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〈閑話〉同僚サムの目撃談④

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「んぇ? 何だいコレ」
「開けろ」
「えっ嫌だよぅ、何だか凄く高価そうな袋じゃないサ……」
「つべこべ言ってねぇで開けろっつってんだよ!」
「うわわ、分かったよ。おっかない顔しないどくれって」

 しかめっ面を通り越し、まるで鬼人オーガのような顔で睨みつけられた奥さんは、困り笑顔で袋を開封した。
 ……あの顔を困り笑顔で受け流せるとは幼な妻な上に只者ではない。大の男であるサムでさえ、ビビってちょっとチビりそうになったのに。

「うわッ、何だこりゃあ!?」

 奥さんの素っ頓狂な叫び声を聞き、サムはため息をついた。……どうやら、呪いのネックレスを見てしまったようだ。ネックレスから立ち昇るジルベルトの魔力が、奥さんの体に絡みつかんと立ち昇りまくっている。そりゃあ叫ぶに決まって―――

「めっちゃくちゃ高価そうじゃないか!! い、一体幾らしたんだいコレ!?」
「関係ねぇだろ」

 ――いや値段かよ!! 普通は込められた魔力と魔法にドン引くだろ!! 奥さんどんだけにぶいんだよ!?

「あっ……こ、これ………え、っと。もしかして、もしかしなくても……あ、アタシに?」
「……ああ」
「ジル……」

 ほわほわと漂い始める、何だか甘ったるい空気。……どうやら、サムの心配は杞憂に終わったようだ。良かった良かった。さぁ、夫婦のイチャイチャに中てられる前に帰ろう――


「てめぇの首輪だ。着けてやるから後ろ向け」


 ――ちったぁ言い方を考えろ木偶の坊がぁあぁああーーーーーーッ!!!!!!

 サムは物陰で思いっきり頭を抱え、心の中で絶叫した。
 案の定、奥さんは困惑している。心なしか泣きそうな顔をしているのが何とも胸に痛い。というか、首輪って何だ。普通に「お前の為に選んできたネックレスだ」とか言えば良いだろうが。

 照れか?照れ隠しか?ほら泣きそうになってるじゃないか……いかん、後ろからネックレス着けにかかってるから泣きそうなのに気付いていない。何という朴念仁!!

 ともあれカチリ、と留具を締める小さな音がして、ネックレスは無事奥さんの首を彩った。
 困惑し泣きそうになっていた彼女も、小さな魔石を外灯に翳してみたりしている。そして……ジルベルトに爆弾を落とした。

「ジルのと同じで、綺麗な色だねぇ」

 灰色の瞳が、朝焼け色の魔石を見つめてうっとりと蕩けた。その蕩けた瞳のまま、ジルベルトを見上げて大層嬉しそうに『にへっ』と笑う。

「アタシには勿体無いくらい綺麗だよ。ジル……ありがとねぇ」
「――――――――――ッ!!」

 ジルベルトは肩を大きく震わせ、奥歯を噛み締めながら嫁を睨めつけた。今しがた奥さんに褒められた朝焼け色の瞳も、エレファンチアモレギスをも殺せそうな程にギラギラしている。
 率直に言って、物凄く怖い。

「……あ、あの。そうだね、首輪だから嬉しがっちゃ駄目だよね。ゴメンよ、ジル」

 そんな顔で見下された奥さんは、申し訳なさそうに眉根を下げてしまった。当然だ。当然だが、サムは何とももどかしい気持ちになってしまう。
 違うのだ。強面で乱暴な言葉遣いのジルベルトだが、ああいう顔をする時は大抵――

「――五月蝿え黙れ」
「ジ、ジル……? ッうわぁあぁあ!!!!!!」

 ……震え始めた奥さんをまるで小麦袋のように抱え上げ、ジルベルトは物凄い速さで家の中へ入っていってしまった。サムは心の中で合掌する。恐らく奥さんは、明日は一日起き上がれないだろう。


「はーーったく。口下手も考えもんだよなぁ。……まぁ、仲良くやってるみたいだし、心配はいらないか」

 サムは大きなため息をつき、帰路へついた。すっかり中てられてしまったから、今日はとことん恋人に慰めてもらおう。
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