけても取り次いでもらえない、手紙を出しても、親が中をチェックする。
なら残るのは交換日記だけだ。

「嫌なことや辛い事を書き出せよ、自分の中に溜めてると爆発しちゃうぜ。
アンタの愚痴は俺が読んで、全て受け止めてやるから。
そうすりゃあ少しは気が晴れるだろ?
その代わり俺の愚痴もちょっとは書くかもな」
ぶっきらぼうに渡したノートを彼女は受け取ってくれた。


交換日記はずっと続いた。
勿論愚痴だけじゃなく、お互いのことを教え合い、他の奴には恥ずかしくて言えない夢なんかも書き込んだりした。
夜中に書くと変なテンションで色々書いちゃうもんなんだよな。

そのうちお互いの気持ちは育っていったんだ。



高校3年の冬、百合江は大学受験に失敗した。
その事を彼女の家族は責め立てた。
医療関係の道に進めないなら、せめて家の役に立てと、外部から来ている優秀な外科医を引き込む為に、四十近いオッサンと結婚しろと言われたと彼女は泣いた。

それを聞いた俺は、ヘッドに相談してチームを抜け、バイクや手持ちのラジカセやら、売れる物は全部金に変えて現金を集めてた。
俺達を見守っていてくれたメンバー達からカンパも貰った。
どうすればいいか情報も色々教えてくれた。
自分でも下調べをして行き先を決め、彼女の卒業式の夜、2人で町を出た………。


パチンコ屋で住み込みで働きながら金を貯め、二十歳の頃に何とか輸入食品の会社に就職できた。
百合江もパートをしながら、二人で頑張って生活の基盤を作っていった。
23になった時、全ての事情を話している直属の上司が保証人になってくれて、俺達は籍を入れた。
バブルに浮かれている時代、籍も入れたし、収入も安定している、周りには親しく付き合う同僚やツレも増えた。
後は子供が二、三人欲しいね、なんて事を話しながら笑い合っていた。

しかし子供はできなかった。

不妊治療もした、人から聞いたいろんな噂も試した。
それでも子供を授かることはなかった。


「親を捨てたから、親になれないのかしら」
百合江がそうこぼしたこともあったけど、だからと言って親と交流を……とは二人とも思えなかった。
血の繋がった親子だからと言って、話し合えば全てが分かり合い、許しあい、理解できると言うわけではない。

世の中にはどうやっても相入れない親子だっているのだ。
何が、と言うわけではなくとも、お互い受け入れられない、分かり合えないと言う部分は出てくる。
親子だから尚更と言う場合もあるだろう。

「子供を思わない親なんていないよ」
なんてクソみたいな理想論を語る奴もいる。
んなワケあるか!
現に子殺しする親も虐待する親もいるじゃないか。

「子供は親の言うとおりにしてれば幸せになれるから」
「子供なんだから親の言うことを聞きなさい」
とかふざけたこと抜かす奴もいる。
子供は親の理想を叶える、親の思い通りになる下僕じゃねえ!
一人の人間として生きてんだ!
親の言うことを聞いて幸せになれる奴もいるだろうけど、無理な奴だっている。
全部が同じわけないだろ。

「嫌だ嫌だとワガママ言ってないで我慢しな」
我慢はしても限界ってモノもあるだろ?
我慢の限界なんて、一人一人違うんだから、超えた奴が色んな事件起こしてるし、きっと表に出てない事も多いだろ。

だから俺は逃げたんだ。
ちっちゃな頃から溜まった色んな事が爆発する前に。


それからも俺達は実家に連絡を入れることなかった。
他に誰もいない、これからも二人だけの家族だと言う事を受け入れた。
受け入れると心は楽になり、お互いが相手のことをもっと労わるようになった。
…つまり、ラブラブだ。
休みの日は二人で出かけ、年に一度は旅行へ行き、いつでもたくさん話をした。


四十を過ぎた頃、インコを飼い始めた。
インコは言葉を覚えて会話も出来るから、たくさん喋りかけて可愛がっていたけど、インコの寿命は短かった。
なので二匹目は長生きするオカメインコを飼い、大事に育てた。

お喋りだけでなく、歌も歌って賑やかだったチャックが亡くなり、妻も亡くなって一人になった俺は………私は、こうして第二の人生をいただきました。

妻を呼ぶ為にも、この世界がどんなところかを知り、住むに最適な場所を探して、以前にはできなかった家族を増やし、今度も妻と二人で幸せに………家族皆で幸せに生きていこうと思います。


さあ、次に行く場所はどんな所でしょう。






ーーーーー〈切り取り線〉ーーーーー


古き良き昭和のツッパリコゾーの過去話。

二人で秘密の交換日記、公衆電話に10円玉積み上げて電話を掛けても、相手の家族に繋いでもらえないとかよくあったです。
駆け落ちなんてのも周りで聞くことも有ったし、地方のパチンコ屋は、訳あり男女の住み込みでの仕事先No. 1。
長ランの裏は龍や虎の刺繍、特攻服には漢字でチーム名や短歌の様な刺繍、長鉢巻を靡かせてバイクをかっ飛ばす。(鉄パイプ付き)
ポマードで固めたリーゼント、クルクルパーマのツッパリ娘に、ポニーテールのローラーっ娘、トランジスタのボリューム上げて初めて二人、踊った曲……ゲホンゴホン。

ああ、田舎のツッパリ小僧。
作者はそんなツッパリに憧れるおかっぱ頭の田舎の小娘でした。



さて、若い方々にはどこまで通じるかな?






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