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18 ライルはやはりできる人

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「シャンリリール様、国内の高位貴族からシャンリリール様に仕えたいというご令嬢の推薦状が届いておりまして、何人か侍女として側に置いていただけませんでしょうか。最悪1人でも構いません。要望を聞き入れたという事跡が残ればいいので。必要ないとは存じておりますが、お選びいただけませんでしょうか」

 ハロルゼンが気の乗らない様子で話し始めた内容に、シャンリリールは表情を変えないように気をつけた。
 聞いた瞬間、ただ困ると思った。
 今は極力、城勤めの侍女を部屋から排除する形で対応している。
 療養の名目で姫は部屋から出ないようにしているし、部屋の中の仕事はリリがしていることにしてライラがしている。十分事足りているからと言って、部屋の中に入るのは遠慮してもらっていた。
 でも、ハロルゼンのこの話しようでは確実に姫の側にはべる侍女を置きたいと言っている。

「ご令嬢ではあられますが侍女として入るのです。存分に仕事をしていただいてください。何もしたことのないご令嬢ですから、慣れぬ仕事をして、そのうち音を上げて実家に帰るかもしれません」

 なんか笑顔で怖いことを言ってるよ? この人。
 これはすぐに追い出したいという意味? それとも鍛えてほしいという意味なのだろうか。
 ここまでいうほど、推薦されてきたご令嬢方は問題のある人たちということなのだろうか。
 会うのは不安でしかないのだけれど。
 そんな人達が側にいる状態が続くのは、隠し事をしているシャンリリール達には困ったことになってしまう。
 しかし、そんな問題がありそうでも断れずシャンリリールのところに話を通してきたということは、シャンリリールも断れないということだろう。
 ライラに視線を合わせると頷きが返った来たので、了承の返事を返す。

「姫様は侍女を選ばれると申しております」
「ご了承いただきありがとうございます。つきましては、早急ではございますが、明日面談のお時間を頂戴したく思っておりますがよろしいでしょうか」
「はい。差し支えございません」
「時間は後ほどご連絡いたします。それでは失礼いたします」

 急いでいるのか用件を伝え終えたら、すぐに立ち上がった。

「お待ちください。お願いしたいことがございまして」
「どのようなことでしょうか?」

 ハロルゼンは上げかけていた腰を下ろし座り直した。

「そろそろ城下町も見て回りたいと思っておりまして、わたくしの外出を許可していただきたいのです」
「リリ殿お一人ででしょうか?」
「はい」
「……お一人では危ないので、護衛をつけさせてください」
「そんな! 侍女ですから1人でも大丈夫です」
「リリ殿は一人前の侍女であることは理解しておりますが、見た目はまだか弱くもあり幼くもございます。城下町はお一人で歩けるほど治安はよくありません。護衛が駄目であるなら、明日選ぶ侍女を代わりに使ってください」
「わかりました。護衛をつけます」
「では、護衛はこちらで手配いたしますので、外出の際は事前にご連絡ください」
「わざわざ護衛を手配していただかなくても、マーテルもゲルギもおりますから」
「そのお二方はシャンリリール様のお側を離れられないのではございませんか?」

 ああ、そうだった。
 言われてから気づくなんて!
 今はライラが姫に扮しているのだから、ライラの側を離れるわけにはいけないんだった。
 必然的にハロルゼンの言うとおりにしなければいけないということだ。

「その通りでございます」
「ご納得いただけたようで何よりです。手配した護衛を伴えば、いつでも外出なさっていただいても構いません」
「ありがとうございます」

 護衛はつくけれど、外出の許可がもらえたことで良しとしよう。
 
  ◇◇

 翌日、伝えられた時間ちょうどに、ハロルゼンは10名の美しく着飾ったご令嬢を伴って現れた。
 なんか、ライラが着ているドレスよりも派手だ……ね。
 キラキラと輝く集団にシャンリリールは圧倒された。
 ライラが着ているドレスはレギナン国から持ってきたドレスだ。だから、レギナン国仕様のシンプルなドレスとなっていた。使っている生地自体は高品質ではあるが、装飾は刺繍がメインで全体的にすっきりとして見える。
 しかし前にも思ったけれど、フィナンクート国のドレスは宝石を散りばめる装飾が主流のようだ。
 ナルレイシアを除いて、今日まで城内でドレスを着たご令嬢に会ったことはなかったので、目の前に並ぶご令嬢たちのドレスに驚きを隠せなかった。
 城内で働く女性はドレスを着てはいたけれど、仕事をするために与えられた装飾を施していない制服を身に着けていた。
 働いている人とそうでない人とでここまで違うことに驚いてしまったのだ。
 もしかしなくても、今誂えてもらっているシャンリリールのドレスはこの様なキラキラ仕様になるのだろうか。

「シャンリリール様、侍女候補を連れてまいりました。お気に召した者をお選びください」
 
 そう言うと、右端から順番に親の爵位とご令嬢の名前をシャンリリールたちに紹介していく。
 紹介されていくご令嬢はいずれも侯爵や伯爵といった高位貴族のご令嬢ばかりだった。
 この中から選べと言われても、ライラがシャンリリールの代役を務めている以上、事情の知らない者を側に置くことはできない。
 困っていると、侍女候補の中に見知った人物がいた。

「ライラ?」

 いや、女装したライルが混じっていた。

「リリ殿、お知り合いの者でもいましたか?」
「は、はい」

 ハロルゼンがライルに視線を向けると、ライラに扮したライルが頭を下げる。

「ライラ・サリーゼ様。なるほど。生まれはレギナン国ですか」

 持っていた資料を確認して、ハロルゼンはライルに確認をとる。

「はい。シャンリリール様と共に来たライルの双子の妹でございます。私は生まれてすぐにフィナンクート国の親戚に養子に出されました。そして年に数回レギナン国に里帰りしておりました。兄のライルがシャンリリール様の護衛となった折、ご縁でシャンリリール様とも数回お会いしたことがございます」
「なるほど。それでシャンリリール様と面識があるのですね」

 なるほど。そういう設定なのね。
 ライルの説明にハロルゼンとともに内心で頷く。

「シャンリリール様。侍女はこの者になさいますか? まったく知らない者よりは安心できるでしょう」

 姫に扮したライラが頷く。
 シャンリリールはライラに伝言を聞いたように耳を近づけてから、ライルに向き合った。

「侍女はライラ様にお願いしたいと姫様が申しております。ライラ様、シャンリリール姫様の侍女になっていただけますか?」
「謹んでお受けいたします」

 ライルがライラの前で膝をつく。

「それでは侍女はライラ様に務めてもらう。ライラ様以外はお帰りください」

 ハロルゼンの言葉に不満げな表情を浮かべたご令嬢たちは、一瞥をくれたあと部屋を出て行った。

「シャンリリール様。ライラ様の侍女の手続きをして参ります。このままライラ様をお預けしてもよろしいでしょうか」

 ハロルゼンの言葉にライラが頷く。
 それを確認して、ハロルゼンも部屋を出ていった。
 完全に部屋の中にシャンリリールとライラ、ライルだけになったのを確認してから、肩の力を抜いた。

「一時はどうなるかと思った」
「まったくです。事前になんの連絡もないとはどういうこと?」
「いやー、ライラとして潜り込むタイミングが今しかなくて。準備期間が短くて根回しで精一杯だったんだよ。それに姫様とライラならわかってくれると思ったしさ」

 悪びれもせず言い切った。
 確かにとても助かった。
 それにこれでライラも動けるようになった。
 結果は上々といったところだろう。

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