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『俺が普通じゃなくなった日』
003 『母さん、気づいてくれ』
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「おはよ」
毎朝恒例のぬか漬け占いをしている母の背中に向かって、朝のご挨拶。
「あら、やっと降りてきたのね。私の愛しい名太郎ちゃん!」
背中を向けてまま、やけに上機嫌な声。どうやら、今日のぬか漬け占いの結果は、良かったらしい。
ぬか漬け占いが、何を基準に良いか悪いかを判断しているのか分からないが、結果が悪い日の母さんは心底恐ろしい。
逆に今日みたいに、結果が良い日は気持ち悪いくらいに機嫌が良くなって、どっちにしろ恐ろしいことに変わりない。
「あら、今日はいつにも増してカッコいいじゃないの!」
母さんが振り返り様にそう言ってきて、今日の俺は普通じゃないことを思い出した。レイちゃんの激怒している顔を想像して、怯えるあまりに自分の姿のことなど、すっかり忘れていたのだ。
「あ、いや、これはなんというか……。って、母さん。それ俺のこと見えてないだろーい!」
振り向いた母さんは、大量に輪切りされたキュウリで顔面を覆い尽くしているではないか。
どう考えても俺のことが見えていない。
「あらあら、そうだったわ! キュウリパックしないと一日始まらないのよね! どれどれ、うちの可愛い名太郎ちゃんの顔を見せてごらん!」
「い、いいよ、そのままで!」
「ダメよ! 朝ご飯もあげないといけないし、名太郎ちゃんの顔が見たいもの!」
とにかく、変にパニックになられても困る。ひとまず、みんなが登校していないうちに、学校に行ってみることにしよう。
「お、俺、今日急いで学校に行かないといけないから、朝ご飯はいらないんだった! お弁当だけ持ってくね」
「そうなの? それじゃあ仕方ないわね」
テーブルに置いてあった弁当を持って、早々にリビングから立ち去ろうとしたら、ブルドッグみたいに顔をブルブル振って、顔面のキュウリを額の真ん中にある一枚だけ残して、保湿十分の新しい顔で俺の方を見てきた。
マズい。俺は、すかさず顔を隠した。
「って、太郎ちゃんあなたそのポーズは何?」
「え、あ、これ? 最近学校で流行っててさ、これできないといじめられちゃうかも知れないんだよね」
浮かれているとはいえ、さすがに直視されたら気づかれかねない。そこで俺は、嘘をついた。
右手を顔面を覆い隠すように添えながら、顔を伏せつつ、左腕で自分の体を包み込むようにする咄嗟に考えたポージング。我ながら、これは怪しまれてもおかしくない。
「あら、そんなポーズが流行っているなんて、お母さんも練習しないと若い子に置いていかれちゃうわね! こうかしら?」
いやいや、さすがにこんなポーズが流行ってるわけがないし、そんな一生懸命になって練習しても無駄だぞ、母さん。
そんなことに時間を割くよりも、夕方のテレビアニメに出てくるお母さんみたいなパーマの髪型をどうにかしてくれ。
まずは、そこをどうにかしないと時代に置いていかれるどころか、生きた化石になってしまうぞ。
俺の異変に気づかなくてもいいから、まずはそこに気づいてくれ。
「……が、頑張って」
「私の愛しい名太郎ちゃんも、頑張ってくるのよ! んーまっ!」
すまん母さん。朝っぱらから超絶破壊力のある投げキッスは、やめてくれ。
俺は、機関銃のように連射する投げキッスの猛攻を受け、吐き気を催しながらポーズを崩さずに家を出た。
毎朝恒例のぬか漬け占いをしている母の背中に向かって、朝のご挨拶。
「あら、やっと降りてきたのね。私の愛しい名太郎ちゃん!」
背中を向けてまま、やけに上機嫌な声。どうやら、今日のぬか漬け占いの結果は、良かったらしい。
ぬか漬け占いが、何を基準に良いか悪いかを判断しているのか分からないが、結果が悪い日の母さんは心底恐ろしい。
逆に今日みたいに、結果が良い日は気持ち悪いくらいに機嫌が良くなって、どっちにしろ恐ろしいことに変わりない。
「あら、今日はいつにも増してカッコいいじゃないの!」
母さんが振り返り様にそう言ってきて、今日の俺は普通じゃないことを思い出した。レイちゃんの激怒している顔を想像して、怯えるあまりに自分の姿のことなど、すっかり忘れていたのだ。
「あ、いや、これはなんというか……。って、母さん。それ俺のこと見えてないだろーい!」
振り向いた母さんは、大量に輪切りされたキュウリで顔面を覆い尽くしているではないか。
どう考えても俺のことが見えていない。
「あらあら、そうだったわ! キュウリパックしないと一日始まらないのよね! どれどれ、うちの可愛い名太郎ちゃんの顔を見せてごらん!」
「い、いいよ、そのままで!」
「ダメよ! 朝ご飯もあげないといけないし、名太郎ちゃんの顔が見たいもの!」
とにかく、変にパニックになられても困る。ひとまず、みんなが登校していないうちに、学校に行ってみることにしよう。
「お、俺、今日急いで学校に行かないといけないから、朝ご飯はいらないんだった! お弁当だけ持ってくね」
「そうなの? それじゃあ仕方ないわね」
テーブルに置いてあった弁当を持って、早々にリビングから立ち去ろうとしたら、ブルドッグみたいに顔をブルブル振って、顔面のキュウリを額の真ん中にある一枚だけ残して、保湿十分の新しい顔で俺の方を見てきた。
マズい。俺は、すかさず顔を隠した。
「って、太郎ちゃんあなたそのポーズは何?」
「え、あ、これ? 最近学校で流行っててさ、これできないといじめられちゃうかも知れないんだよね」
浮かれているとはいえ、さすがに直視されたら気づかれかねない。そこで俺は、嘘をついた。
右手を顔面を覆い隠すように添えながら、顔を伏せつつ、左腕で自分の体を包み込むようにする咄嗟に考えたポージング。我ながら、これは怪しまれてもおかしくない。
「あら、そんなポーズが流行っているなんて、お母さんも練習しないと若い子に置いていかれちゃうわね! こうかしら?」
いやいや、さすがにこんなポーズが流行ってるわけがないし、そんな一生懸命になって練習しても無駄だぞ、母さん。
そんなことに時間を割くよりも、夕方のテレビアニメに出てくるお母さんみたいなパーマの髪型をどうにかしてくれ。
まずは、そこをどうにかしないと時代に置いていかれるどころか、生きた化石になってしまうぞ。
俺の異変に気づかなくてもいいから、まずはそこに気づいてくれ。
「……が、頑張って」
「私の愛しい名太郎ちゃんも、頑張ってくるのよ! んーまっ!」
すまん母さん。朝っぱらから超絶破壊力のある投げキッスは、やめてくれ。
俺は、機関銃のように連射する投げキッスの猛攻を受け、吐き気を催しながらポーズを崩さずに家を出た。
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作者様のコメディのセンスが光ってる
とくに洗濯バサミのシーンめっちゃ爆笑しました^^
ご感想ありがとうございます!
笑って頂けて良かったです!