【完結】異世界に召喚されて勇者だと思ったのに【改訂版】

プロローグ

俺の名前は笹木野 孝一、高校三年生だ。

ほぼ家に居ない警察官の父親と、滅多に部屋から出てこない小説家の母親、家のことを全てやってくれている祖母に育てられた俺は、父親の影響で剣道部に入っている。

3年目にして最初で最後のインターハイ。
勿論目指すは優勝だ。

普段は仕事ばかりで滅多に帰宅しない父親が、珍しく時間を作り稽古をつけてくれたり、道場へ連れて行ったりしてくれたんだから、勝たなきゃでしょ。

でも、人生そんなに甘く無い…。
最初で最後のインターハイで初戦敗退。
そんでもって俺を負かした相手は二回戦敗退。

せめてそいつが優勝したとかなら、まだしも、俺の次の試合であっさり負けたのを見てなんだかくさってしまい、真っ直ぐ帰らずに家の近所の公園でスマホでサーフィン中。

「父さんに負けたって言ったら呆れられるかな……時間無駄にしたとか思われるのかな……。
あ、母さんの新作だ。
はいはい、異世界転生モノね。
これで異世界もの何作目？
まぁ嫌いじゃ無いんだけどね、異世界もの。
異世界に勇者として召喚されたり、人間以外に転生したり、ざまぁしたり、楽しいだろうな。
あーあ、俺も異世界に行って無双とかしたいよ」

ま、異世界なんて有るわけないけど？
わかってるけど母さんの想像力も受け継いでる俺としては、ついファンタジーな空想にふけってしまうってのもあるあるだよね。

スマホをいじりながらぶつぶつ言ってると子供連れのおばさんに冷たい視線を投げられた。
大きな荷物を持ってブツブツ言ってる俺、怪しいかもね。

「…帰ろうかな、ばあちゃんが待ってるから」

竹刀と防具を持ち公園から出て、左右を確認して道路を突っ切ろうと足を踏み出した時、何か違和感が有りつい立ち止まって足元を見てみる。

何だこれ？
道路から手が生えて俺の足首を掴んでる⁈

なにこれ！！ホラー？

思わず竹刀と防具を取り落とし、あわあわしながら周りを見渡そうと顔を上げたその視界いっぱいに、トラックが……


あ、コレ死んだ


父さん達、悲しむだろうなぁ…
ばあちゃんショック死とかしないでくれよ。

そんな事考えながら意識はホワイトアウト。


そして……


+++++



眼が覚めると高い天井の広い場所で横になってた。

体がバキバキする。

周りを見てみなくても視界の隅々に、俺を取り囲む人が見える。
なにこれ怖い、百人以上居そう。

その格好や、豪華な椅子に一人座っているいかにも！な男性、意識を無くす直前と全く違う場所。
このテンプレ状態、ありがち過ぎて逆に冷静になるよね。

「気がつかれましたか？言葉通じますか？」

いかにも、な男性（きっと王様）の横に居た初老の男性に声をかけられる。
ポジション的に、宰相とか言うやつかな？

あー、言葉通じるよ。
そして体バキバキするけどコレ事故ではねられた痛さではなく、筋肉痛っぽい痛さだし。
アレだよね、良くある話だ、母さんの小説なんかにさ。

ついさっき今更感とか言ってて、トラック事故で召喚って、本っっっとありすぎてごめんなさいだわ。
あれ？トラック事故だと転生とか転移だっけ？


「言葉わかりますか？異世界の方よ」
「はい、わかります。
俺、自分の世界からこちらに召喚されたんですね？」
先どって俺が言うと、取り囲んで居た人々からどよめきがおきる。

「え、ええ、そうです。
今この世界では魔族の侵略で危機を迎えています」
あー、鉄板鉄板。

「しかし人族では魔族に敵わず蹂躙される一方で…。
そんな時、王に神託が下されたのです」
異世界って神様との距離近いよねー。
つーか、あちらこちらの話で書かれてたけど、召喚ってつまるところ異世界誘拐だよね。

「異世界の方よ、お願いします。
このタリタル国の為に…」
でも勇者かー、正直悪い気はしない、と言うよりワクワクする。
インターハイでは負けたけど、鍛えたかいがあるってもんだよねー。

「魔王になって下さい！」

「はいーー⁈
そっちのパターン？」