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第二章 旅は道連れ

17 規格外のブルース

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自分の体をしみじみと見ながら「懐かしいな」と呟いたブルースですが、何か気になる事が有るのでしょうか、私に視線を向けて来ました。

「お前、我に【真名】を付けたな」
「え?名前を付けるのは許可されましたよね?」
寧ろ名前を付けるように仰ったのでは?
「名付けをしろとは言ったが、【真名】を付けろとは言っていない」

そもそもの話、【マナ】とは何なのでしょう?
首を傾げる私にため息を吐きながら、ブルースが説明してくれました。

「【真名】は……あーっと………その者をその者と知らしめるもの…?だったか?
とにかくそれを良くないものに知られると、操られたり命を取られたりする、大変厄介なものだ」
少しあやふやですが、厄介なものの様です。
よくわかりませんが。

「私は普通に名前を考えてつけただけですが…」
よくわかっていない私に、上手く説明ができず、少し苛立ったのでしょうか、ブルースが近付いて来て、いきなり私の前で背中を向けてしゃがみました。
なんなのでしゃうか?

「上手く説明できぬ故、説明上手な奴の所へ行く。
背中に乗れ」
背中に……オンブという事でしょうか?
え?私を背負って走って行くのですか?

私が戸惑っていると、「いいから早く乗れ」とせかして来ます。
どうも拒否できそうにないので、恐る恐る背負われる事に。

「良いか、しっかり掴まっているのだぞ」
私が返事もしないうちに、ブルースの体がジワジワと変質していきます。
気づけば青年の背中に背負われていたはずが、王様トカゲの背中にしがみついていました。

驚いたのは私だけでありません。
下の方からチャック達の叫び声が聞こえて来ます。
「あり得ないんだけど⁈
なんで亜人化したのに、元の姿に戻れるの⁉︎」
「え?名前もらって亜人になっても、元に戻れるの?」
「あり得ないから!
名前を返して契約解除しないと元に戻らないから、普通!」
「じゃあこのお兄さん名前返したの?」
「返してないじゃん!
今のやりとりちゃんと見てたの?」

私は今の状況も忘れて、「チャックは大変だなぁ、血管切れないと良いけど」など考えてしまいました。

『では行くぞ、風の膜で保護はするが、なるべく体を低くしてしっかり掴まっておけ』
言いながら2、3回羽ばたくと、巨体がふわりと浮き上がりました。

「ちょ!!
待てよ!ジョニーをどこに連れて行くんだよ!」
『だから説明上手な奴の所へ行くと言うておる。
お前らは足にでも掴まっていろ』
「簡単に言うなーーー!!」

何と言いましょうか、一番幼い見た目のチャックが、一番苦労性の様ですね。
「チャック、頑張って」
「お前も流され過ぎーー!!」

人生は譲れない時以外、流れに身を任せるのが最良ですよ。
転がる石…そう、ローリングストーンですよ。
まあ、少しばかり不憫ですので、夕食は彼の好きな物を作りましょうかね。


空の旅を楽しもうと思いましたけれど、思いのほか目的地には早く着いたようです。
ブルースが降りた場所は、小高い山の頂上部にある石造りの建物、ギリシャの神殿のような建物の前庭でした。

私を降ろしたブルースが、「名前を呼んでくれ」と言うので、呼んでみると、彼の体は縮んでいき、再び人の姿となりました。
私も驚きましたけれど、私以上にチャックが、
「あり得なさすぎるだろ!
非常識にも程がある!」
と、大騒ぎです。

「我は王様だからな、不可能を可能にするのだ。
ワハハハハハハ」
ブルースは軽くいなしていますね。
私は現実味がなさ過ぎるのと、チャックが私の考えていることを叫んでくれたので、落ち着きを取り戻しましたよ。

「なんだ、煩いと思えば貴方ですか」
建物の方から声がするので見てみると、入り口に真っ白な物体が……。
いえ、白尽くめの白い男性が立っていました。

「おお、久しぶりだな、2年ぶりくらいか?」
ブルースが片手を上げて、白尽くめの男性に歩み寄ります。
「相変わらずいい加減な。
最後に会ってから30年は経ちますよ」

白い……なんて言うのでしょうか、ワンピースの長い……いえ、アラブの人が来ているような?感じの服に、地面に付きそうな長さの長い白髪(はくはつ)、人の肌の色とは思えない程の白い肌。
アルビノの方ですかねえ。
瞳の色は薄茶色と灰色?
金銀のオッドアイと言うんですかね、猫にたまに見られる色違いの瞳ですね。
他人の容姿には関心のない方なのですが、ここまで異質な美しさだと感心してしまいます。

「貴方、また人になったのですか?」
「ああ、面白そうだったからな、コイツの仲間になる事にした」
腕を掴まれ、白い方とブルースの間に立たされた私は、とりあえず挨拶をすれば良いですかねえ。

「初めまして、地球の日本と言う国から来ました、後藤 丈二です。
この世界ではジョニーと名乗っています」
いつもの挨拶をして頭を下げた後、そう言えば先程名乗るなと言われた事を思い出しました。
挨拶で名乗るのは条件反射ですよね。

「よその世界から来られた方ですか。
不思議な気配だと思いましたが、納得ですね。
それで?新しい仲間を自慢でもしに来たのですか?」
前半は私に、後半はブルースに向かって言っています。
「いやいや、そうではない。
コイツがあまりにも物知らずだから、お前の知恵を借りようと思うてな」

……はて?そういう話でしたかねえ。
確か名前を付ける時に私が【真名】という物をつけてしまったので、その【真名】に付いての詳しい説明が出来る方に会いに行く………ではなかったですか?
それに私にはタブレットが有りますから、後から調べれば分かる事なのですが、それは言わない方がいいようですね。

白い方は、ふぅと息を吐き、「どうぞ」と告げて建物の中へ入って行かれました。
後ろを振り返りましたら、チャックは諦めたような顔をして頷き、シナトラは…話を聞いていなかったようですね、地面に座り込みウトウトとしています。
その頭をチャックがはたき、立ち上がらせて、私達は建物の中へ入っていきました。






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