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「美味しそうですね。姫様、運んでくださりありがとうございます」

 テーブルに並んだ料理の品々を見て、ライラは顔を綻ばせる。

「さっ、姫様。こちらにお座りください」

 示された先は姫様用の料理の前。

「いやいや、誰か来た時に困るでしょう」
「食事中になんて誰も訪ねてきませんよ。そんな礼儀のない人なんて」
「でもね、わからないじゃない? ここはレギナン国ではないんだもの」
「わかりました。今回食べて何もなかったら、次からは姫様は姫様用のお料理を召し上がってくださいね」
「うん、そうしよう」

 言い合いをしている間にも料理が冷めていっていることに気づいたシャンリリールとライラは互いに引いて先に食事を優先することにした。

「「いただきます」」

 スープを一口。
 少しぬるくなっていたが、とても美味しかった。

「少し冷めていますね。調理場はここからかなり遠いところにあるのですか?」
「そこまでは遠くなかったよ。10分くらい?」
「10分。では混んでいて待ち時間が長かったのですか?」
「うん? うーん、まあ、そうだね。毒見してたから」
「ウッ、ゴホッ、ゴホッ」
「大丈夫?」

 ライラに水を差しだすと、呼吸を整えたあと一息に飲み干す。

「毒見ですって?!」
「そうなの。びっくりだよね」
「びっくりどころではありません。……姫様が召し上がっている料理は毒見済みですか?」
「こちらはしてないよ」
「?! してないよ、ではないでしょう。吐き出してください」
「だ、大丈夫だよ。ほら、苦しくないし」
「何かあってからでは遅いのですよ。のんきに笑っている場合ではありません」
「でもね、大丈夫だと思ったんだよ」
「………………姫様がそう思われたのなら信じます。ですが、それでも私に一度毒見をさせてください。私の心の安寧のために」
「わかった。お願い」

 ライラはシャンリリールの前に置かれた料理を一口ずつ食べては確認していく。
 毒を盛るにしても、侍女の食事には入れないだろう。だから侍女用の料理の方が安全だと分かっている上で、それでも自分の舌で確認してからシャンリリールに食べてほしいのだろう。

「それにしても、毒見なんてしているとは思いませんでした」
「本当にね」
「この国では毒を警戒しなければならないほど、殺伐としているのですね」
「うーん、形式的なものみたいだったけれど。でも、ちょっと寂しいね。人を疑わなければならないなんて」
「レギナン国が特殊なのだと他国出身者から言われてもどこがと思ってきましたが、今やっと理解した気がします」
「そうだね。レギナン国ではそんな心配したこともなかったものね」

 城で働く者はみんな家族。
 レギナン国ではそれくらい身近で親しみがあって気安かった。
 そして城の外で暮らしている人達は親戚縁者くらいの距離感。
 大きく括れば国民すべては家族。
 そのように思っていたし、そのような間柄だった。
 でも、フィナンクート国は違うようだ。
 それでも。

「みんなと仲良くなりたいな」
「そうですね。ゆっくりと仲良くなっていきましょう。時間はあります。まずは元に戻らなければ」
「そうだね。まずはそれからだった。……そうだ、前に話した精霊に会ったの」
「前と言うと、助けを求めてきた精霊ですか?」
「そう。お城の外れに緑豊かな場所があってね、そこ、すごく気持ちのいい場所だったの。で、一際大きい樹の近くにいたんだ。あ、そこで国王陛下にも会ったんだけど」
「ええっ! 大丈夫だったのですか?」
「ばれてはいないよ」

 子供らしくないとは思われたけれど。

「それはひとまず良かったですね。それで姫様はその精霊に会いに行くのですね」
「うん。まずは話を聞いてみないと、何をすればいいかわかないから」
「会えて良かったですね」
「うん。そちらは一歩前進できたけれど、……ライルからの連絡はまだない?」
「定期連絡は届いていますが、進捗状況は芳しくないようです」
「そう。わたしも精霊に会ったのは1人だけだからね……」
「困りましたね」
「困ったね」

 同時にため息がこぼれて、顔を見合わせる。

「もしかしたら、今日精霊に会った場所にいるかもしれないし。そこで他の精霊がいないかも探してみる」
「そうですね。1人居れば、2人3人居てもおかしくないですから」

 やっと出会えた精霊。
 小さいけれど、手掛かりは掴んだ。
 ならばあとは動くのみ。
 やることがはっきりしたので、食べることに集中することにする。

「美味しい」
「いつか温かいまま食べられるといいですね」
「ほんとだね」

 冷めても美味しいけれど、熱々のほうがもっと美味しいことだろう。
 毒見なんてしなくてもいい国にしたいものだ。



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