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第1章
44 ユリベルティス殿下の求婚
しおりを挟む今にも掴みかかりそうなラオスとイラザを見て、ルティスは笑みを浮かべながら落ち着いた声で話し続ける。
「落ち着いて聞いてください」
「ふざけたこと言われて黙ってられるわけないだろ!」
「本当ですよ」
ルティスの言葉は2人の怒りに油を注いだだけだった。
「王子様がそう簡単に結婚相手決められるわけないだろ!」
「そんなことはありませんよ。私は第二王子ですし、陛下からも人族以外の者との婚姻を薦められていますから」
「そちらがどういうつもりでもシャウには関係ないでしょう」
「そんなことはありません。シャウには呪いを直接触って治せる稀有な力がある。ですから私にはシャウを護る義務があります。その為には結婚した方が確実に護れますからね」
僕を護るための求婚ということだろうか。
だからといって突然結婚話というのはどうかと思うんだけどな。
「そんなことしなくてもシャウは護れる」
「そうです。俺達が護ります」
その2人の言葉を聞くと、ルティスは困ったように笑った。
「今の獅子族ではシャウを護れないでしょう?」
「何だって?!」
「っ!? ──俺と決闘しなさい!!」
ラオスとイラザが毛を逆立て怒りを表していた。
そこに父さんが気の抜けるような声をかける。
「あー、そういうことは帰ってからにしろ」
何故か父さんは呆れたように頭を掻いている。
「何故ですか!?」
「今すぐ獅子族では駄目だと言ったことを後悔させてやらなければ気が済みません」
ラオスとイラザの怒りは頂点に達したままだった。
獅子族をこけにされたままでは怒りも抑えられないのだろう。
その気持ちは僕にもよくわかる。だからこそ、どうしてもラオスとイラザを止めることが出来なかった。
それよりも父さんの方が、ルティスの言葉に何も思わなかったのだろうか。
「状況を考えろ。こんなところで動けないやつが増えればどうなるかくらい血が上っているお前達にも解るだろう?」
父さんの問いに2人がすぐに答えなかった為、父さんから怒気が現れ始めた。
「それとも何か? 俺にお前達を運べと言っているわけじゃないよな?」
父さんの怒気が空気を震わせていた。
父さんはとても冷静に現状をみていたようだ。
確かに魔物の出るところで決闘など行うべきではない。そんな当たり前のことに気づけないほどラオスもイラザも僕も頭に血が上っていたらしい。
父さんに言われた言葉で流石にラオスとイラザも正気に返ったようだ。
ばつの悪い顔をしていたけれど、怒りはまだ収まってはいないようで悔しげに唇を噛んでいた。
「ガルアさん、帰ったらユリベルティス殿下との決闘を許可して頂けますか?」
「いいが、ユリベルティス殿下が受ければの話だ」
イラザの確認の言葉に父さんはルティスの返事次第だと答えた。
それを聞いたラオスとイラザはルティスに向き直り、
「ユリベルティス殿下、俺の決闘を受けてもらえますか」
「ユリベルティス殿下、俺との決闘を受けて頂けますか」
挑戦状を叩きつけていた。
それを受けたルティスは、久しぶりに蠱惑的な笑みを浮かべる。
その笑みにシャウは本能的に気圧された。
喰われる。そう感じ取れる雰囲気を纏っていた。
「宜しいですよ。その決闘お受けしましょう」
ルティスの言葉に父さんが頷く。
「では詳細は帰ってからにしましょう」
「そうですね」
「じゃあ、もう行くぞ。早く帰らないと日が暮れる。どちらでもいいからシャウを背負え」
父さんの指示に全員が無言で動き出す。
暗黙のうちに決まったのかラオスが先に僕を背負ってくれるみたいだった。
ラオスの背中に背負われながら、みんなの様子を盗み見る。
誰も一言も喋らずに、街に向かう足音だけが響いていた。誰の表情にも今は何も浮かんでいなくて、誰がどう思っているのか解らずにシャウは戸惑っていた。
どうなってしまうのだろう。
シャウの結婚話から始まった話だったはずなのに予測の範囲外に話が進んでしまって、自分のことのはずなのに現実感がまったくなかった。
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