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本編
37 ハリスの想いは
しおりを挟む今日は久しぶりに、お父様とアルム兄様と一緒に登城した。
シェラルージェが襲われてからは、余程のことがない限りは外に出なくてもいいと言われていたので、クラリッツェ様がハリー様の好きな女性ではなかったと分かった日以来の登城だった。
シェラルージェはハリー様に気持ちを伝えるために何が出来るかと考えて、折角ならハリー様を護る創術品を創って渡そうと思って、家でずっと創っていた。
勿論、ハリー様に頼まれた指輪の方も作製している。ただ、なかなかデザインが決まらなくて難航していた。
今日のハリー様はニコニコと笑っていてとても機嫌が良さそうだった。
それに笑い返したら、ハリー様がより一層笑顔になって笑い返してくれた。
ハリー様の笑顔を恥ずかしがらずに正面から見つめ返せるようになった自分は少し成長出来たのかもしれない。それにシェラルージェは少し嬉しく思った。
陛下への定時報告が済み、先に部屋を退出したシェラルージェは、待機場所へと移動した。
部屋に入ると、マリーがニコニコと笑っていた。
「マリー、とても似合ってるね」
今日のマリーは、シェラルージェがアーサー様に頼まれて創った創術品を身に付けていた。
髪飾りとイヤリング、ネックレス、指輪の一式をアーサー様の海を思わせる青い瞳色のサファイアを使って創った。
マリーのふわふわの金髪に差し色としてサファイアの髪飾りが映えていた。
マリーの雰囲気に合わせてシンプルにサファイアをあしらったデザインが、いつもよりマリーを大人っぽく魅せていた。
「ありがとう」
「誰に貰ったの?」
シェラルージェは分かっていたけれど、あえて聞いてみた。
すると、マリーが顔を真っ赤に染めて、恥ずかしそうに視線を彷徨わせていた。
「……アーサーに…」
「そう、良かったね!」
「うん」
恥ずかしそうにアーサー様の名前を口にしたマリーが可愛くて、その後に頷いたマリーはとても嬉しそうに笑っていた。
そのあとは両手で頬を覆って窓の方へ行ってしまった。恥ずかしくなったのだろう。今日はもう勉強どころではなさそうだ。
クスクス笑っていると、セリーナが近づいてきた。
「シェラ」
シェラルージェを呼んだセリーナはとても嬉しそうに笑っていた。
「どうしたの?」
「ふふ、あのね…、ハリス様に指のサイズを聞かれたのよ」
「──えっ?」
セリーナに言われた言葉にシェラルージェは息が止まった。
ハリー様が持ってきた指輪のサイズは、セリーナのだったの?
えっ? もしかしてハリー様の好きな女性ってセリーナだったの?
ハリー様が好きでもない女性の指のサイズなんて聞くはずもない………わよね、やっぱり。
あまりにも思いがけない事実に頭が何も考えられなくなっていた。
「それにハリス様の婚約話もなくなったそうよ」
それを言ったセリーナがあまりにも嬉しそうにしていて、シェラルージェにある考えが過ぎった。
──もしかして、セリーナもハリー様が好きなのではないのかと。
──シェラルージェが先にハリー様を好きと伝えてしまったから、優しいセリーナは何も言わずにシェラルージェを応援してくれていたのではないかと。
じゃなければ、ハリー様に指のサイズを聞かれてこんなに喜ぶはずないものね。
私だってハリー様に聞かれたら、期待してしまうもの。好意を持たれているのではないかと。
──ということは、2人は相思相愛なのね。
それが分かってしまって、シェラルージェはセリーナに返せる言葉がなかなか出てこなかった。
「そう」
本当はこの後に「良かったね」と続けるべきなのは分かっていた。
でも、すぐにセリーナのように出来なかった。だから、笑顔だけでも浮かべようと頑張った。
「ね、よかったわ」
シェラルージェのぎこちない笑顔を不思議そう見ながらも、セリーナはシェラルージェに笑いかけた。
それに対して先ほどよりは自然に笑顔を浮かべられた。
ハリー様の好きな女性がセリーナ以外だったら、シェラルージェも頑張ろうと思えた。
でも、セリーナに対しては頑張れない。
セリーナは美人で聡明で公爵令嬢で、昔からの友達でシェラルージェの大切な人なのだ。
ならば、シェラルージェはセリーナを応援しようと思った。
いつもさり気なく自分を押し殺して人のために動くセリーナが、珍しく自分の感情を表に出して本当に嬉しそうにしている。理由はそれだけで充分だった。
(セリーナに喜んでもらえるように心を込めて創るからね)
だから、2人が結ばれるまではハリー様を想っていてもいい?
すぐに気持ちを切りかえられそうにないから。
2人が結ばれるまでには気持ちの整理をつけるから、どうか許して欲しい。
ハリー様に気持ちを伝えようと用意していた腕輪をどうしようか考えながら、心の中でセリーナに言い訳していた。
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