135 / 154
新婚旅行編
やっぱりテメェは糞親父だ
しおりを挟む
「お前らに合わせる顔が、なかったんだ。何て説明したらいいのかも、ポルカ以外に信じてもらえる自信も無かった」
ジルベルトの魔力と魔法の技術をもってすれば、下界の家族に便りを送ることは出来た。それでも、それをしなかったのは――偏にジルベルトが決定的に家族に嫌われた事実を知るのを恐れたからだ。
便りを送れば、きっと家族は事情を聞いてくるに違いない。けれど、正直に説明したとして、信じてもらえる自信もなかった。
信じてもらえなかったら
何故帰ってこないのかと泣かれたら
いや反対に、『この糞野郎、もう二度と面を見せるな』と言われたら……
最悪の事態を想像すればするほど動けなくなり、何も出来ない内に時間だけが経っていく。そして十年、二十年経ち――さらに動けなくなっていった。
そうして結局、遠見の鏡で愛しい家族を見守るくらいしかできなかったのだ。
遠くから見守って、怪我や病気が見つかったらこっそりと治す。……それくらいしか、出来なかった。
「情けねぇ。俺ぁ夫としても、親父としても……失格だ」
大きな背中を丸めたジルベルトは、一回りも二回りも縮んだ気がした。四方を取り囲む『家族』の視線が、体の方々に深々と突き刺さる。
中でも一等キツいのは、やはり胸倉を掴んで頭突きを繰り出した長男の目だ。
彼の瞳はジルベルトによく似ている。目尻の吊り上がり方も、三白眼も、朝日に燃えるようなその虹彩も、鏡と睨み合っているかのようだ。
「……くっだらねぇ」
沈黙の中、吐き捨てるような息子の声が響く。
「図体の割にみみっちい理由だな。……やっぱテメェは、“糞親父”だ」
「ジャン! アンタ、さっきから聞いてりゃ――」
「糞だろうが! あぁ!? ネズミの糞よりちっちぇ肝っ玉しやがって!」
ジルベルトの腕の中で懸命に抗議してくれるポルカを睨みつけ、ジャンが鼻を鳴らして笑う。そんな長兄の様子に、ガルラが手を上げて続いた。全く誰に似たのか、図体に似合わぬ控えめさだ。
「俺も……そう、思う。なぁ、ミゲル」
「うん。僕も同感だ」
次兄に続いたのは、末っ子のミゲルだ。目を丸くした嫁サリアに小突かれつつ、肩を竦めて口を開いた。
「だってそうだろ、無責任だよ。父さんは大黒柱だったんだよ? 父さんが居なくなって、母さんがどれだけ苦労したか……見てたなら、知ってた筈だ。それをこんな仕様のない理由でさあ」
「父さんが消えてから……噂も、尾鰭がついて回った。俺も、兄さんも、ミゲルも、苛められた。大変、だった」
ジルベルトの魔力と魔法の技術をもってすれば、下界の家族に便りを送ることは出来た。それでも、それをしなかったのは――偏にジルベルトが決定的に家族に嫌われた事実を知るのを恐れたからだ。
便りを送れば、きっと家族は事情を聞いてくるに違いない。けれど、正直に説明したとして、信じてもらえる自信もなかった。
信じてもらえなかったら
何故帰ってこないのかと泣かれたら
いや反対に、『この糞野郎、もう二度と面を見せるな』と言われたら……
最悪の事態を想像すればするほど動けなくなり、何も出来ない内に時間だけが経っていく。そして十年、二十年経ち――さらに動けなくなっていった。
そうして結局、遠見の鏡で愛しい家族を見守るくらいしかできなかったのだ。
遠くから見守って、怪我や病気が見つかったらこっそりと治す。……それくらいしか、出来なかった。
「情けねぇ。俺ぁ夫としても、親父としても……失格だ」
大きな背中を丸めたジルベルトは、一回りも二回りも縮んだ気がした。四方を取り囲む『家族』の視線が、体の方々に深々と突き刺さる。
中でも一等キツいのは、やはり胸倉を掴んで頭突きを繰り出した長男の目だ。
彼の瞳はジルベルトによく似ている。目尻の吊り上がり方も、三白眼も、朝日に燃えるようなその虹彩も、鏡と睨み合っているかのようだ。
「……くっだらねぇ」
沈黙の中、吐き捨てるような息子の声が響く。
「図体の割にみみっちい理由だな。……やっぱテメェは、“糞親父”だ」
「ジャン! アンタ、さっきから聞いてりゃ――」
「糞だろうが! あぁ!? ネズミの糞よりちっちぇ肝っ玉しやがって!」
ジルベルトの腕の中で懸命に抗議してくれるポルカを睨みつけ、ジャンが鼻を鳴らして笑う。そんな長兄の様子に、ガルラが手を上げて続いた。全く誰に似たのか、図体に似合わぬ控えめさだ。
「俺も……そう、思う。なぁ、ミゲル」
「うん。僕も同感だ」
次兄に続いたのは、末っ子のミゲルだ。目を丸くした嫁サリアに小突かれつつ、肩を竦めて口を開いた。
「だってそうだろ、無責任だよ。父さんは大黒柱だったんだよ? 父さんが居なくなって、母さんがどれだけ苦労したか……見てたなら、知ってた筈だ。それをこんな仕様のない理由でさあ」
「父さんが消えてから……噂も、尾鰭がついて回った。俺も、兄さんも、ミゲルも、苛められた。大変、だった」
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
騎士団長の欲望に今日も犯される
シェルビビ
恋愛
ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。
就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。
ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。
しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。
無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。
文章を付け足しています。すいません
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
【R18】寡黙で大人しいと思っていた夫の本性は獣
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
侯爵令嬢セイラの家が借金でいよいよ没落しかけた時、支援してくれたのは学生時代に好きだった寡黙で理知的な青年エドガーだった。いまや国の経済界をゆるがすほどの大富豪になっていたエドガーの見返りは、セイラとの結婚。
だけど、周囲からは爵位目当てだと言われ、それを裏付けるかのように夜の営みも淡白なものだった。しかも、彼の秘書のサラからは、エドガーと身体の関係があると告げられる。
二度目の結婚記念日、ついに業を煮やしたセイラはエドガーに離縁したいと言い放ち――?
※ムーンライト様で、日間総合1位、週間総合1位、月間短編1位をいただいた作品になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる