スパダリ族はお断り!

赤井茄子

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初めてのフロリダ・メルディ②

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「フロリダの方が東京のよりデケェし、二倍喜んでくれると思って……」
「何その発想……」
「……舞花の誕生日も十数年分祝ってねぇだろ。これならまとめてお祝い出来るなと」

 しゃがみこんで、しょんぼりとこちらを見上げてくる吉弘。その姿は正真正銘、キラキラしいスパダリ族だ。
 ……しかしてその実態は、木の棒を両手に持って「攻撃力二倍!」とか叫んでいた小学生ヨシくんである。

 ――何だろう。そう思ったら何だか怒りが抜けていく……。

 ため息をつき、しゃがみこんで吉弘の顔を覗き込む。恐る恐る舞花を見つめる彼の目は、イタズラして叱られた時のヨシくんと全く同じだ。
 昔から、そういう目で見られるのは弱い。普段兄貴風を吹かしている分、妙な可愛らしさを感じてしまう。

 ――きっと、沢山考えて準備してくれたんだろうな。

 規模は色々とおかしいけれど、吉弘の想いは嬉しいのだ。それに好きの方向は間違っていない。薔薇百本の花束とかよりは、舞花にとってずっと良い。
 十数年分の誕生日プレゼントだというのなら、ありがたく受け取るのが幼馴染というものか。

「……来ちゃったもんは仕方ない」
「っ! ま、舞花?」
「今回だけだからね。次はちゃんと、事前に相談してよ」
「わかった!」

 背後で萎れていた紫色の花が、ぱあっと一気に咲き誇る。背中を押すようにして立ち上がらせ、ついでにお尻についた土を払ってやると、吉弘はちょっと嬉しそうに笑う。
 おまけに何を思ったのか、舞花達をこっそり観察していたラテン系の観光客が何人か口笛を吹き拍手していた。何だそのノリは、居た堪れなさがすごい。

「……やっぱもう少し怒っとこうかな……」
「分かった、正座した方がいいか」
「うそうそ。冗談、迷惑になるでしょ」

 大真面目な顔で正座しようとする吉弘を止めつつ、舞花はメルディワールドを見上げた。夏の日差しの中、エントランスにあるバザールの向こうにはメルヘンチックなお城がそびえ立っていた。

 ――すごい。本物だ。

 初めての旅行、初めての海外、こんなにワクワクするのは何年ぶりだろう?こんなこと、少し前には想像も出来なかった。
 舞花の口がもにょもにょ緩んでいくのを見て、吉弘も軽く噴き出す。先程までの気まずい雰囲気はもうなく、抜けるような青空に二人の笑い声が響いた。

 こうして、舞花のフロリダ・メルディ旅行が幕を開けたのである。
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