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11 初出撃の後 Ⅱ

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洗濯物を干し終わり、炊事場でマルロ部隊長とジルヴァンの食事をもらって、ジルヴァンと共に天幕へ戻る。

「戻りました」
「お疲れ様。ああ、ヴァン君も戻ったんですね。ヴァン君もお疲れ様」

まだ山のような書類に囲まれて書類作業をしていたマルロ部隊長は、ディルユリーネ達を見て労うように笑った。

「マルロ部隊長の食事をもらってきました。食事にしませんか?」
「そうだね。ありがとう」

一旦仕事の手を止めてテーブルに近づいて来たマルロ部隊長は、テーブルの上に2人分の食事しかないことに眉を下げた。

「そういえば、ディルは食事抜きと言われていたね」
「はい」
「……すまないね。うまく隠せなくて」
「今日は仕方ありません。あの場で治癒魔法を使わないという選択肢はありませんでしたから」
「そうだけれどね……」

後悔を滲ませて落ち込むマルロ部隊長にディルユリーネは笑いかける。

「今日はヴァンが送っていった女性から果物をもらったようで、ほら、こんなにたくさんあるんですよ」

マルロ部隊長に見えるように、果物が入った袋の口を開けながら1つ手に取る。

「これだけあればお腹いっぱいどころか、食べきれないくらいですよ。はい。マルロ部隊長もお一つどうぞ」
「……ありがとう」
「私はあとでこれをいただきますから、お気になさらずに召し上がってください」

前にマルロ部隊長が一人だけ食べるのは申し訳ないと言って、マルロ部隊長の分の食事を半分頂いたことがあった。その時にたまたまメッツァー隊長が訪ねてきて、ディルユリーネが食事をもらっているのを見て命令違反行為だと言って、食事が取り上げられた。マルロ部隊長も同罪だといい、その後3日間食事抜きになった。それを憐れに思った他の魔法騎士がメッツァー隊長に内緒で食事を差し入れしようとしたところ、メッツァー隊長に運悪く見つかり、危うく魔法騎士全員の食事がなくなるところだった。魔法騎士の食費は軍事費から賄われているので、それを差し止められてしまうと食事もままならなくなってしまう。そんな経緯があったため、食事抜きになったときには、互いにその時は耐えようという意見でまとまった。助けたことで共倒れになり、フラフラになりながら戦闘に駆り出されてしまえば、動きが鈍くなり下手をすれば死ぬような怪我を負うことにもなりかねないからだ。
そんなわけで誰かに食事をもらうわけにはいかないのだった。

「私はこの果物を他の魔法騎士達にも渡してきますので、先に召し上がっていてください」
「……わかったよ。行ってらっしゃい」
「はい。ヴァンもしっかり食べてくださいね」
「……わかった」

ジルヴァンも納得いかない顔をしていたけれど、マルロ部隊長が説明してくれるだろう。
他の魔法騎士達にまで被害を拡大させるわけにはいかない。納得できなくても飲み込んでもらうしかなかった。

魔法騎士達の天幕へとひとつひとつ訪ね、果物を渡していく。
今日助けた女性からのお礼だと伝えて渡せば、皆嬉しそうにしていた。駐屯地での扱いが酷くて自信が無くなっていくけれど、やはり誰かからの感謝の気持ちを向けられれば嬉しくなり頑張ろうと思える。活力に繋がるのだ。
皆の嬉しそうな顔を見て、持っていって良かったと思えた。

魔法騎士達に渡し終わり、帰りに風呂場から湯をもらって、マルロ部隊長の天幕へ戻る。

「戻りました」
「お帰り」

すでに2人の食事は終わっていた。
2人は楽しそうに会話をしていて、マルロ部隊長も見たことないくらい朗らかな表情をしていた。

マルロ部隊長はディルユリーネが抱えている湯を見て、頷いてくれた。

「ヴァン君、さっきの話の続きを教えてくれるかな」
「おう。いいぞ」

マルロ部隊長とジルヴァンの声を後ろ手に聞きながら、ディルユリーネは布で仕切られた自身に与えられた自室空間に入る。
マルロ部隊長がジルヴァンの気を引いているうちに、もらってきた湯で身体の汚れを落とさなければならない。マルロ部隊長はディルユリーネが女性だと知っているから絶対に入ってくることはないとわかっているが、ジルヴァンはどうなるか分からない。その緊張感があり、若干拭く手が震える。それでもどうにか拭き終え、身支度を整え終わったときには深いため息が口から漏れた。
(なんか疲れた……。久しぶりに……)
今までマルロ部隊長にどれ程の安心感をもらっていたのかよくわかった。

湯を持って出れば、まだ楽しそうに会話していた。
ジルヴァンを見て、そういえばジルヴァンはどこで寝るのだろうという疑問が頭を過ぎった。
マルロ部隊長はディルユリーネが出てきたことに気づいたようだった。

「そろそろ寝る時間ですね──」

マルロ部隊長はそう言葉を続けて、ディルユリーネと同じ疑問に辿り着いたらしく固まった。
ジルヴァンは周囲を見渡し、自分の寝床が無いのを確認したようだ。

「儂はディルのところでいいぞ?」

ジルヴァンが発した言葉でディルユリーネは固まった。

「ディルの方が身体が小さいだろ?」
「……そうですね」
「儂は寝相はいいぞ?」

そこが問題ではないんだけれどね、ジルヴァン。
マルロ部隊長もうまい言い訳が思いつかないのか、思案げにしながらもマルロ部隊長の口から代替案が出てこなかった。
マルロ部隊長がディルユリーネと寝床を一緒にすることも出来ず、かといって他に眠れる寝床も今更用意も出来ず、ディルユリーネが女性だということも伝えられないから八方塞がりだった。
これはもう今夜ひと晩だけどうにかやり過ごすしかないのではないのだろうか。
逡巡したのちディルユリーネは覚悟を決めた。

「今日は私と同じ寝床を使ってください。明日にはヴァンの寝床をちゃんと用意しますから」
「おう。悪いな」
「いいえ」

ジルヴァンに返事を返しながら、マルロ部隊長からの心配そうな視線を感じた。
マルロ部隊長の心配は分かる。けれども、今は断る理由が思いつかないのだからしょうがないと思うしかない。
マルロ部隊長に大丈夫ですと伝えるために笑いかける。
ディルユリーネの笑顔に、それでも心配そうな瞳で見つめるマルロ部隊長だったけれど、やはりいい案が浮かばないのだろう。一度息を吐くと申し訳なさそうに頷いた。

「ディル、申し訳ないけれど今夜ひと晩頼むよ」
「わかりました」

ディルユリーネは頷くしかなかった。


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