51 / 94
母さん、吸血鬼です
しおりを挟む母さん、大変です。
母さんの大好きなあのゲームキャラが空中に浮いています。
頭の中で母さんの車の中で、延々と聞かされていた、サントラのあの曲がグルグルまわってます。
俺は男の容姿になんて興味ないし、特にこの世界イケメンだらけだから今更一人増えても…だけど、敢えて厨二的に言うなら……
【赤味がかった大きな月を背に、その男は宙に浮いていた。
漆黒の装束を身に纏った男は、静かに音もなく俺たちの目の前に舞い降りる。
風に靡く長い銀髪は月の光を反射し、密やかな輝きを放つ。
漆黒に包まれた身は引き締まり、そのせいか佇まいに隙がない。
透明感のある白い肌に映える涼やかな瞳は紅く、その視線は僕を捉える……】
○○○○○!チャラララ~ン○○○○○!
あー、刀持たせたい!
いやいや落ち着け俺、リザードマンの状況と、聞いていた外的特徴、銀の髪に赤い瞳は…
「やっぱり吸血鬼だった……」
仲間達は小さく囁きながら後退り、漆黒の男から距離を取る。
薄っすらと微笑みをたたえた口が開き俺に語りかけて来た……
「お前かー、魔族を纏めるってあちこち回ってる奴は」
………え?……。
*****
「色々噂は聞いてるよ。
何でも人族の王に頼まれたんだって?
わざわざ他の世界から来てまであんたも大変だねぇ」
……何だろ…今まで会った人達より飛び抜けて美形なのに、口を開いた途端に、気の良いチャラい兄ちゃんになってしまった。
「私がもっと血ぃー吸えたらわざわざ呼び出されなくても良かったんだろうけどね」
ん?何の事だろう。
俺の疑問が顔に出てたのか、アンズがぴょんと肩に乗り答えてくれる。
『あのねアルジ、吸血鬼って魔族の血を吸うんだ。
血を吸われたら無気力になっちゃうんだよ』
遠くでオニギリ達がうんうんと頷いている。
「私が血を吸うとね、無気力になると言うより生気も一緒に吸うから脱力しちゃうんだよ。
脱力して戦いなんてどうでも良いって感じになるのかな」
ああ、成る程、だからリザードマンがこんな状態なんだ。
「基本的にシーズンにしか血は吸わないし、毎年好みは変わるしで、手当たり次第血を吸ってるわけじゃないんだよ。
毎回変わる好みで選んでるしね。
それに血だけで生きていけるわけ無くて、普段は普通に食事をしてるんだよ。
肉や野菜や魚なんかも、バランス良く食べなきゃ体に悪いしね」
…………え?吸血鬼……?
バランスの良い食生活を心がける吸血鬼?
話せば話す程イメージ崩壊していくんだけど……。
「まあ、シーズン以外でも吸えないって事じゃ無いからね。
私もお前に協力するよ」
えーーー……。
押しかけ吸血鬼が仲間になった……のか?
*****
何でも吸血鬼って、元々魔族の暴走を抑える為に生まれた、たった一人の種族なんだって。
魔族も人族も、動物さえ自由に(好き勝手に)生きているのに、自分だけ仲間もいないたった一人きりの種族の上、役目が有る事に納得出来ず、最初は荒れていたそうだ。
たった一人…ある意味エルフよりキツイかもしれないよね。
暴走して、体が受け付けず吐くほど血を飲みまくり、加減なしに吸われた相手は死んでゆき、魔族だけでは無く人族も襲っていたそうだ。
『このまま体を崩し死ねれば良いのに…』
そう思いながら血を吸い続けていたある日、人族の親子が現れた。
『お前が吸血鬼か?
残虐非道な吸血鬼?
嘘だろ、フラフラでお前の方が今にも倒れそうじゃないか』
『放っておいてもらおう。
私には共に語り合う仲間も居ない、そなたのように次に繋ぐ命も育めない、滅んでしまえば良い存在なのだから』
『で?一人で死ぬのは寂しいから道連れに手当たり次第って感じか?
暗いねー、お前さん友達居ないだろ?』
『!!だから私は独りだと言っている!』
『だったら!…だったら俺と友達になってくれないか?』
『…………何を言っている、ひ弱な人族が……』
『あー、貧弱でひ弱だよねー。
よく増えるけどちょっとした事ですぐ死んじまう。
だから俺と友達になって人族を襲わない様にしてくれないかな?』
『……何を勝手な………』
『血は吸わないと生きてけないのかい?』
『……シーズン以外は飲むと逆に体調を崩す。
元々魔族の暴走抑える為に飲むのであって、食事では無いのだからな』
『何それ、人族にめっちゃ都合の良い能力じゃん!
これはもう人族の為にも俺達友達な?』
『な……何を勝手な……』
『はははははー、勝手上等!
人族は魔族の暴走に悩まされなくなる、お前は独りじゃ無くなる、お互い様ってやつだよ。
お前は俺の友達、そしてこの子はお前の子でも有ると思って助けてやってくれ』
『…どこまで勝手な奴なんだ、呆れるな』
『お?今笑ったな?お前笑った方が良いぞ、ますます良い男だ、男の俺でも惚れちまう』
『何を言っている!貴様!』
『はははは、結構表情豊かじゃん。
最初の能面よりそっちの方が断然良いぞ!』
『……相手にしていられない、私はもう行くぞ』
『おう、またな!人族の街に俺を訪ねて来てくれ、いつでも待ってるからな。
俺の名前はガーム、ガーム・タリタル、コイツはリック・タリタルだ、
忘れるなよ!』
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
最弱悪役令嬢に捧ぐ
クロタ
ファンタジー
死んで乙女ゲームの最弱悪役令嬢の中の人になってしまった『俺』
その気はないのに攻略キャラや、同じ転生者(♂)のヒロインとフラグを立てたりクラッシュしたりと、慌ただしい異世界生活してます。
※内容はどちらかといえば女性向けだと思いますが、私の嗜好により少年誌程度のお色気(?)シーンがまれにあるので、苦手な方はご注意ください。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる!
びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ハズレスキルも組み合わせ次第!?付与とリセットで成り上がる!
孤児として教会に引き取られたサクシュ村の青年・ノアは10歳と15歳を迎える年に2つのスキルを授かった。
授かったスキルの名は『リセット』と『付与』。
どちらもハズレスキルな上、その日の内にステータスを奪われてしまう。
途方に暮れるノア……しかし、二つのハズレスキルには桁外れの可能性が眠っていた!
ハズレスキルを授かった青年・ノアの成り上がりスローライフファンタジー! ここに開幕!
※本作はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~
ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。
城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。
速人は気づく。
この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ!
この世界の攻略法を俺は知っている!
そして自分のステータスを見て気づく。
そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ!
こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。
一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。
そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。
順調に強くなっていく中速人は気づく。
俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。
更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。
強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
カクヨムとアルファポリス同時掲載。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
魔境暮らしの転生予言者 ~開発に携わったゲーム世界に転生した俺、前世の知識で災いを先読みしていたら「奇跡の予言者」として英雄扱いをうける~
鈴木竜一
ファンタジー
「前世の知識で楽しく暮らそう! ……えっ? 俺が予言者? 千里眼?」
未来を見通す千里眼を持つエルカ・マクフェイルはその能力を生かして国の発展のため、長きにわたり尽力してきた。その成果は人々に認められ、エルカは「奇跡の予言者」として絶大な支持を得ることになる。だが、ある日突然、エルカは聖女カタリナから神託により追放すると告げられてしまう。それは王家をこえるほどの支持を得始めたエルカの存在を危険視する王国側の陰謀であった。
国から追いだされたエルカだったが、その心は浮かれていた。実は彼の持つ予言の力の正体は前世の記憶であった。この世界の元ネタになっているゲームの開発メンバーだった頃の記憶がよみがえったことで、これから起こる出来事=イベントが分かり、それによって生じる被害を最小限に抑える方法を伝えていたのである。
追放先である魔境には強大なモンスターも生息しているが、同時にとんでもないお宝アイテムが眠っている場所でもあった。それを知るエルカはアイテムを回収しつつ、知性のあるモンスターたちと友好関係を築いてのんびりとした生活を送ろうと思っていたのだが、なんと彼の追放を受け入れられない王国の有力者たちが続々と魔境へとやってきて――果たして、エルカは自身が望むようなのんびりスローライフを送れるのか!?
おっさん、勇者召喚されるがつま弾き...だから、のんびりと冒険する事にした
あおアンドあお
ファンタジー
ギガン城と呼ばれる城の第一王女であるリコット王女が、他の世界に住む四人の男女を
自分の世界へと召喚した。
召喚された四人の事をリコット王女は勇者と呼び、この世界を魔王の手から救ってくれと
願いを託す。
しかしよく見ると、皆の希望の目線は、この俺...城川練矢(しろかわれんや)には、
全く向けられていなかった。
何故ならば、他の三人は若くてハリもある、十代半ばの少年と少女達であり、
将来性も期待性もバッチリであったが...
この城川練矢はどう見ても、しがないただの『おっさん』だったからである。
でもさ、いくらおっさんだからっていって、これはひどくないか?
だって、俺を召喚したリコット王女様、全く俺に目線を合わせてこないし...
周りの兵士や神官達も蔑視の目線は勿論のこと、隠しもしない罵詈雑言な言葉を
俺に投げてくる始末。
そして挙げ句の果てには、ニヤニヤと下卑た顔をして俺の事を『ニセ勇者』と
罵って蔑ろにしてきやがる...。
元の世界に帰りたくても、ある一定の魔力が必要らしく、その魔力が貯まるまで
最低、一年はかかるとの事だ。
こんな城に一年間も居たくない俺は、町の方でのんびり待とうと決め、この城から
出ようとした瞬間...
「ぐふふふ...残念だが、そういう訳にはいかないんだよ、おっさんっ!」
...と、蔑視し嘲笑ってくる兵士達から止められてしまうのだった。
※小説家になろう様でも掲載しています。
生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】
雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!
気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる