シャウには抗えない

神栖 蒼華

文字の大きさ
上 下
44 / 67
第1章

44 ユリベルティス殿下の求婚

しおりを挟む

今にも掴みかかりそうなラオスとイラザを見て、ルティスは笑みを浮かべながら落ち着いた声で話し続ける。

「落ち着いて聞いてください」
「ふざけたこと言われて黙ってられるわけないだろ!」
「本当ですよ」

ルティスの言葉は2人の怒りに油を注いだだけだった。

「王子様がそう簡単に結婚相手決められるわけないだろ!」
「そんなことはありませんよ。私は第二王子ですし、陛下からも人族以外の者との婚姻を薦められていますから」
「そちらがどういうつもりでもシャウには関係ないでしょう」
「そんなことはありません。シャウには呪いを直接触って治せる稀有けうな力がある。ですから私にはシャウを護る義務があります。その為には結婚した方が確実に護れますからね」

僕を護るための求婚ということだろうか。
だからといって突然結婚話というのはどうかと思うんだけどな。

「そんなことしなくてもシャウは護れる」
「そうです。俺達が護ります」

その2人の言葉を聞くと、ルティスは困ったように笑った。

「今の獅子族ではシャウを護れないでしょう?」
「何だって?!」
「っ!? ──俺と決闘しなさい!!」

ラオスとイラザが毛を逆立て怒りを表していた。
そこに父さんが気の抜けるような声をかける。

「あー、そういうことは帰ってからにしろ」

何故か父さんは呆れたように頭を掻いている。

「何故ですか!?」
「今すぐ獅子族では駄目だと言ったことを後悔させてやらなければ気が済みません」

ラオスとイラザの怒りは頂点に達したままだった。
獅子族をこけにされたままでは怒りも抑えられないのだろう。
その気持ちは僕にもよくわかる。だからこそ、どうしてもラオスとイラザを止めることが出来なかった。
それよりも父さんの方が、ルティスの言葉に何も思わなかったのだろうか。

「状況を考えろ。こんなところで動けないやつが増えればどうなるかくらい血が上っているお前達にも解るだろう?」

父さんの問いに2人がすぐに答えなかった為、父さんから怒気が現れ始めた。

「それとも何か? 俺にお前達を運べと言っているわけじゃないよな?」

父さんの怒気が空気を震わせていた。
父さんはとても冷静に現状をみていたようだ。
確かに魔物の出るところで決闘など行うべきではない。そんな当たり前のことに気づけないほどラオスもイラザも僕も頭に血が上っていたらしい。

父さんに言われた言葉で流石にラオスとイラザも正気に返ったようだ。
ばつの悪い顔をしていたけれど、怒りはまだ収まってはいないようで悔しげに唇を噛んでいた。

「ガルアさん、帰ったらユリベルティス殿下との決闘を許可して頂けますか?」
「いいが、ユリベルティス殿下が受ければの話だ」

イラザの確認の言葉に父さんはルティスの返事次第だと答えた。
それを聞いたラオスとイラザはルティスに向き直り、

「ユリベルティス殿下、俺の決闘を受けてもらえますか」
「ユリベルティス殿下、俺との決闘を受けて頂けますか」

挑戦状を叩きつけていた。
それを受けたルティスは、久しぶりに蠱惑的な笑みを浮かべる。
その笑みにシャウは本能的に気圧された。
喰われる。そう感じ取れる雰囲気を纏っていた。

「宜しいですよ。その決闘お受けしましょう」

ルティスの言葉に父さんが頷く。

「では詳細は帰ってからにしましょう」
「そうですね」
「じゃあ、もう行くぞ。早く帰らないと日が暮れる。どちらでもいいからシャウを背負え」

父さんの指示に全員が無言で動き出す。
暗黙のうちに決まったのかラオスが先に僕を背負ってくれるみたいだった。
ラオスの背中に背負われながら、みんなの様子を盗み見る。
誰も一言も喋らずに、街に向かう足音だけが響いていた。誰の表情にも今は何も浮かんでいなくて、誰がどう思っているのか解らずにシャウは戸惑っていた。

どうなってしまうのだろう。
シャウの結婚話から始まった話だったはずなのに予測の範囲外に話が進んでしまって、自分のことのはずなのに現実感がまったくなかった。





    
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

ケダモノのように愛して

星野しずく
恋愛
猪俣咲那は画家である叔父の桔平の裸婦モデルをしている。いつの頃からか、咲那は桔平に恋心を抱くようになっていた。ある日、いつものようにアトリエを訪れた咲那は桔平と身体の関係を持ってしまう。しかし、女性にだらしない桔平は決まった彼女は作らない主義だ。自分の気持ちは一方通行のままなのだろうか…。禁断の恋を描いた「おじさまシリーズ第二弾!」

つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福

ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨ 読んで下さる皆様のおかげです🧡 〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。 完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話に加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は是非ご一読下さい🤗 ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン♥️ ※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。

【完結】後宮の秘姫は知らぬ間に、年上の義息子の手で花ひらく

愛早さくら
恋愛
小美(シャオメイ)は幼少期に後宮に入宮した。僅か2歳の時だった。 貴妃になれる四家の一つ、白家の嫡出子であった小美は、しかし幼さを理由に明妃の位に封じられている。皇帝と正后を両親代わりに、妃でありながらほとんど皇女のように育った小美は、後宮の秘姫と称されていた。 そんな小美が想いを寄せるのは皇太子であり、年上の義息子となる玉翔(ユーシァン)。 いつしか後宮に寄りつかなくなった玉翔に遠くから眺め、憧れを募らせる日々。そんな中、影武者だと名乗る玉翔そっくりの宮人(使用人)があらわれて。 涼という名の影武者は、躊躇う小美に近づいて、玉翔への恋心故に短期間で急成長した小美に愛を囁いてくる。 似ているけど違う、だけど似ているから逆らえない。こんなこと、玉翔以外からなんて、されたくないはずなのに……――。 年上の義息子への恋心と、彼にそっくりな影武者との間で揺れる主人公・小美と、小美自身の出自を取り巻く色々を描いた、中華王朝風の後宮を舞台とした物語。 ・地味に実は他の異世界話と同じ世界観。 ・魔法とかある異世界の中での中華っぽい国が舞台。 ・あくまでも中華王朝風で、彼の国の後宮制を参考にしたオリジナルです。 ・CPは固定です。他のキャラとくっつくことはありません。 ・多分ハッピーエンド。 ・R18シーンがあるので、未成年の方はお控えください。(該当の話には*を付けます。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

処理中です...