13 / 29
13 避難所?
しおりを挟む町の人達を連れて、マルロ部隊長の天幕まで移動する。
他の魔法騎士達は通常の雑用があるので、各々散らばっていった。
天幕の中には町の人達とマルロ部隊長、ディルユリーネ、ジルヴァンがギュウギュウとひしめき合っていた。
狭い中、この騒ぎの概要を知るためにメッツァー隊長に話しかけていた女性を探す。
まずは話を聞いてからでないと何も始められない。
「それで皆さんは何故駐屯地に来たのですか?」
ディルユリーネはメッツァー隊長に必死に言い募っていた女性に近づいて問いかけた。
私達を手伝いたいというのは聞いたけれど、何故そういう考えに至ったのかが全然分からなかった。ディルユリーネがこの駐屯地に来てから、食材を届けに来る者以外一度も町の人達は近寄ることがなかった。何故今になって急に駐屯地に近寄る気になったのだろうか。
駐屯地が世話になっている町はヒュドネスクラ国へと続く街道沿いにある最後の町だった。その為、程ほどに品物が揃っている大きめな町だった。
町の人達は、駐屯地にいる騎士達が戦争を終わらせるために居るわけではないことを理解しているはずだった。3年も経てば、騎士達が何をしているかなど嫌でも分かるだろう。毎日野菜や肉などを届けてもらっているし、その時に寛いでいる騎士達の姿を見れば、どんなに鈍い人でも事実を知ることになる。
口では何も言わないけれど、町の人達から好かれていないのは肌で感じていた。どちらかというと憎まれているかもしれなかった。
ヒュドネスクラ国の被害に遭っているのが、町の人達や行商人だったからだ。
だからこそ、町の人達が手伝いたいと言ってきたことに驚いた。
「そちらにいるジルヴァン君が駐屯地では困っている国民を受け入れてくれると言っていたものですから」
にこやかに笑って女性が理由を説明してくれる。
なるほど?
町の人々が突然訪ねてきたのはジルヴァンが言った言葉に因るものだということが判明した。しかも間違ってはいないけれど、違った意味で伝わってしまったと。
確かに困っている人を助けているとは言った。それは襲われているときの事を示していたのだけれど。
けれど考えようによっては絶好の機会なのかもしれない。
今までは襲われている人は助けられるけれど、その後の世話までは手を出せなかった。けれど今回は運良くメッツァー隊長の許可が下りたため、誤魔化しながらなら手を貸せるかもしれない。
治療が不十分だった人を治せるかもしれない。
町には教会がない。だから町の人達は治癒魔法を受けられない。
治癒魔法は、本来教会で然るべき手続きを取って料金を支払った上で受けられるものだ。だから治癒魔法は無償で行うことは禁止されている。
勿論普通に生活していての怪我ならば、ディルユリーネが口出すべきではないのは分かっている。けれど、戦争に巻き込まれての怪我ならば国の騎士団である治癒魔法騎士が治してもいいのではないかと思う。いや、ディルユリーネはずっと治したかった。
今までも戦闘地で出来る限り治癒魔法で治してきたけれど、それでもディルユリーネが駆けつけられなかったとき等はそのまま放置されていたらしい。それを聞いたときに戦闘地に行けなかったことを悔やんだ。
だから、助けて欲しくて駐屯地に来たというなら理解できるけれど、目の前の女性達は手伝いたいと言っていた。それはどういうことなのだろう。
「手伝いたいと先ほどは言っていたと思うのですが?」
「ええ、私達女性陣はお手伝いがしたくて参りました。男性の多くは行商をされている方達で怪我が治るまでお世話になりたいそうなのです。その謝礼として扱っている商品を融通させていただくことでお許し頂きたいと申しています」
「分かりました。それで構いません。ただし、私とマルロ部隊長以外の者には、先ほどと同じく手伝いに来たと言うようにしてください。それ以外の理由で駐屯地に滞在する許可は下りていませんので。それが知られてしまった時点で皆さんの立場を守る事が出来なくなります」
「ありがとうございます。皆にもしっかりと伝えます。宜しくお願いいたします」
「こちらこそ宜しくお願いします。ああ、申し遅れました。私はディル。ディルと呼んでください。そしてあちらにいるのがマルロ部隊長です」
少し離れたところで男性の町の人達と話しているマルロ部隊長を指し示す。
目の前の女性はマルロ部隊長の方を確認した後、ディルユリーネを真っ正面から見つめ返す。
「わたしはルルメと申します。ディル様、どうか宜しくお願いいたします」
深々と一礼したあと、ルルメさんはにっこりと微笑んだ。
その可愛らしい容姿に浮かぶ可憐な笑顔に惹きつけられる。こんなに可愛い女性がどうしてこんな男の巣のような場所に来たのだろうか。危ないと思わなかったのだろうか。
ルルメさんと一緒に来た女性の大半が美人だったり可愛らしかったりで、魅力的な女性達ばかりで皆の身が危ないように思えた。
だからこそメッツァー隊長が許可したということかもしれないのだけれど。
いかにして女性達を守るのかが課題になりそうだ。
「ルルメさん達は通いで来るのですか?」
「出来れば、こちらで寝起きも共に出来たらと思っています」
「町で暮らしているのではないのですか?」
「はい。ですが、お手伝いするのなら寝食を共にした方がいいと思いまして。あっ、行商人の方達は宿で泊まっている人達なので、駐屯地に寝泊まり出来た方が経済的だと言っていました」
「ああ、……ふふ、そうですね。商売の人達はまず金勘定が先ですものね」
「えっ?」
「ああ、いいえ。分かりました。全員分の寝床と食事が必要になるということですね」
領地にいた頃の屋敷に出入りしていた商人を思い出して、その頃の口調に戻ってしまっていた。
すぐに戻したからディルユリーネが女だとは気づかれてはいないと思うけれど、気をつけなければ。町の人達がどうということではないけれど、どこから漏れるか分からないのだから。メッツァー隊長達にだけは知られたくない。
「はい。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。何でも仰ってください」
「分かりました。マルロ部隊長と話し合いますので、待っていてください」
「はい」
ルルメさんの元を離れて、マルロ部隊長のところに行く。
マルロ部隊長も町の男性から話を聞き終わったらしく、ディルユリーネを手招きした。
「ディル、話は聞き終わったかい?」
「はい。事の発端はヴァンの言動だったようですが、結果的に怪我をしている人に治癒魔法をかけられる機会が出来たことは良かったと思います」
「そうだね。ディルはずっと気に病んでいたからね」
マルロ部隊長にはディルユリーネの葛藤も全てお見通しだった。
「それで皆さん全員が駐屯地で寝食を共にしたいと言っています」
「そうみたいだね。駐屯地の軍事費は使えないから、お金をかけずに準備しないといけないけれど。大体のものは行商人の人達からもらい受けることで事足りそうだよ。あと必要なのは食材だろうね」
「分かりました。腕のたちそうな人を連れて森へ行ってきます」
「宜しく頼むね」
「はい」
頭の中で人選を練りながら、控えていた町の人達を見回した。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
私のスローライフはどこに消えた?? 神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!
魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。
なんか旅のお供が増え・・・。
一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。
どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。
R県R市のR大学病院の個室
ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。
ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声
私:[苦しい・・・息が出来ない・・・]
息子A「おふくろ頑張れ・・・」
息子B「おばあちゃん・・・」
息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」
孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」
ピーーーーー
医師「午後14時23分ご臨終です。」
私:[これでやっと楽になれる・・・。]
私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!!
なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、
なぜか攫われて・・・
色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり
事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!!
R15は保険です。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる