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03:王太子
しおりを挟む注目を集める、会場の隅。
愚弟のやらかした愚行の尻拭いのように行われた、隣国式の正式な求婚。
求婚するのは、我が国に留学に来ている隣国『イファ帝国』の第一位帝位継承者であるベルブランド皇子。
大陸各地に属国という名の領地を持ち、大陸一の国力を誇る大国の後継者で、眉目秀麗で欠点らしい欠点のない優秀者である。
求婚されているのは、我が『シャス王国』の王位継承権を持つローデンス公爵家の令嬢ヴィディリーア。
現国王の実姉を母に持つ筆頭公爵家の令嬢であり、才色兼備で淑女の中の淑女と噂されるほどの少女。
どちらも一国の代表として恥ずかしくないレベルの礼儀作法に品位を備えた上位者である。
「やられた」
本来であれば私の婚約者になっていたはずの少女。
美しく嫋やかでありながら芯の通った美しい少女を妻にと望んでいた。
従兄妹関係ではあるが、数代に遡っても近しい血縁との婚姻は無かったため血が濃くなりすぎる心配は無かった。
幼心にも愛情を感じていた少女との顔合わせで、私が求婚する前に愚弟が少女との婚約を望んだ。
既に王子としての資質を問われていた愚弟の癇癪に、折れたのは父母。
少女の両親である公爵夫妻は、婚約を公式な物として発表するのは成人後とするのを条件に、この婚約を認めた。
公式発表さえしなければ、万が一の時も婚約破棄などという傷を少女が負うことは無い。
また、周知の事実だとしても、少女側が愚弟を見限ればいつでも正式な婚約を結ぶことができるのだ。
幼少の頃より素晴らしかった少女によって、愚弟の評価は回復した。
しかし、ソレはあくまでも少女の尽力があってこそだと、貴族たちの誰もが理解していた。
唯一ソレを理解できなかったのが、愚弟。
王子だという、ただソレだけであらゆる勉強から逃げ愚者の道を突き進んだ。
その結果が、コレだ。
「なぜ貴族たちは私とエミリアを祝福しない?!」
癇癪を起す愚弟に、賛同する底辺の少女。
品位の無い二人のバカドモに、父母ですら声をかけることは無い。
そもそも、王族に嫁ぐことができるのは伯爵以上の家の者だけだということすら、このバカドモは知らないのか。
王座のある壇上に立ちながらも教養の欠片も無いバカドモに、会場の片隅でありながら美しい所作と立ち振る舞いで注目を集める二人。
明らかな立場の差がわからないバカドモの癇癪を聞きながら、美しく微笑む初恋の少女の顔を見る。
できることなら、私が少女を幸せにしたかった。
国を背負うことになる私の隣で、幸せだと微笑んでいてほしかった。
既に、ソレは叶わない願ではあるけれど。
「帝国の正妃となるのなら、ヴィディリーアは幸せになれるだろう」
愚弟の癇癪と王家の都合により縛り付けてしまった数年間は、ヴィディリーアにとって地獄だっただろう。
好意すら持てない第二王子の婚約者だったという事実は消えないが、公式な記録としては残らない。
今後は、婚約者だったのではなく、愚弟の教師だったと公式記録に記すことで、今更ながらヴィディリーアの名誉を守っていこう。
幸い、貴族たちは王家(愚弟)ではなくヴィディリーアの味方であるようなので、問題は無いだろう。
「女神の承認が下りたか」
白銀に輝く光が降り注ぎ、美しい令嬢は美しい皇子の婚約者となった。
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