3 / 4
第三話
しおりを挟む
「以前から開発の進んでいた生物兵器の一つ。『リンコデムス』を使う」
「……りんこでむす? ああ、アレかぁ」
聞きなれぬ単語にきょとんとしていた佐官は、しかし思い当たる節があったのか一つ手を打ち鳴らした。
「でも、アレって火器類中心の近現代兵器に対処できないって話で白紙になったんじゃなかったか」
「……なんでも、長官殿が気に入ったので飼育を続けていたという話です」
次官の耳打ちで、佐官は呆れたように長官を見た。そんな佐官の態度に、長官はムッと頬を膨らませる。
「高度な再生機能を持ち、斬撃に完全体制を持った生物だ。土人攻略には十分に役に立つ上……姿もかわいらしくて良い」
「あんなミミズもどきのどこがかわいいんだか」
長官と佐官が睨み合う最中、常世から卵形のカプセルが勢いよく地表に向けて打ち出された。しばらくして、カプセルが地面から飛び出る様子を偵察機の一つが捉える。
巨大モニターの映像の一つに映る巨大なカプセルがゆっくりと開き、中からぬるぬるとした蛇か蚯蚓がとぐろでも巻いたような塊が姿を現した。瑞々しい水羊羹のような薄茶色の身体に、先端がすぼまった頭には点状の一対の目があってとぼけた表情を見せる。
細長くつるつるの身体を滑らせるように移動するこの生き物こそ、秘密結社カムロキの技術の結晶である生物兵器の一つ。通称リンコデムスである。
ニシキヘビのような巨体でありながら静かな動きで行動を始めたリンコデムスは、どんどんと土人の集団へと向かっていった。兵器と言っても要は捕食欲を利用しただけの単純な生物兵器であるため、リンコデムスは本部から指示を待つわけでもなく、まるで無警戒に土人に寄っていく。
そんな突然の来訪者に、土人達は警戒の声を上げて武器を構えた。
彼らの威嚇をまるで意に介さず、リンコデムスは、その見た目からは想像の付かない素早さで一人の土人に飛びかかる。
「お、やったか?」
佐官の呟きの通り、モニター画面にはリンコデムスに襲われる土人の姿がある。
体に巻き付かれた土人は、その矮躯を滅茶苦茶に暴れさせていたが、ねっとりと絡みついたリンコデムスはまるで離れない。
それを引き剥がそうと動く周囲の土人の仲間達によって執拗に武器で攻撃をかけられ、リンコデムスの体は千切れた。しかし、まるで影響がないとばかりに捕食を続ける本体に加え、土人の攻撃で周囲に飛び散ったリンコデムスの小片も蠢いて土人達を襲うので、とうとう土人の集団は大崩れとなった。そうしてついに、土人達は捕食されている仲間を放って逃げだした。
捕まった土人は、リンコデムスの体の中央から出る消化液によってゆっくりと生きたまま食べられていく。捕まったばかりの頃は暴れていた土人も、今では元気がなく、ぐったりとしていた。
「結構えげつないのな」
リンコデムスに巻き付かれぐったりしている土人を見て、佐官は軽い声音で言った。
「しかし、これであの集団のサンプルが手に入りました。完全に消化される前に回収して調べましょう」
「かしこまりました」
珍しく嬉しそうに声を弾ませる次官の指示で、史生は一度小モニター画面から消えた。リンコデムスの回収作業に入るためであった。
長官はといえば、自身のお気に入りの生物兵器の活躍に大層満足した様子で、己の椅子にふんぞり返るように腰掛けていた。
「……りんこでむす? ああ、アレかぁ」
聞きなれぬ単語にきょとんとしていた佐官は、しかし思い当たる節があったのか一つ手を打ち鳴らした。
「でも、アレって火器類中心の近現代兵器に対処できないって話で白紙になったんじゃなかったか」
「……なんでも、長官殿が気に入ったので飼育を続けていたという話です」
次官の耳打ちで、佐官は呆れたように長官を見た。そんな佐官の態度に、長官はムッと頬を膨らませる。
「高度な再生機能を持ち、斬撃に完全体制を持った生物だ。土人攻略には十分に役に立つ上……姿もかわいらしくて良い」
「あんなミミズもどきのどこがかわいいんだか」
長官と佐官が睨み合う最中、常世から卵形のカプセルが勢いよく地表に向けて打ち出された。しばらくして、カプセルが地面から飛び出る様子を偵察機の一つが捉える。
巨大モニターの映像の一つに映る巨大なカプセルがゆっくりと開き、中からぬるぬるとした蛇か蚯蚓がとぐろでも巻いたような塊が姿を現した。瑞々しい水羊羹のような薄茶色の身体に、先端がすぼまった頭には点状の一対の目があってとぼけた表情を見せる。
細長くつるつるの身体を滑らせるように移動するこの生き物こそ、秘密結社カムロキの技術の結晶である生物兵器の一つ。通称リンコデムスである。
ニシキヘビのような巨体でありながら静かな動きで行動を始めたリンコデムスは、どんどんと土人の集団へと向かっていった。兵器と言っても要は捕食欲を利用しただけの単純な生物兵器であるため、リンコデムスは本部から指示を待つわけでもなく、まるで無警戒に土人に寄っていく。
そんな突然の来訪者に、土人達は警戒の声を上げて武器を構えた。
彼らの威嚇をまるで意に介さず、リンコデムスは、その見た目からは想像の付かない素早さで一人の土人に飛びかかる。
「お、やったか?」
佐官の呟きの通り、モニター画面にはリンコデムスに襲われる土人の姿がある。
体に巻き付かれた土人は、その矮躯を滅茶苦茶に暴れさせていたが、ねっとりと絡みついたリンコデムスはまるで離れない。
それを引き剥がそうと動く周囲の土人の仲間達によって執拗に武器で攻撃をかけられ、リンコデムスの体は千切れた。しかし、まるで影響がないとばかりに捕食を続ける本体に加え、土人の攻撃で周囲に飛び散ったリンコデムスの小片も蠢いて土人達を襲うので、とうとう土人の集団は大崩れとなった。そうしてついに、土人達は捕食されている仲間を放って逃げだした。
捕まった土人は、リンコデムスの体の中央から出る消化液によってゆっくりと生きたまま食べられていく。捕まったばかりの頃は暴れていた土人も、今では元気がなく、ぐったりとしていた。
「結構えげつないのな」
リンコデムスに巻き付かれぐったりしている土人を見て、佐官は軽い声音で言った。
「しかし、これであの集団のサンプルが手に入りました。完全に消化される前に回収して調べましょう」
「かしこまりました」
珍しく嬉しそうに声を弾ませる次官の指示で、史生は一度小モニター画面から消えた。リンコデムスの回収作業に入るためであった。
長官はといえば、自身のお気に入りの生物兵器の活躍に大層満足した様子で、己の椅子にふんぞり返るように腰掛けていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
自由を求める者と、自由を奪う者
影樹 ねこ丸
ファンタジー
この世界は、魔獣に囲われた生活を強いられている。
彼ら魔獣を凌ぐのは、岩壁のみ。高さ十数メートルほどはあるであろう、頑丈な岩壁だ。
つまりは、壁に閉じ込められた生活だ。
騎士団という、馬に乗って刀を持つ団体がある。
騎士団は数ヵ月に一度、壁外に出兵する。
魔獣と戦って、殲滅や調査を行っている。
だが、魔獣は消えるどころか、増加し続けている。
そんなときに現れたのが、デウス・ルーズベルトという新兵だ。
彼は、みんなとはまた違った思考の持ち主だ。
自由を求めるのはみんなと同じだが、違うのは
“魔獣を完全に殲滅しよう”とする意志だ。
彼には悲しき過去がある。
その過去が、今の彼を生んだといっても過言ではない。
自由を求める者と自由を奪う者との、激闘を物語っていく。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。
アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。
【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】
地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。
同じ状況の少女と共に。
そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!?
怯える少女と睨みつける私。
オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。
だったら『勝手にする』から放っておいて!
同時公開
☆カクヨム さん
✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉
タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。
そして番外編もはじめました。
相変わらず不定期です。
皆さんのおかげです。
本当にありがとうございます🙇💕
これからもよろしくお願いします。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる